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(独)産業技術総合研究所 (独)産業技術総合研究所のホームページへ
ポリA配列をmRNAに付加するRNA合成酵素の特異性を分子レベルで解明 ( 2011/5/9 )
− 鋳型を用いずにRNAを合成する酵素の開発に期待 −

ポイント
?mRNAの末端にポリA配列を付加する酵素(ポリA付加酵素)の特異性の分子レベルでのメカニズムは不明であった
?ポリA付加酵素は基質であるATPを活性触媒部位の形と大きさ、ひとつの水素結合で認識
?鋳型を用いずに定まった配列を合成できるRNA合成酵素のデザインにより新しい医薬の開発に期待
概要
 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 野間口 有】(以下「産総研」という)バイオメディカル研究部門【研究部門長 織田 雅直】RNAプロセシング研究グループ 富田 耕造 研究グループ長らは、鋳型非依存性RNA合成酵素のうち、mRNAの末端へポリA配列を合成付加する真正細菌由来のポリA付加酵素の構造を決定し、基質特異性を規定する分子機構を明らかにした。

 細胞内のmRNAは通常、DNAから転写された後、その末端に、DNA上の配列とは無関係に数十から数百のアデニンヌクレオチド(ポリA配列)がポリA付加酵素と呼ばれる鋳型非依存性RNA合成酵素によって付加される。mRNAのポリA配列は、RNAの安定性や、翻訳などに関わっており、遺伝子発現に重要な役割を果たしている。なお、ポリA付加酵素を含む多種多様な鋳型非依存性RNA合成酵素群が、欠陥RNAを積極的に分解して除去するRNA品質管理や多岐にわたる遺伝子発現に関与するノンコーディングRNAの発現制御などに関わっていることが知られている。しかしながら、ポリA付加酵素の基質に対する特異性の分子レベルでのメカニズムは不明であった。本研究により、RNA合成酵素のデザイン開発が加速され、鋳型非依存性RNA合成酵素の反応制御を解明することで新たな医薬開発への応用が期待される。本成果は、米国Cell出版社のStructure誌に掲載された。

※リンク先や写真、添付資料があります。詳細は下記URLをご覧ください。

http://www.aist.go.jp/aist_j/new_research/nr20110509/nr20110509.html


2009年度 大学・研究機関 特許資産規模ランキング、広島大学が7位に急浮上 ( 2010/5/31 )
株式会社パテント・リザルトはこのほど、「2009年度 大学・研究機関 特許資産の規模ランキング」を集計いたしました(※1)。このランキングの特徴は、特許の注目度を指数化する「パテントスコア」を用いることで、単純な件数比較では見られない、質的な観点を取り入れた評価を行っている点にあります。各大学・研究機関が保有する特許資産の強さを、質と量の両面から総合的に評価しました。

 これによると、上位3機関は1位 産業技術総合研究所(産総研)、2位 科学技術振興機構(JST)、3位物質・材料研究機構(物材機構)と前年と同じでした。これらの機関は保有特許件数が多く、「量」の面で4位以下との差を付けています。ただし、1件当たりで見るとこれら3機関の得点は高くなく、注目度の低い特許も多いことが伺えます。
 最も順位を上げたのは、7位の広島大学です。同大学の保有特許件数は、137件と必ずしも多くはありませんが、質の面で得点を上げ、上位にランクインしました。同大学の注目度の高い特許には、「データの保持特性が高い半導体メモリ」に関する技術や「高効率のデータ圧縮処理」に関する技術、「癌細胞の増殖を抑制する方法」に関する技術などがあります。 
 このほか、10位の九州大学、17位の東京大学などが、昨年度から大きく順位を上げました。
 上位20機関中で1件当たりの特許資産の規模が最も高いのは九州大学、次いで、岡山大学、東北テクノアーチとなっています。

【大学・研究機関 特許資産規模ランキング】
下記URL参照
【大学・TLO 特許資産規模ランキング】
下記URL参照

(※1)【ランキングの集計について】
 特許資産の規模とは、各大学・研究機関などが保有する有効特許を資産としてとらえ、その総合力を判断するための指標です。有効特許1件ごとに特許の注目度を評価する「パテントスコア」を算出した上で、スコアの高低が明確になるように重み付けを行い、それに特許失効までの残存期間を掛け合わせて、各機関ごとに合計得点を集計しています。パテントスコアの算出には、特許の出願後の審査プロセスなどを記録化した経過情報を用いています。経過情報には、出願人による権利化に向けた取り組みや、特許庁審査官による審査結果、競合出願人によるけん制行為などのアクションが記録されており、これらのデータを指数化することで、出願人、審査官、競合出願人の3者が、それぞれの特許について、どれくらい注目しているかを客観的に測ることができます。2010年3月末時点において有効特許を1 件以上保有している大学・研究機関を対象に集計しました。

http://www.patentresult.co.jp/news/2010/05/20097.html


研究職員採用について ( 2010/3/19 )
 産総研では、我が国の新成長戦略に貢献するために、経済と環境の両立・国民生活向上等に向けた研究開発や、計量標準の充実や地質情報の高精度化等による新時代の産業基盤の整備といった課題に取り組んでいきます。
 これらの課題に積極的に取り組む研究者を募集します。
□締め切り
  一次締め切り(※複数の公募課題へ応募する場合の締め切り):平成22年4月23日(金)必着
  二次締め切り:平成22年5月14日(金)必着
□採用予定人数
  産業技術人材育成型任期付研究員:合計で70名程度
うち5名程度、応募者の研究業績及び研究経験等により任期の定めのない定年制の研究職員として採用することがあります。
  研究テーマ型任期付研究員:合計で7名程度
  任期の定めのない定年制の研究職員:標準・計測分野の中から5名程度

□応募者の適性に応じて、応募した公募課題以外の公募課題においても審査を行うことがありますので、あらかじめご了承ください。

□応募時の提出書類に不足等の不備があった場合には、選考の対象外とすることがありますので、ご注意ください。

【研究分野別に参照する場合】
 研究分野を融合した公募案件もありますので、ご自身の専門の研究分野以外の研究分野の公募概要についても幅広く参照してください。
研究分野別
ライフサイエンス分野(掲載日:平成22年3月8日)
 バイオプロセス活用による高効率・高品質物質生産技術の開発
 先進的・総合的な創薬・医療技術の開発
 健康な生き方を創出する技術の開発

情報通信・エレクトロニクス分野(掲載日:平成22年3月8日)
 グリーンIT
 IT活用による安全/安心設計技術
 革新的情報デバイス技術
 サービス向き情報技術
 研究テーマ型任期付研究員
ナノテクノロジー・材料・製造分野(掲載日:平成22年3月8日)
 省エネルギーによる低炭素化技術の開発
 資源確保と高度利用技術の開発
 グリーンイノベーションの核となる材料やデバイスの構築技術の開発
 製造業の環境負荷低減技術の開発

環境・エネルギー分野(掲載日:平成22年3月8日)
 再生可能エネルギー技術
 電力変換エレクトロニクス・エネルギーネットワーク技術
 運輸システム省エネルギー技術
 定置用省エネルギー技術
 資源の確保と高度利用技術
 環境負荷低減技術
 安全性・環境・エネルギー評価技術
 研究テーマ型任期付研究員

地質分野(掲載日:平成22年3月8日)
 国土及び周辺域の地質基盤情報整備
 地圏の資源環境評価技術の開発
 地質災害の将来予測と評価技術の開発

標準・計測分野(掲載日:平成22年3月8日)
 高精度の計量標準と国家標準に関する研究開発
 先端的な計測技術の研究開発
 生産技術に必要な計測技術の研究開発

http://unit.aist.go.jp/humanres/ci/02koubo/main.html


分子をデザインしてタンパク質の安定性と親和性を向上 −穏やかな条件で抗体医薬の精製が可能に− ( 2010/3/17 )
ポイント
分子デザインにより、タンパク質の耐熱性や酵素分解耐性などを向上
抗体に対する親和性の制御など、分子認識機能の改変に成功
開発した新規タンパク質は、抗体医薬の精製工程での利用に期待

概要
 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 野間口 有】(以下「産総研」という)生物機能工学研究部門【研究部門長 織田 雅直】分子細胞育種研究グループ 本田 真也 研究グループ長らは、分子デザインにより、抗体の精製に用いるタンパク質を改変し、その安定性と親和性を向上させることに成功した。

 研究対象としたのは、各種の抗体の定常領域に親和性をもつプロテインGで、分子をデザインして改変することにより、耐熱性、化学薬品耐性、酵素分解耐性、抗体との親和性、pH応答性など、抗体の精製時に重要となる特性が向上した。プロテインGはこれまでも実験室レベルの抗体精製に用いられてきたが、今回の分子デザインによる改変によって耐久性が向上し、また、穏やかな条件での精製が可能になったため、抗体の工業的な製造用途にも適合できるようになった。今後、抗体医薬を製造する際の精製工程での利用が期待される。

 本成果の詳細は、2010年3月24日〜26日に中国北京市で開催される第2回国際抗体会議(ICA 2010)において、2010年3月25日(現地時間)に発表される。

http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2010/pr20100317/pr20100317.html


京都大学と産業技術総合研究所との連携協力の推進に係る協定の締結について ( 2010/1/19 )
 国立大学法人京都大学【総長 松本 紘】(以下、「京都大学」という)と独立行政法人産業技術総合研究所【理事長 野間口 有】(以下、「産総研」という)は、2010年1月19日、連携協力の推進に係る協定を締結しました。

 京都大学は創立(1897年)以来、自由の学風を継承・発展させつつ多元的な課題に挑戦し、地球社会の調和ある共存に貢献することを理念とし、高度な教育(知の伝承)、先端的な研究(知の創造)、社会貢献(知の社会還元)を実施しています。一方、産総研は1882年に創立された地質調査所をはじめとする産業技術系の旧国立研究所群を統合して2001年に創立した研究機関で、「持続的発展可能な社会の構築、技術を社会へ」という理念のもとに、産業競争力強化・産業技術政策の地域展開への貢献を目的に、基礎研究から製品化研究まで幅広い連続した研究を実施しています。

 京都大学と産総研は、これまでにも共同研究等により各種研究プロジェクトを推進するなど、先端的研究・教育を連携して進めてきました。今般、「学」の中核に位置付けられる京都大学と、この「学」の成果を「産」に橋渡しする位置にある産総研が協定を締結し、科学技術立国にとって必要不可欠な産官学連携をより強固にすることで、優れた「学」の成果の効果的な社会還元を図り、地球規模で拡大しつつある諸問題の解決に大きく貢献します。

1.協定の目的
(1) 「学」の中核に位置付けられる京都大学と、「学」の成果を「産」に橋渡しする位置にある産総研の連携による相乗効果で、研究の実社会への貢献をさらに加速させます。
(2) 国立大学法人と独立行政法人という異なる基盤とその特色を生かし、研究・教育内容の充実、学術・文化の発展、および科学技術の高度化を図ります。
(3) 環境・エネルギー分野や医工融合研究分野等における共同研究、産官学連携による社会貢献、科学技術立国を目指した基礎学術研究などにおいて、研究・教育・社会貢献の迅速な推進を図ります。
(4) 大型研究プロジェクトなどの先端的研究および教育をさらに精力的に推進しうる学術的土壌を醸成します。

2.主な連携内容
(1)研究分野における協力

<1>環境・エネルギー分野における共同研究
 地球温暖化問題から低炭素社会への移行が世界的に求められており、二酸化炭素排出量を低減する様々な革新的技術の開発が不可欠です。京都大学と産総研は長年にわたる電池等の研究実績を有し、現在、国の「次世代自動車用高性能蓄電システム技術開発プロジェクト」や「革新型蓄電池先端科学技術基盤研究事業」を共同実施しています。今後、画期的な蓄電池・燃料電池・太陽電池等のエネルギーシステムの研究開発や省エネルギーデバイス開発を連携して推進します。
<2>医工融合研究分野における共同研究
 これからの高度化医療の発展を図るためには、医療機器などの一層の技術革新と医学・生物学を基礎とした新しい概念に基づく研究の創出が不可欠で、医学、工学の新たな融合領域を切り拓くことが重要になります。両機関は、京都大学が有する臨床現場の真のニーズを互いに理解しながら、相互の特徴を活かした診断と治療に関わる医工融合研究を遂行できる連携体制を構築します。

(2)国際連携および産官学連携・人材育成等における協力
 わが国にとって世界、とりわけ近隣諸国との国際連携協力が重要です。京都大学が中心に進めている持続可能な環境・エネルギーフォーラムは、アジア地区における新エネルギー技術と人材育成を目的にしています。フォーラムに発足当初から参画している産総研は、今後、重要なパートナーとして連携活動の推進を目指します。
 京都大学は歴史的に優れた人材を社会に供給しており、一方、産総研は産業人材育成への貢献をミッションの1つとしています。両機関は、インターンシップをはじめとする人材交流・研修を実施するとともに、優れた人材の供給という視点から、産業界の協力を得ながら効果的な共同事業を策定いたします。
 以上の共同研究・連携事業の展開を通じて、イノベーションシステムの構築や産業競争力の強化にも寄与します。

http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2010/pr20100119/pr20100119.html


近赤外線を発するタンパク質の創製と利用 ウミホタルの発光反応を応用してがん細胞を見つける ( 2010/1/1 )
ゲノムファクトリー研究部門

生物発光に関する基礎生物学から応用生物工学まで、つまりホタル採集から発光を利用したがんイメージングまで、発光生物の秘密を解き明かしそれを利用する研究を行っています。また、生物発光化学発光研究会代表として生物発光研究の普及、若手研究者の育成を目指しています。

がんの診断方法

 国民の健康維持にはがん疾病対策が重要です。微小ながん組織を徹底的に見つける方法として、大規模施設を必要としない術中光診断法の開発が望まれています。がん細胞をモニターする技術として、GFP(緑色蛍光タンパク質)のような光プローブを利用する方法も考えられていますが、GFPの蛍光は可視光線領域(波長範囲400?700 nm)にあるため生体透過性が低く、その利用には限界がありました。

ウミホタル発光系に着目

 筆者はウミホタル発光系に着目し、ウミホタルルシフェラーゼの糖鎖に近赤外線有機蛍光色素を導入し、人工的な生物発光共鳴エネルギー移動機構によって生体内の化学反応のみで近赤外線を発する発光タンパク質(近赤外線発光タンパク質)を作製しました。近赤外線は血液中のヘモグロビンに吸収されることが少ないので、生体内で発した近赤外線を外部のCCDカメラなどでモニターすることができます。これまでの近赤外線を発する蛍光色素は、蛍光であるため外部光源を照射して発光エネルギーを与える必要がありました。今回作製した近赤外線発光タンパク質は生体内の化学反応により生じるエネルギーで近赤外線を発するので外部光源を必要としません。この近赤外線発光タンパク質を医薬抗体の候補の一つであるDLK?1抗体と結合させ、近赤外線発光プローブとしました(図左)。次に、DLK?1抗原を発現する肝がん細胞をマウスに移植し、がん細胞が数mm程度の大きさに成長した段階で、近赤外線発光プローブを静脈より注入しました。24時間後、同じく静脈よりウミホタルルシフェリンを注入してCCDカメラでマウスを撮影すると、がん細胞が移植された位置で近赤外線を発しているのが観察できました(図右)。

近赤外線発光プローブの概念図
がんを見つける近赤外線発光プローブの基本、およびがん細胞移植マウスにおけるがん細胞イメージングを示す。

今後の展開

 今回開発した技術のさまざまな抗体への適用を試み、抗体治療薬の開発、抗体を用いた外科手術における術中診断、ライブ病理映像や抗体による再生細胞の評価など、多方面への応用展開を目指します。

http://www.aist.go.jp/aist_j/aistinfo/aist_today/vol10_01/p20.html


トコジラミに必須栄養素を供給する細胞内共生細菌ボルバキアの発見 −寄生から相利共生への進化を実証− ( 2009/12/22 )
ポイント
?吸血衛生害虫のトコジラミ(南京虫)にとって、共生細菌ボルバキアが生存に必須であることを発見した。
?ボルバキアはトコジラミの共生器官に局在し、必須栄養素を供給することにより宿主に利益をもたらす共生細菌である。
?共生進化過程の理解への貢献とともに、吸血衛生害虫の制御などへ応用の可能性がある。
概要
 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 野間口 有】(以下「産総研」という)ゲノムファクトリー研究部門【研究部門長 鎌形 洋一】生物共生進化機構研究グループ 深津 武馬 研究グループ長、細川 貴弘 産総研特別研究員らは、吸血衛生害虫として古くから知られ、近年の殺虫剤耐性や先進国での再興が問題となっているトコジラミ(別名 南京虫)にとって、ボルバキアという共生細菌が生存に必須であり、その生理機能が必須栄養素ビタミンB類の供給にあることを解明した。

 ボルバキアは多種多様な昆虫類に存在する共生細菌だが、その影響は一般に寄生的、すなわち宿主にはメリットが無いというのが従来の常識であった。トコジラミが特殊化した細胞から成る専用の共生器官を構築して、その細胞内だけにボルバキアをすまわせ、必須栄養素を作らせるという高度な相利共生関係の発見であり、「寄生」関係が「相利共生」関係の進化的起源となったことを実証した。またボルバキアが吸血衛生害虫であるトコジラミの生存に必須な共生細菌ということで、防除や制御の新規標的としても有望であり、応用的な展開も期待される。

 この研究成果は米国の学術専門誌「Proceedings of the National Academy of Sciences USA」(米国科学アカデミー紀要)のウェブサイトで2009年12月22日午前5時(日本時間)に掲載される。

http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2009/pr20091222/pr20091222.html


九州北部で観測された大気中の微小粒子状物質(PM2.5)の高濃度イベント −春季の高濃度PM2.5は他地域からもたらされていることを解明− ( 2009/12/17 )
ポイント
?福岡市とその西方の五島列島福江島において微小粒子状物質(PM2.5)濃度の通年観測を開始。
?2009年春季のPM2.5濃度は、主に域外からの輸送が原因で変動していた。
?今後の対策を進めるためには、国際協力が極めて重要である。
概要
 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 野間口 有】(以下「産総研」という)環境管理技術研究部門【研究部門長 田尾 博明】地球環境評価研究グループ 兼保 直樹 主任研究員は、独立行政法人 国立環境研究所【理事長 大垣 眞一郎】(以下「国立環境研」という)アジア自然共生研究グループ・アジア広域大気研究室 高見 昭憲 室長および佐藤 圭 主任研究員、学校法人 福岡大学【学長 衛藤 卓也】理学部 地球圏科学科 林 政彦 教授および原 圭一郎 助教とともに、九州北部の大気中に浮遊する微小粒子状物質(PM2.5)の濃度は、2009年春季には域外からの輸送に事実上支配されていたことを明らかにした。

 東アジア地域での急速な経済発展により、偏西風帯の風下に位置するわが国へ運ばれてくる大気汚染物質の増大が懸念されている。そこで、九州北部の大都市である福岡市(人口約144万人)と、福岡市の西方約190 kmに位置する五島列島福江島(人口約4万人)において、2009年春よりPM2.5濃度の通年観測を開始した。さらに4月上〜中旬の大気中の粒子状物質について組成を分析した。これらの結果、春季の福岡市でのPM2.5濃度は福江島より半日程度遅れて変動していること、また濃度レベルも同程度または福江島の方がやや高いことが判明した(図1)。

 月平均濃度でみても、4月の福江島のPM2.5濃度は福岡市よりやや高く、2009年春季の九州北部地域では、大都市域においてもPM2.5濃度は、基本的には域外からの輸送による広域的な汚染状況に支配されていたといえる。今後のPM2.5濃度低減対策では、国内の発生源だけでなく東アジア地域全体での国際協力による発生源対策を推進することが重要であると考えられる。

http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2009/pr20091217/pr20091217.html


成体の脳内で新しい神経をつくり出す力 −ゲノムの翻訳領域と非翻訳領域を制御する機構の解明− ( 2009/10/8 )
ポイント
?成体の脳で『神経新生』を引き起こす過程で中心となる遺伝子と、その活性化の機構を明らかにしました。
?タンパク質の情報を担う翻訳領域だけではなく、ゲノムの大半を占める非翻訳領域にも重要な役割がある可能性を明らかにしました。
?個人の状態によっても左右される神経新生現象が、どのような分子メカニズムで生み出されるのか、その解明への糸口をつきとめました。
概要
 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 野間口 有】浅島 誠フェローと器官発生工学研究ラボ【研究ラボ長 浅島 誠】桑原知子研究員らは、米国 ソーク研究所 Fred H. Gage 教授らと共同で、「成体の神経新生」が起きる仕組みを解明し、中心となる遺伝子とその活性化の道筋をつきとめました。さらに、タンパク質の遺伝情報を保持している翻訳領域の遺伝子だけではなく、ゲノムの大半を占める非翻訳領域にも重要な役割がある可能性を明らかにしました。

 成人では脳内の神経細胞は再生しないと考えられていましたが、成人脳内の海馬という部分には神経幹細胞が存在し、神経幹細胞から制御されながら新しい神経細胞がたえず作られています。成体においてそれを制御するメカニズムはこれまで不明でしたが、今回マウスを用いた実験によりその制御メカニズムを解明しました。

 なお、本研究成果は、2009年9月号のNature Neuroscience誌(Volume 12, No.9)に掲載されました。

http://www.aist.go.jp/aist_j/new_research/nr20091008/nr20091008.html


真正細菌の鋳型なしRNA合成酵素の反応の分子機構を解明 −新たなRNA合成酵素による機能性RNA研究へ− ( 2009/10/5 )
ポイント
?タツノオトシゴ形状の酵素タンパク質のヘッド(頭)部分とネック(首)部分との共同作業でRNAが伸長。
?伸長してきたRNA鎖配列を酵素タンパク質が認識して最終反応が進行して終結。
?医薬などに応用できるRNA合成酵素の開発に期待。
概要
 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 野間口 有】(以下「産総研」という)生物機能工学研究部門【研究部門長 織田 雅直】機能性核酸研究グループ 富田 耕造 研究グループ長、董 雪松 産総研特別研究員、竹下 大二郎 専門技術者(財団法人 日本産業技術振興協会)沼田 倫征 研究員らは、真正細菌由来の鋳型非依存性RNA合成酵素である「CCA付加酵素」が正しい長さのRNAを合成する分子機構を提唱した。

 細胞内でタンパク質が合成される際、必要なアミノ酸を運んでくるtRNAという70-90ヌクレオチドの1本鎖RNAがある。このtRNAはDNAを鋳型として合成されるが、tRNAの末端にあるCCAという配列だけはCCA付加酵素という特別な酵素によって、DNAの鋳型を用いずに合成される。これまで産総研は古細菌のCCA付加酵素の反応について分子機構の解明を行ってきた。

 今回、真正細菌のCCA付加酵素の解析により、古細菌のCCA付加酵素の場合と同様、酵素タンパク質とRNAが共同で機能を発揮しているが、古細菌の場合とは異なった分子機構で反応が進行することを見いだした。

 本研究により、RNA合成酵素のデザイン開発が加速され、バイオテクノロジーへの応用が期待される。本成果は、2009年9月10日(英国時間)に、EMBO Journalにオンライン掲載された。

http://www.aist.go.jp/aist_j/new_research/nr20091005/nr20091005.html


血液検査で、がんに向かう肝炎の進行度がわかる〜糖鎖解析技術を用いて〜 −疾患糖鎖マーカーの開発による次世代の検査診断体系の構築に向けて− ( 2009/10/2 )
ポイント
?糖鎖構造解析技術を元に、疾患の診断・治療の指標となる糖鎖構造の変化を系統的に見いだす新システムを開発した。
?新システムでは、複数の糖鎖疾患マーカーを見いだすことができた。
?ウイルス性肝炎に起因する肝線維化の進行度を血液検査によって評価することを可能とする。
概要
 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 野間口 有】(以下「産総研」という)糖鎖医工学研究センター 成松 久 研究センター長(兼)糖鎖遺伝子機能解析チーム 研究チーム長、グライコプロテオーム解析チーム 梶 裕之 研究チーム長、レクチン応用開発チーム 久野 敦 主任研究員、分子医用技術開発チーム 池原 譲 研究チーム長、国立国際医療センター国府台病院 肝炎・免疫研究センター 溝上 雅史 センター長、名古屋市立大学 大学院 医学研究科 田中 靖人 教授は、肝炎ウイルスの持続感染に伴い、数年単位で変化してゆく肝臓の病態を、定性的かつ定量的に測定できる検査システムの開発に成功した。

 本研究成果は、これまで検査入院が必要であったB型やC型肝炎ウイルスに感染した患者の、長期にわたる診断や治療、治療後のフォローアップに関連した身体的・経済的負担を軽減することが期待される。本研究成果詳細は2009年10月1日〜3日に横浜で開催の第68回日本癌学会で発表される。

http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2009/pr20091002/pr20091002.html


最適な精製用リガンドを迅速に判定するアレイ解析システムを開発 −さまざまな抗体医薬品の精製プロセスに迅速に対応− ( 2009/10/1 )
NEDO、島津製作所、産業技術総合研究所、京都モノテック、バイオインダストリー協会は、医薬品用の抗体など、さまざまな抗体の特性に応じた最適な精製用リガンドを迅速に判定する「タンパク質アレイ解析システム」を共同開発しました。

 従来の類似システムと比較し、大量のタンパク質をチップ上に配向固定できるため、クロマトグラフィーを用いた測定と同様の条件で、多種類のタンパク質相互作用の非標識同時検出が可能であり、実用的なスクリーニング等に利用できます。

 本成果は、NEDO「新機能抗体創製技術開発プロジェクト」の一環であり、開発したシステムを活用し、抗体医薬品を安全かつ安価に提供可能とするため、精製プロセスの高度化技術の確立を目指し、プロジェクトを進めております。

本システムの特徴
?シリカモノリスの利用等により、クロマトグラフィーと同等のタンパク質相互作用が検出可能
?紫外吸光を用いるため、タンパク質を標識せずに測定可能
?タンパク質アレイを用いて、多種類のタンパク質相互作用を同時に検出可能
?これまでに開発した要素技術と合わせ、新機能抗体創製技術開発プロジェクトの最終目標である抗体精製システムを構成する要素技術一式の試作が完了
 なお、本成果はBio Japan 2009(2009年10月7日(水)〜9日(金)、パシフィコ横浜)NEDOブースにて展示致します。この他にもNEDOプロジェクトの成果を多数展示致します。ぜひご来場下さいますよう、ご案内致します。

1.開発に成功したシステムの意義
  高品質な抗体医薬品を低コストで製造するには、アフィニティ精製などの精製プロセスの高度化が欠かせません。このためには、多種・多様な抗体の精製に適合する、優れた精製用カラムの開発が課題となっております。

 NEDO「新機能抗体創製技術開発プロジェクト」では、本課題の解決に必要となる3つの要素技術の開発を行っております。@103種類程度のアフィニティ・リガンドから成るライブラリーを一度に設計・構築し、これらの中から、A精製したい抗体に最も適したアフィニティ・リガンドをスクリーニングし、それをさらに最適化するという2段階の方法により、高性能の最適アフィニティ・リガンド創出、さらに、Bリガンドを固定化する担体を開発し、これら技術を組み合わせ一連のシステムとして確立することを目指しております。

 これまでに@及びBに対する要素技術を開発済み※であり、今回、開発に成功したアレイ解析システムはAに用いる要素技術です。Aでは、通常では抗体ごとに性質が異なることから、最適なリガンドをライブラリーの中から選別するため、約103種類の総当たり実験を行う必要がありますが、このスクリーニングに膨大な時間がかかるという課題がありました。そこで今回、高性能なアフィニティ・リガンドを迅速にスクリーニングするためのシステムを開発しました。本技術を用いることで、本工程を自動化し、膨大なリガンドライブリラリーの中から最適なリガンドを迅速に選別することを可能とします。

 これにより、プロジェクトの最終目標である抗体精製システムを構成する要素技術一式の試作が完了しました。今後は開発したシステムを活用し、安全かつ安価な抗体医薬品の提供を可能とする、精製プロセスの高度化技術の確立を目指してプロジェクトを進める予定です。

http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2009/pr20091001/pr20091001.html


機動性とコストパフォーマンスに優れた遺伝子定量法 ウイルスなどの定量的検出への応用に期待 ( 2009/10/1 )
2005年の入所以来、蛍光色素のON/OFFを利用した核酸解析技術の研究開発を行っています。特に近年はDNAの定量だけでなく、DNA/RNAと結合したり、DNA/RNAを分解したりする酵素や蛋白質の活性を定量的に評価する技術の開発を行っています。開発した技術を環境、食品、医療などのさまざまな分野における遺伝子検査へ応用することに取り組みつつ、ほかの研究機関や企業との共同研究体制の下、早期の実用化を目指しています。

遺伝子を定量する技術

 遺伝子を定量する技術は、ヒトの病気診断などを目的とした遺伝子発現解析、新型インフルエンザやC型肝炎ウイルスの検出・定量、あるいは遺伝子組み換え食品の混入率検査などに利用されており、社会的必要性の高い技術です。これまで、微生物や動植物に含まれる遺伝子の定量にはリアルタイムPCR(Polymerase Chain Reaction)法が用いられてきました。中でも、標的遺伝子のDNA配列に特異的に結合する蛍光DNAプローブを利用した検出技術は、定量の精度が高いことから遺伝子の定量技術として広く用いられています。しかし、標的遺伝子ごとに異なる蛍光プローブを設計・合成する必要があるため、複数の標的遺伝子を定量するには、コストがかかる、機動性がないという問題点がありました。

機動性と優れたコストパフォーマンス

 新たに開発した技術では、測定しようとする標的遺伝子とグアニン塩基により消光する蛍光DNAプローブのほかに、ジョイントDNAを用いたリアルタイムPCR法により標的遺伝子の定量を行います(図)。ジョイントDNAは標的遺伝子ごとに設計・合成する必要がありますが、蛍光色素を結合しないため、合成時間とコストが大幅に節約できます。また複数の標的遺伝子の場合でも1種類の蛍光DNAプローブで定量が可能です。これまでの蛍光プローブ法と比べて1/5から1/10程度にコストを抑えられます。

 この技術によるPCRでは、サイクル進行によって標的遺伝子量は増大し、それに比例して蛍光強度が減少(蛍光が消光)していくので、その値をグラフ化することによって、対象の遺伝子を定量することができます(図)。

 β?アクチン、 アルブミン、 β?グロビンの3種類のヒトの遺伝子を定量した結果、1種類の蛍光プローブでこれら3種類の遺伝子を10コピーという低コピー数から108コピーという高コピー数の広い範囲で定量できました。

http://www.aist.go.jp/aist_j/aistinfo/aist_today/vol09_10/p18.html


生体透過性のよい近赤外線を発するタンパク質の創製と利用 −ウミホタルの発光反応を応用してがん細胞を見つける技術− ( 2009/9/8 )
ポイント
?ウミホタルルシフェラーゼに導入した蛍光色素が生体内化学反応で近赤外線を発光。
?抗体と組み合わせて近赤外線発光プローブとすることで、がん細胞を可視化し、位置を特定。
?外部から放射線や紫外線を当てる必要のないがん細胞評価法であり、医療技術の革新に期待。
概要
 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 野間口 有】(以下「産総研」という)ゲノムファクトリー研究部門【研究部門長 鎌形 洋一】近江谷 克裕 主幹研究員 および セルエンジニアリング研究部門【研究部門長 大串 始】セルダイナミクス研究グループ 呉 純 研究員 は、国立大学法人 北海道大学【総長 佐伯 浩】大学院医学研究科 尾崎 倫孝 教授らと共同で、近赤外線発光タンパク質を創り出すことに成功し、これと医薬抗体とを結合させプローブ化することでがん細胞の位置を特定できる技術を開発した。

 近赤外線発光タンパク質は、ウミホタルルシフェラーゼの糖鎖に近赤外線有機蛍光色素を導入することで得られた。この蛍光色素は生体内化学反応でエネルギーが移動することにより近赤外線を発光するが、近赤外線は生体透過性が高いので、生体内部の近赤外線発光を外部から観察できる。このような近赤外線発光タンパク質はこれまで存在しなかった。

 また、近赤外線発光タンパク質と医薬抗体とを結合させて近赤外線発光プローブとすることで、マウス体内に移植した肝がん細胞をCCDカメラでモニターできることを明らかにした。今回開発した近赤外線発光プローブは化学反応で近赤外線を発光するので、外部から放射線や紫外線を当てる必要のないがん細胞評価法である。本プローブを用いることで医薬抗体の評価や病理ライブ診断など医療技術の革新が期待される。

 なお、本研究成果の詳細は、9月7日(米国東部時間)、全米科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences USA, PNAS)に掲載される。

http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2009/pr20090908/pr20090908.html


ダイエット食による早起き効果をマウス実験で発見 −炭水化物を減らすケトン体ダイエットが体内時計に影響− ( 2009/7/24 )
ポイント
ダイエット食として知られているケトン体ダイエットが体内時計を早めることを発見
睡眠相後退症候群(DSPS)モデルマウスでも、活動時間帯が早まることを確認
睡眠(リズム)障害の新しい治療法や、時差ぼけ改善につながる可能性
概要
 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 野間口 有】(以下「産総研」という)生物機能工学研究部門【研究部門長 織田 雅直】生物時計研究グループ 大石 勝隆 研究グループ長は、女子栄養大学 栄養学部 堀江 修一 教授らとともに、炭水化物を少なくするダイエットによってマウスの体内時計を調節できることを発見した。

 マウスに、炭水化物を減らした食餌(ケトン体ダイエット)を14日間摂取させ、体内時計の指標となる時計遺伝子の機能を調べたところ、時計遺伝子が最もよく働く時刻が4時間から8時間程度早くなっていることを発見した。

 夜行性の齧歯(げっし)類であるマウスを昼夜のある明暗環境下で飼育すると、光による直接的な行動抑制作用(マスキング)が強いため、行動の変化を知ることは困難である。行動を制御する体内時計の変化を調べるため、恒暗条件にしてマウスの活動リズムを調べたところ、ケトン体ダイエットによってマウスの活動時間帯が早まる(早起きになる)ことが確認された。

 この効果は、活動時間帯が後退(夜更かし朝寝坊型)する睡眠相後退症候群(DSPS)のモデルマウス(時計遺伝子の壊れたマウス)でも確認され、薬剤に依存しない睡眠(リズム)障害治療法や時差ぼけ改善法としての応用が期待される。

 本研究成果は、米国科学誌「Arteriosclerosis, Thrombosis, and Vascular Biology」に掲載される。

http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2009/pr20090724/pr20090724.html


安価な糖から生理活性物質HMFを迅速に製造 −高温高圧マイクロリアクターにより実現− ( 2009/4/20 )
ポイント
高血圧、糖尿病等の生活習慣病に効果が期待されるHMFを安価にすばやく製造する技術。
安価なグルコースやフルクトースなどの糖から、有機溶媒を用いず水を溶媒とした製造方法を開発。
副生成物がほとんどなく高純度なため、医薬品や食品添加物等への応用が期待される。

概要
 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 野間口 有】(以下「産総研」という)コンパクト化学プロセス研究センター【研究センター長 水上 富士夫】コンパクトシステムエンジニアリングチーム【研究チーム長 鈴木 明】川波 肇 主任研究員と北海道立工業試験場【場長 尾谷 賢】環境エネルギー部 環境システム科 松嶋 景一郎 研究員は、メタボリック症候群、高血圧、糖尿病などに予防効果の期待される、ヒドロキシメチルフルフラール(以下「HMF」という)をグルコースなどの安価な糖類から、高温高圧の水を用いてすばやく(10秒以内)高収率・高純度で簡便に連続合成する技術を開発した。

http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2009/pr20090420/pr20090420.html


RNA二次構造を予測するソフトウエアを開発  [ PDF:448KB ] RNA医薬品開発、新機能性RNA発見へのツール RNAの二次構造を予測するソフトウエアを開発 ( 2009/3/2 )
 RNA(リボ核酸 ribonucleic acid)は遺伝子DNAからタンパク質が合成される際の中継ぎとして働くことが知られていますが、そのような働きをしないRNAが遺伝子の発現制御や細胞のがん化などで重要な役割を果たしていることがわかってきました。このようなRNAを機能性RNAといい、機能を発揮するには長い1本鎖であるRNA分子が部分的に2本鎖を形成して二次構造と呼ばれる特異的な構造をつくります。今回開発したRNA二次構造予測手法では、予測精度の期待値を最大化する独自の理論を用いることで、従来手法に比べて理論的に予測精度を向上させることに成功しました。ベンチマークテストでも世界最高の精度で二次構造を予測できることを実証しました。

ソフトウエアCentroidFold

 1本の長いRNA鎖がとる塩基対(AとU、GとC)の組み合わせは膨大な数になりますが、RNAを安定な状態にする塩基対の組み合わせは限られています。これまでの予測では最も安定な二次構造を求める方法がとられてきましたが、最も安定な二次構造が必ずしも正しい二次構造であるとは限らない場合が多々あることが経験的に知られるようになってきました。

 細胞内の物質は1つの構造に固定されているのではなく、熱のエネルギーによって常に形を変化させながら揺らいでおり、RNAもまた揺らいでいると考えられます。これまでのRNAの二次構造予測では理論上最も安定な二次構造だとしても、揺らぎの影響を受けやすいものが含まれています。このことがこれまでの予測方法で正しい二次構造を予測できない原因ではないかということが、最近の研究からわかってきました。

 共同研究チームでは上記の知見に触発され研究を重ねた結果、予測精度の期待値を最大化する独自の理論を用い、従来手法に比べて理論的に予測精度を向上させる技術を開発し、RNA二次構造予測を行うソフトウエアCentroidFoldを作成しました。

 CentroidFoldは、RNAの二次構造予測の精度を評価するために広く用いられているベンチマークデータセット(構造がわかっているRNA)を用いた計算機予測実験によって、これまでのRNA二次構造予測手法より高精度であることが実証されました。

http://www.aist.go.jp/aist_j/aistinfo/aist_today/vol09_03/p16.html


非硫酸方式によるバイオエタノール製造ベンチプラントを本格稼動 −食料と競合しない多様なバイオマス資源を用いた環境に優しいエタノール製造− ( 2009/2/19 )
ポイント
食料生産を圧迫せず、かつ環境負荷が小さい非硫酸方式によるバイオエタノール製造プロセスのベンチプラントを開発し、建設(1回処理量200kg木材)した。
試運転において、原料からエタノール燃料までの一貫製造を確認した。
本格稼動により本方式を実証し、持続可能な社会のための新エネルギー産業創出のシナリオを描く。
概要
 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)バイオマス研究センター【研究センター長 坂西 欣也】は、産学官連携プロジェクト「産総研産業変革研究イニシアティブ」(以下「産業変革イニシアティブ」という)の一つである「中小規模雑植性バイオマスエタノール燃料製造プラントの開発実証」の中で、エタノール燃料一貫製造プラントのベンチプラントを産総研中国センター(広島県呉市)内に建設し、製造プロセスの実証試験を開始した。

 今回、産総研が考案・研究開発したバイオマス原材料の前処理技術を中心とした環境負荷の小さい非硫酸方式によるエタノール燃料一貫製造プラントのベンチプラント(1回処理量200kg木材)を開発・設置した。試運転において、原料からエタノール燃料までの一貫した製造が行えることを確認した。今後、本格稼動を行い、食料と競合しない多様なセルロース系バイオマス(針葉樹、広葉樹、わらなど、雑植性バイオマスと呼称)を原料にエタノール燃料生産技術を実証する。

 このプラントで得られる実証データを基に経済性評価、ライフサイクル評価を行い、プロセス全体の改良とともに、より大規模なプラントの設計・開発等に生かすことで、持続可能な社会のための産業化シナリオを描いていきたい。

 なお、本プロジェクトは、平成19年12月から平成23年3月までの約3年半のプロジェクトとして実施されている。

http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2009/pr20090219/pr20090219.html


高効率で蛍光を発するバイオ標識用ナノ粒子の作製に成功 −カドミウムを含まないので幅広い生体物質の動態観察が可能に− ( 2009/2/17 )
ポイント
粒径により緑〜赤色蛍光を示す水分散性のリン化インジウム(InP)ナノ粒子を作製
硫化亜鉛(ZnS)の厚い被覆により、高効率発光と化学的安定性の向上を実現
従来のカドミウム含有ナノ粒子に代わって、バイオ標識用蛍光ナノ粒子としての広い応用に期待
概要
 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)光技術研究部門【研究部門長 渡辺 正信】光波制御デバイスグループ【研究グループ長 西井 準治】村瀬 至生 主任研究員らは、水に分散して長期間安定で、かつ蛍光発光効率の高い(赤色で68%)リン化インジウム (InP)ナノ粒子の開発に成功した。

 このナノ粒子はInPをコア(核)とし、外側が硫化亜鉛(ZnS)で被覆されたInP/ZnSコアシェル型構造をしている。反応条件を制御してZnS被覆を厚くすることで、発光効率と化学的安定性の向上を実現した。同時にナノ粒子表面に硫黄を含む界面活性剤を結合させ、バイオ応用に必須となる水分散性を付与した。

 これまで研究用に培養細胞などの生体内の微量物質の量や分布および動きを観察するための蛍光性ナノ粒子として、ZnS被覆のセレン化カドミウム(CdSe)や、硫化カドミウム(CdS)被覆のテルル化カドミウム(CdTe)などが用いられてきた。これらも水分散性にすることはできるが、カドミウムによる細胞死を引き起こすため応用の範囲が限られていた。

 今回開発のナノ粒子は、今までのカドミウム含有ナノ粒子に比べて、より広い範囲への応用が期待される。

 本技術は、2009年2月18日〜20日に東京ビッグサイトで開催されるnano tech 2009に出展される。

http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2009/pr20090217/pr20090217.html


似ていると思われたミトコンドリアとバクテリアの外膜タンパク質の違いを解明 ( 2009/1/26 )


http://www.natureasia.com/japan/tokushu/detail.php?id=153


茨城県と産業技術総合研究所が連携・協力協定を締結 −日本のイノベーションを牽引する先端地域の形成のため組織的な連携を推進− ( 2009/1/14 )
ポイント
茨城県のイノベーション創出に向けての組織的な連携が促進される。
産総研が都道府県と初めて締結した協力協定である。
科学技術の振興や地域産業の振興を通じて地域社会の持続的な発展に寄与する。
概要
 茨城県【知事 橋本 昌】と独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)は、茨城県の施策と産総研の研究成果との連携と協力により地域の課題に適切に対応し、活力ある個性豊かな地域社会の形成、発展に寄与することを目指して、平成21年1月14日に茨城県庁で連携・協力協定に調印した。

 茨城県は、新技術活用による新事業・新産業の創出をはじめとして、「茨城県科学技術振興指針」に沿って積極的な施策展開を図っているが、科学技術創造立県を目指していくうえで産総研との協力関係の確立は極めて重要である。

 産総研は、茨城県つくば市に最大の研究拠点を持ち、基礎科学研究から、応用技術研究開発まで連続的に研究活動を推進し、産学官連携活動にも力を入れて推進している。この立地や活動から、従来からも産総研は茨城県の公設試験研究機関との共同研究や科学技術政策立案で個別には協力をしてきた。また、県内の地域振興の施策にも様々なかたちでかかわってきていた。これらの活動をより緊密に、かつ、組織的な協力とするために、本協定のもと推進していく。

 具体的には、(1) 研究開発の強化とその産業利用の促進、(2) 科学技術・産業技術をささえる人材育成と確保に関する協力、(3) 科学技術・産業技術の振興にかかわる政策推進を目的とした人材交流、(4) 科学技術にかかわる国内外への情報発信など、広報・啓蒙活動への協力、を促進する。

協定締結の経緯
 茨城県は、県下の研究機関の連携・融合、研究人材の連携、地域間の連携、産学官連携による科学技術の振興、イノベーション創出をめざしており、「茨城県科学技術振興指針」や「いばらきイノベーション戦略」を策定して各種の施策を実行中である。

 産総研は、茨城県つくば市に最大の研究拠点を持ち、基礎科学研究から、応用技術研究開発まで連続的に研究活動を推進し、民間企業、公設研究機関、大学や独立行政法人等と連携活動にも力を入れて推進している。

 茨城県と産総研とは、県の公設試験研究機関との共同研究や科学技術政策立案で個別に協力をしてきた。また、県内の地域振興の施策にも様々なかたちでかかわってきていたが、組織だった連携には至っていなかった。

 産総研は、組織的な連携として、つくば市、横浜市、札幌市、など市町村とは協定を締結して推進していたものの、都道府県と協定を締結した組織的な連携は行なっていなかった。

 茨城県と産総研は、より組織的な連携を深めるため、協議を重ね、連携・協力協定を締結するに至った。

協定の内容
1) 協定の目的
  産総研の研究成果と茨城県の施策との連携と協力により地域の課題に適切に対応し、活力ある個性豊かな地域社会の形成、発展に寄与する。

2) 連携・協力の概要
  (1) 研究開発の強化とその産業利用の促進。
  (2) 科学技術・産業技術をささえる人材育成と確保に関する協力。
  (3) 科学技術・産業技術の振興にかかわる政策推進を目的とした人材交流。
  (4) 科学技術にかかわる国内外への情報発信など、広報・啓蒙活動への協力。

3)連携推進委員会
  連携事項を具体的かつ円滑に推進するため、連携推進委員会を置く。

4)期間
  平成26年3月31日まで(異議申し立てがない場合は更新)

今後の予定
 速やかに連携・協力の円滑な推進のための必要な事項について、連携推進委員会の開催を通じて相互協力の促進を図る。

http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2009/pr20090114/pr20090114.html


ダイヤモンドによる特定配列DNAの高感度計測を実現 −さまざまの疾病や微生物の検出・計測に適用可能− ( 2009/1/10 )
2008年12月18日

ポイント
導電性ダイヤモンドの表面に剣山(針間隔10ナノメートル)を作り、特定配列DNAを検出
高感度かつ繰り返し使用可能な高耐久性を実証
医療検査や食品安全分析などにおいて新しい遺伝子検出技術として展開可能

概要
 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)ダイヤモンド研究センター【研究センター長 藤森 直治】上塚 洋 研究員ならびにNianjun Yang 産総研特別研究員は、10nm間隔の微細な剣山構造をダイヤモンド表面上に形成し、これを電極材料とする電気化学センサーによって、DNAの高感度検出(2ピコモル/リットル:ピコは10-12)に成功した。この検出感度は、従来の電極材料を用いた電気化学センサーを数桁上回るものである。

 このセンサーは、導電性ダイヤモンドの表面に10nm間隔の微細な剣山構造を作製し、剣山の針の先にプローブDNA(1本鎖、長さ23塩基)を植え付けた構造を持っている。測定されるDNAはこのプローブDNA配列に特異的に結合して2本鎖となるので、ダイヤモンド表面の隙間が狭くなってイオン電流が減少する。この電流変化によって特定配列のDNAを検出する。金やカーボンを使った従来型のセンサーに比べると2ないし3桁高い感度を確認できた。

 プローブDNAの配列を変えることによってさまざまなDNAの検出や、この方法をタンパク質に応用することにより、広範な疾病や微生物の検出・計測に適用可能でありインパクトの大きな技術である。

http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2008/pr20081218_3/pr20081218_3.html


RNA二次構造を予測する最高精度のソフトウェアを開発 −RNA医薬品開発、新機能性RNA発見へのツール− ( 2009/1/10 )
2008年12月18日

ポイント
RNAの二次構造予測で現時点での世界最高精度を達成
機能性RNAの発見や機能解析の効率化に貢献することが期待される
バイオインダストリーやRNA医薬品開発のツールとして全世界で利用に期待

概要
 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)生命情報工学研究センター RNA情報工学チーム 光山 統泰 研究チーム長、木立 尚孝 産総研特別研究員、みずほ情報総研 株式会社【代表取締役社長 小原之夫】(以下「みずほ情報総研」という)浜田 道昭、社団法人 バイオ産業情報化コンソーシアム【会長 秋草 直之】(以下「JBIC」という)佐藤 健吾 研究員、国立大学法人 東京大学【総長 小宮山 宏】(以下「東大」という)浅井 潔 教授らによる共同研究チームは、遺伝子の発現制御で重要な役割をしているRNAの二次構造を予測するソフトウェア「CentroidFold」を開発した。

 RNAは遺伝子DNAからタンパク質が合成される際の中継ぎとしての役割が古くから知られているが、近年そのような役割をしないRNAが遺伝子の発現制御や細胞のガン化などで重要な役割を果たしていることが分かってきた。このようなRNAを機能性RNAというが、機能を発現するには長い1本鎖であるRNA分子が部分的に2本鎖を形成して二次構造と呼ばれる特異的な構造をつくる。

 今回、開発したRNA二次構造予測手法は予測精度の期待値が最大になることを理論的に証明し、ベンチマークテストでも世界最高の精度で二次構造を予測できることを実証した。今後、機能性RNAの発見や、機能解明に貢献することが期待される。「CentroidFold」はフリーソフトウェアとして無償で提供される。

 なお、本研究は、近くイギリスの論文誌Bioinformatics誌に掲載される予定。

http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2008/pr20081218/pr20081218.html


赤外線レーザーで単一細胞内の遺伝子のスイッチを入れる −実環境の細胞内で遺伝子の機能を解析する新しい顕微鏡技術を開発− ( 2009/1/10 )
2008年12月15日

ポイント
生体内の単一細胞を赤外線レーザーでねらい打ちして遺伝子発現させる技術を開発
緑色蛍光タンパク質(GFP)を温度計にして、細胞の温度変化・分布を測定し温度制御
分子・細胞レベルでの病態の解明につながる研究の強力なツールとして期待

概要
 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)セルエンジニアリング研究部門【研究部門長 三宅 淳】弓場 俊輔 研究員(現 独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)、川ア 隆史 研究員、藤森 一浩 研究員、出口 友則 研究員は、京都大学放射線生物研究センター 亀井 保博 助教(現 大阪大学)、名古屋大学大学院理学研究科 高木 新 准教授、東京大学大学院薬学系研究科 船津 高志 教授と共同で、顕微鏡下で赤外線レーザー照射によって単一の細胞を加熱して、熱ショック応答を引き起こし、単一細胞内で調べたい遺伝子を発現させる方法(IR-LEGO顕微鏡)を開発した。

 ほとんどの生物は熱ショックに応答して遺伝子発現のスイッチをON状態にする遺伝子配列をもつ。この遺伝子配列に解析したい遺伝子をつないでおけば、細胞を加熱することで解析したい遺伝子を発現させることができる。しかし加熱し過ぎると細胞は死んでしまうため、ねらった細胞だけを熱ショック応答させる温度範囲に加熱する必要がある。これまで単一細胞の温度を測定する方法はなかったが、今回、緑色蛍光タンパク質(GFP)を利用してこれを実現した。GFPは温度変化によって蛍光強度が変化するため、赤外線レーザーで単一細胞の加熱される様子を蛍光強度から解析し、光強度を制御して単一細胞だけに熱ショック応答を起こさせることに成功した。その例として動物の発生や分化の研究に用いられている線虫(長さ1mm)を材料にして単一細胞での遺伝子発現を確認した。

 この新しい顕微鏡技術により、広範な生物のさまざまな遺伝子を「ねらった単一細胞内」で発現させ、生きた生物の中でその機能を解明することができるようになった。

 本研究成果は、米国の科学雑誌『Nature Methods』(2009年1月号)に掲載されるに先立ち、オンライン版(日本時間2008年12月15日)に掲載される。

http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2008/pr20081215/pr20081215.html


溶液中の細胞を観察できる走査電子顕微鏡を開発 −電子顕微鏡で、光学顕微鏡と同一視野内の細胞を高分解能で観察可能− ( 2009/1/10 )
2008年12月8日

ポイント
細胞を乾燥させることなく大気圧で直接観察できる倒立型走査電子顕微鏡
開放型試料室により、細胞への薬の影響も試験可能に
大学や研究機関をはじめ、創薬や医療現場での利用に期待

概要
 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)脳神経情報研究部門【研究部門長 田口 隆久】構造生理研究グループ 研究グループ長 佐藤 主税、主任研究員 小椋 俊彦と、日本電子株式会社【代表取締役社長 栗原 権右衛門】(以下「JEOL」という)クレアプロジェクトリーダー 須賀 三雄、副主任研究員 西山 英利は共同で、山形県工業技術センター【所長 武蔵 毅】電子情報技術部 渡部 善幸 博士の協力のもと、大気圧のまま湿った試料や溶液中の試料を観察できる大気圧走査電子顕微鏡(Atmospheric Scanning Electron Microscope:ASEM)を開発した(図1)。

 これまでの電子顕微鏡は真空中で試料を観察するため、湿った試料や溶液中の試料を観察することはできなかった。今回、試料を載せる特殊な皿「薄膜ディッシュ」を開発することにより、湿った試料や溶液中の試料を観察することが可能となった。薄膜ディッシュの底部には電子線を透過する耐圧薄膜を備えた窓が開いており、電子線は下方から入射する。薄膜ディッシュの上方は開放されており、光学顕微鏡を配置して同一視野の光学顕微鏡観察と、走査電子顕微鏡(SEM)による10nm(nm:ナノメートルは10-9 m)レベルの高分解能観察が交互にできる。大気圧のまま湿った試料や溶液中の試料を観察できるため、従来必要であった1〜数日以上におよぶ試料の脱水・乾燥等の前処理は不要となり、飛躍的に観察効率を向上できる。また、乾燥による試料の変形も回避できる。

 開放型試料室で電子顕微鏡観察ができるというこの技術は日本独自の技術であり、基礎生物学だけでなく、将来は創薬や湿潤試料を扱う医療現場等にも活用でき、大きな発展が期待される。

 本成果は、2008年12月9〜12日に神戸で開催される「第31回日本分子生物学会年会・第81回日本生化学会大会 合同大会」で発表される。

http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2008/pr20081208/pr20081208.html


二酸化炭素吸着性能に優れ、生産性に優れた無機多孔質材 −大気圧以上でも吸脱着ができ、効率的な二酸化炭素回収材として最適− ( 2009/1/10 )
2008年12月4日

ポイント
大気圧以上の加圧で大容量の二酸化炭素を吸着し、大気圧まで減圧すると可逆的に脱着
現在主流の二酸化炭素回収材ゼオライト13Xに比べ、大気圧以上の圧力で2倍以上の吸着性能
安価な工業用原料から合成ができ、工業レベルの生産が可能に

概要
 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)地圏資源環境研究部門【研究部門長 矢野 雄策】地下環境機能研究グループ【研究グループ長 竹野 直人】鈴木 正哉 主任研究員と同部門 月村 勝宏 主任研究員、サステナブルマテリアル研究部門【研究部門長 中村 守】メソポーラスセラミックス研究グループ【研究グループ長 田尻 耕治】前田 雅喜 主任研究員と犬飼 恵一 主任研究員は、大気圧以上の圧力領域で大容量の二酸化炭素の吸脱着が可能な高性能無機系吸着材を開発した。

 圧力スイング吸着法による二酸化炭素の回収・分離材としては、これまでゼオライト13Xが用いられている。しかし、ゼオライト系吸着材による二酸化炭素の吸脱着では、真空から大気圧までの圧力領域における吸着量が多く、脱着(放出)させるには再度真空近くまでの減圧が必要であるため、かなりのエネルギーを消費している。そのため、大気圧以上で多量の二酸化炭素の吸着と脱着の両方が可能な吸着材が求められていた。

 今回、安価な工業用原料から穏和な条件で合成できる方法を見いだし、大量生産が可能で、部分的にイモゴライト構造をもつ非晶質アルミニウムケイ酸からなる無機系二酸化炭素吸着材を開発した。この吸着材は、大気圧以上の圧力で10 wt% (重量%)以上の可逆的な二酸化炭素の吸脱着が、繰り返し可能である。300℃程度の耐熱性をもち、大気圧に戻すだけで吸着した二酸化炭素を脱着し、再生が可能である。そのため、二酸化炭素回収・分離に用いることで、二酸化炭素回収の省エネルギー効果が期待される。

http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2008/pr20081204/pr20081204.html


ミトコンドリアのタンパク質に新説−バクテリアとの違い、鮮明に− ( 2008/12/26 )
ポイント
これまで100種類以上あると考えられてきたミトコンドリア β型外膜タンパク質の数が、実際は6種類程度しかないことをつきとめた。
ミトコンドリア タンパク質の全体像を見直す必要性を指摘した。
ミトコンドリアの異常は、癌や糖尿病などさまざまな疾患を引き起こし、これらの病気の根本原因解明にも重要な関わりを持つ。
概要
 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)生命情報工学研究センター 【研究センター長 浅井 潔】配列解析チーム 研究チーム長 ポール ホートン、今井 賢一郎 産総研特別研究員、分子機能計算チーム マイケル グロミハ主任研究員らは、データベースに存在する各種生物のミトコンドリアβ型外膜タンパク質の遺伝子配列を解析した結果、これまで100種類以上の外膜タンパク質が存在すると考えられてきたが、わずか6種類程度しか存在しないことをつきとめた。

 これまで、ミトコンドリアには、その祖先とされるバクテリア同様、100種類以上のβ型外膜タンパク質が存在すると考えられていたが、現在明らかになっているすべてのミトコンドリア タンパク質のアミノ酸配列を解析した結果、わずか6種類程度しかないことがわかった。本研究によりミトコンドリアβ型外膜タンパク質の種類は、これまでの予想と大きく異なることがわかり、ミトコンドリア タンパク質の全体像を見直す必要性が出てきた。

 本研究成果は、2008年12月26日に米科学誌“Cell”に掲載される。Cell誌は、“Nature“、“Science”と共に三大有名誌であるが、理論的な研究論文が載ることは極めて異例である。

ミトコンドリアは、生化学的、分子生物学的性質の大部分がバクテリアに類似

研究の背景
 ミトコンドリアは、二重の細胞膜(外膜、内膜)で囲まれ、環状のDNAを持っているなど、生化学的、分子生物学的性質において、バクテリアとの類似点が多いことから、好気性バクテリアがミトコンドリアの祖先だと考えられている。したがって、ミトコンドリアとバクテリアのもつタンパク質の全体像もおおよそ似ていると予想されてきた。特に、β型外膜タンパク質と呼ばれる外膜に存在するタンパク質は、バクテリア同様、100種類以上存在すると予想されていた。

 現時点で確認されているミトコンドリアβ型外膜タンパク質はわずか5種類しかなく、確認されていないものが数多く存在すると予想される。しかし、ミトコンドリアβ型外膜タンパク質を調べる実験は難しく、新たに発見することは困難である。また、どのようにして外膜に組み込まれるのかなど解明されていない部分が多い。そのため、共通する特徴はまったく見つかっておらず、同定するための手がかりも非常に少なかった。

 この状況を打破するきっかけを与えたのは、Kutikらの論文である (Cell, March 2008)。Kutikらは、ミトコンドリアβ型外膜タンパク質が外膜に組み込まれる際に重要な8つのアミノ酸残基で特徴づけられる共通のアミノ酸配列を発見し、βシグナルと名付けた。Βシグナルの発見は、コンピュータを使った未知のミトコンドリアβ型外膜タンパク質の探索を可能とした。

研究の経緯
 Kutikらがβシグナルについて指摘したのは、現在明らかになっている5種類のミトコンドリアβ型外膜タンパク質のうち、4種類であった。そこで、産総研のホートンらは、まず、Kutikらが解析していなかったミトコンドリアβ型外膜タンパク質Mmm2のアミノ酸配列の解析を行い、Mmm2もβシグナルを持つことを確認した。これにより、βシグナルが既知の5種のミトコンドリアβ型外膜タンパク質すべてに共通することが確認できた。そこで、データベース上に存在する生物のすべてのミトコンドリア タンパク質のアミノ酸配列を対象に、新規のミトコンドリアβ型外膜タンパク質の探索を行った。

研究の内容
 Kutikらは既知の5種類のミトコンドリアβ型外膜タンパク質のうち、4種類でしかβシグナルの存在を指摘していなかった。そこで、残る1つであるMmm2がβシグナルをもつかどうかを確かめるべく、多くの生物についてMmm2のアミノ酸配列の解析を行った。

 その結果、Mmm2も他の4種類と同様、あらゆる生物種の間でβシグナルの配列パターンが共通であり、生物が進化しても変化することなく配列が保存されていることがわかった。これにより、現在わかっているすべてのミトコンドリアβ型外膜タンパク質がβシグナルという共通の特徴を持つことを確認できた。

 そこで、βシグナルを用い、データベースに存在する各種生物のミトコンドリア タンパク質すべてを対象に探索を行った。その結果、新しいミトコンドリアβ型外膜タンパク質の候補としてUth1を発見した。Uth1は、ミトコンドリア外膜に存在するとの実験報告があるだけで、詳細はわかっていない。現在、実験的に確認中であるが、もし、β型外膜タンパク質なら6番目のミトコンドリアβ型外膜タンパク質となる。

 しかし、何よりも重要なのは、ミトコンドリアβ型外膜タンパク質に共通する特徴をもとに現在知られているすべてのミトコンドリア タンパク質(9000個以上)に対して網羅的な探索を行ったにもかかわらず、これまで明らかになっている5種以外に、新規の候補が一つしか見つからなかったことである。以前の予想では、ミトコンドリアβ型外膜タンパク質の数は、100種類以上あると言われていた。しかし、実際は、6種類程度しかないということを本研究結果は示している。この結果により、バクテリアと似ていると考えられていたミトコンドリアのタンパク質の全体像自体も見直す必要性が出てきたのである(下図)。

ミトコンドリアβ型外膜タンパク質の種類に関するこれまでの予想と本研究による解析結果

 ミトコンドリアは生体のエネルギー分子の合成や、アポトーシスなど重要な生命現象に係わっている。またミトコンドリアの異常は、癌や糖尿病などさまざまな疾患を引き起こすことが分かってきている。その原因を解明するには、ミトコンドリアというシステムを動かすタンパク質の理解が不可欠である。それらの機能は、ミトコンドリア内で様々なタンパク質が複雑に関係し合うことで引き起こされるが、未だに不明な部分が多い。本研究によって、これまで100種類以上も存在すると思われたミトコンドリアβ型外膜タンパク質の種類を1桁台に減らし、ミトコンドリア タンパク質の全体像を見なおす必要性を指摘できたことは、今後のミトコンドリアの理解に向けて大きな意味を持つ。

今後の予定
 本研究で得られたMmm2とUth1についての配列解析結果については、現在、名古屋大学の遠藤斗志也教授の研究室により、確認実験が行なわれている。Mmm2に関しては、その機能はほとんど不明であり、今回の確認実験を機にその機能解明の手がかりがつかめるかもしれない

用語の説明
◆ミトコンドリア
動物、植物と酵母などの真核生物細胞に含まれる細胞内小器官。二重の生体膜に包まれている。酸素呼吸などの重要な機能を司る。

◆膜タンパク質
タンパク質は水溶性タンパク質と膜タンパク質に分類される。膜タンパク質は細胞やミトコンドリアなどを囲む生体膜を貫通するタンパク質。

◆β型膜タンパク質
膜タンパク質は構造の特徴により、α型とβ型膜タンパク質に分類される。膜タンパク質の大半はα型であるが、バクテリア、ミトコンドリア、葉緑体の外膜にはβ型膜タンパク質が存在する。

◆好気性バクテリア
生育において酸素を必要とするか、または利用できるバクテリア。

◆βシグナル
ミトコンドリアβ型外膜タンパク質が外膜に組み込まれる際に重要な共通のアミノ酸配列 。

◆Mmm2
ミトコンドリアβ型外膜タンパク質のひとつ。ミトコンドリアの形態維持に関わるとの報告があるが、その機能はよくわかっていない。

◆Uth1
ミトコンドリアに存在するタンパク質。外膜に存在するという実験報告がある。また、マイトファジー(ミトコンドリアを液胞に輸送し、分解するミトコンドリア分解システム)に関与しているとの報告もある。

◆アポトーシス
プログラムされた細胞死。多細胞生物の細胞に備わった、役割を終えた細胞や生存すればかえって有害となる細胞自身が「自殺」する現象。アポトーシスは発生と癌抑制において中心的な役割を担っている。

http://www.aist.go.jp/aist_j/new_research/nr20081226/nr20081226.html


RNA二次構造を予測する最高精度のソフトウェアを開発 ( 2008/12/18 )
−RNA医薬品開発、新機能性RNA発見へのツール−
ポイント
RNAの二次構造予測で現時点での世界最高精度を達成
機能性RNAの発見や機能解析の効率化に貢献することが期待される
バイオインダストリーやRNA医薬品開発のツールとして全世界で利用に期待
概要
 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)生命情報工学研究センター RNA情報工学チーム 光山 統泰 研究チーム長、木立 尚孝 産総研特別研究員、みずほ情報総研 株式会社【代表取締役社長 小原之夫】(以下「みずほ情報総研」という)浜田 道昭、社団法人 バイオ産業情報化コンソーシアム【会長 秋草 直之】(以下「JBIC」という)佐藤 健吾 研究員、国立大学法人 東京大学【総長 小宮山 宏】(以下「東大」という)浅井 潔 教授らによる共同研究チームは、遺伝子の発現制御で重要な役割をしているRNAの二次構造を予測するソフトウェア「CentroidFold」を開発した。

 RNAは遺伝子DNAからタンパク質が合成される際の中継ぎとしての役割が古くから知られているが、近年そのような役割をしないRNAが遺伝子の発現制御や細胞のガン化などで重要な役割を果たしていることが分かってきた。このようなRNAを機能性RNAというが、機能を発現するには長い1本鎖であるRNA分子が部分的に2本鎖を形成して二次構造と呼ばれる特異的な構造をつくる。

 今回、開発したRNA二次構造予測手法は予測精度の期待値が最大になることを理論的に証明し、ベンチマークテストでも世界最高の精度で二次構造を予測できることを実証した。今後、機能性RNAの発見や、機能解明に貢献することが期待される。「CentroidFold」はフリーソフトウェアとして無償で提供される。

 なお、本研究は、近くイギリスの論文誌Bioinformatics誌に掲載される予定。

開発の社会的背景
 従来RNAはDNA配列を元にタンパク質を合成するための中間物質と考えられていたが、近年RNAが生体内で様々な機能を担っていることが明らかになり、生命の機能を解明するための重要な物質として位置づけられてきた。このようなRNAを機能性RNAというが、機能性RNAを利用した医薬品の開発も進んでいる。

 RNAが機能を発現するのは1本鎖の長い分子であるRNA分子が、部分的に2本鎖を形成して特異的な構造を形成することに由来する。2本鎖を形成するのは、RNAを構成する4種の塩基(A、G、C、U)のうち、AとU、GとCがお互いに引き合うためである。1本鎖RNAにおける塩基対形成の様子を二次構造とよぶ。(立体構造は三次構造ともよぶ)。

 RNAの二次構造を解明することはRNAの機能解明の重要な手がかりとなる。しかし、二次構造の実験における観測は手間とコストの面で現実的ではなく、計算機による二次構造予測がRNA研究における重要な手段となっている。

 二次構造予測の技術は、生物学実験では欠かせないDNA増幅(PCR)に用いるプライマーの設計や、近年医薬品としての用途を開拓しつつあるRNA干渉に用いるsiRNAの設計、さらにはマイクロアレイに用いるプローブの設計など、バイオテクノロジー産業に広く影響を与える基盤技術である。

 二次構造予測がより正確になることによって、より高い精度のsiRNA設計が可能になったり、生体内におけるRNA分子の機能解明をより正確に推定したりすることが可能になるなど、RNA医薬品開発のための技術水準を一段高めることになる。

研究の経緯
 産総研では将来のゲノム創薬支援技術を目指した基盤技術構築の一環として、機能性RNAの網羅的予測の研究に取り組んでいる。そのために、みずほ情報総研、JBIC、東大と共同でRNAの機能を解明するのに不可欠な二次構造を計算機上で効率よく扱うための基盤技術の開発に取り組んできた。今回、RNA二次構造予測に関する新理論に基づく、世界最高の予測精度を有するソフトウェア「CentroidFold」を開発した。

 本研究は、独立行政法人 新エネルギー技術総合開発機構(NEDO)の「機能性RNAプロジェクト」によって行われた。

研究の内容
 1本の長いRNA鎖がとる塩基対(AとU、GとC)の組み合わせは膨大な数になるが、RNAを安定な状態にする塩基対の組み合わせは限られており、その数は1つではない。従来の予測では最も安定な二次構造を正しい二次構造として求める方法がとられてきたが、最も安定な二次構造が必ずしも正しい二次構造であるとは限らない場合が多々あることが経験的にわかってきた。

 細胞内の物質は1つの構造に固定されているのではなく、熱のエネルギーによって常に形を変化させながらゆらいでおり、RNAもまたゆらいでいると考えられる。従来の二次構造予測では、理論上最も安定な二次構造だとしても、ゆらぎの影響を受けやすいものが含まれている。このことが、従来の予測方法で正しい二次構造を予測できない原因ではないかということが、最近の研究からわかってきた。

 共同研究チームでは、上記の知見に触発され、予測精度の期待値を最大化する独自手法を用い、ゆらぎの影響を受けにくい二次構造予測技術の開発に成功し、RNA二次構造予測を行うソフトウェア「CentroidFold」として実装した。

 「CentroidFold」は、RNAの二次構造予測の精度を評価するために広く用いられているベンチマークデータセット(構造がわかっているRNA)を用いた計算機予測実験によって、従来のRNA二次構造予測手法より高精度であることが実証された。

 「CentroidFold」はフリーソフトウェアとして無償で提供されるほか、インターネットを通じて、二次構造予測サービスが12月18日より公開される。(http://www.ncrna.org)

今後の予定
 「CentroidFold」は、二次構造予測の標準的なソフトウェアのひとつとして、生物学におけるRNAの機能解明や、新しい機能性RNA発見のための一助となる一方、バイオテクノロジー産業において、より品質の高いPCRプライマーやsiRNA、マイクロアレイプローブの設計のための一助となることが期待される。

用語の説明
◆RNA
リボ核酸の略称。生命活動に不可欠な物質の一種で、遺伝情報を読み取る役割を担っている。遺伝情報はDNAからRNAに写し取られタンパク質が合成されるが、そのためRNAは中間的な存在と考えられてきた。

◆機能性RNA
タンパク質に翻訳されることなく、自身が生体内で活性を持ち、転写/翻訳制御などの機能を有するRNA全般を指す。機能性RNAの機能と二次構造(さらには、立体構造)との間には関連がある場合が多いことが知られている。

◆予測精度の期待値
RNAの二次構造はそのエネルギーが低いほどその構造をとりやすい性質がある。二次構造ごとに熱力学的に計算された構造のとりやすさ(確率)から、二次構造予測の精度の確率的な期待値を求めることができる。

◆PCR
細胞抽出液などの試料に含まれる特定のDNAを増幅するのに広く用いられる実験方法。標的DNAの選別には特定の塩基配列を持ったプライマーとよばれる低分子のDNA配列が用いられる。プライマーは標的DNAに特異的に結合する配列である必要がある。標的DNA(RNA)が二次構造を形成する可能性があると、正常なPCR反応を妨げてしまう可能性があるため、プライマー設計には標的DNA(RNA)の二次構造を考慮する場合がある。

◆RNA干渉(RNA interference:RNAi)
siRNAを細胞へ導入することにより、相補的な塩基配列をもつメッセンジャーRNA(mRNA)が分解され、遺伝子の発現が抑制される現象。これまで治療が困難であったがんや遺伝子疾患、感染症など、さまざまな疾患の治療を可能とする医薬品開発技術として期待されている。

◆siRNA (small interfering RNA)
RNA干渉において、標的遺伝子のmRNAと相補的に結合する20〜22塩基程度の短いRNA分子。siRNAがmRNAに相補的に結合することによって、当該mRNAの翻訳が阻害されることで、遺伝子の発現を抑制することができる。標的mRNA配列が二次構造を形成する可能性があると、siRNAが効果を示さない場合がある。従って、siRNA設計には標的mRNAの二次構造を考慮する場合がある。

http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2008/pr20081218/pr20081218.html


ポストゲノム研究を支える世界最大規模のヒトタンパク質発現用クローン、研究者等へ提供を開始 ( 2008/11/24 )
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■免疫抑制剤ミゾリビンの血中濃度を測定する酵素を開発 −短時間で簡便な血中濃度測定の実現に期待− ( 2008/11/20 )
<ポイント>
・ ミゾリビンの血中濃度測定に使用できる酵素を発見し、酵素の効率的な製造方法も開発した。
・ 血中濃度を短時間に正確に測定できるので、適正な投与量のコントロールが可能になる。
・ 現在は1時間に3検体程度の測定しかできないが、600検体程度の測定も可能となる。

<概要>
 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)ゲノムファクトリー研究部門【研究部門長 鎌形 洋一】遺伝子発現工学研究グループ 田村 具博 研究グループ長は、旭化成ファーマ株式会社【代表取締役社長 稲田 勉】と共同で、免疫抑制剤として使用されているミゾリビン(MZR)の血中濃度測定に使用できる酵素(ミゾリビンリン酸化酵素)を見つけ、その効率的な製造方法を開発した。

 ミゾリビンは、腎移植における拒否反応の抑制・ループス腎炎・慢性関節リウマチ等の治療などに広く用いられている低分子化合物(分子量259)である。しかし、ミゾリビンの効果と治療の安全性を確保するための至適量に関しては不明な点があり、個人ごとの最適な投与量を把握するためには、血中濃度を測定しながら投与量を調整することが必要であると指摘されている。

 現在、ミゾリビンの血中濃度は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって測定できるが、手間と時間がかかる。今回開発した酵素を用いると、短時間で簡便な測定が可能となる。本技術の詳細は、2008年11月27日〜30日に名古屋国際会議場で開催される「第55回日本臨床検査医学会学術集会」で発表される。

 * 関連資料「今回発見されたミゾリビンリン酸化酵素によるミゾリビン濃度の測定原理」参照

<開発の社会的背景>
 ミゾリビン(MZR)は、腎移植における拒否反応の抑制・ループス腎炎・慢性関節リウマチ等の治療などに広く用いられている低分子化合物(分子量259)である。しかし、ミゾリビンの効果と安全性を確保するための至適量に関しては不明な点がある。ミゾリビンは同様の薬効を示す他の薬と比べて、白血球減少などの血液系障害が少ないものの、主として腎臓から排泄されるため、腎障害のある患者では排泄が遅延し、骨髄機能抑制等の重篤な副作用が起こることがある。そのため血中濃度測定による投与量の調整が必要であることが近年指摘されている。

 現在、ミゾリビンの血中濃度は高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による測定が可能である。しかし、HPLCによる測定は、( i )装置が限られた施設にしか配備されていない、(ii)検体の前処理が必要である、(iii)測定に時間を要すると共に多検体同時測定が出来ない、(iv)血液の他の成分分析に比べて試料の必要量が多い(最低でも0.8ミリリットル)、などの問題点がある。そこで、より短時間で簡便な測定を実現するために、汎用自動分析機で測定可能なミゾリビンの血中濃度測定法の開発が望まれている。

<研究の経緯>
 産総研ゲノムファクトリー研究部門遺伝子発現工学研究グループでは、ロドコッカス属放線菌(Rhodococcus erythropolis)による化学物質やタンパク質の生産系を構築する研究を行ってきた。特に放線菌によるタンパク質の生産は、既存技術である大腸菌による生産が困難なタンパク質の生産を可能にする特徴がある。一方、旭化成ファーマ株式会社診断薬製品部では、診断薬用酵素の開発や、酵素を用いた診断薬の開発を行っている。そこで、産総研は旭化成ファーマ株式会社と共同で、ロドコッカス属放線菌を用いた診断薬用酵素製造技術の開発に取り組んできた。

<研究の内容>
 本技術によるミゾリビン濃度の測定原理は図1に示すような2つの反応からなる。

 * 関連資料「図1 今回発見されたミゾリビンリン酸化酵素によるミゾリビン濃度の測定原理」参照

 第1反応では、ミゾリビンリン酸化酵素の働きで、ミゾリビンにリン酸が結合してミゾリビン5’−モノリン酸(MZR−P)になる。このMZR−PがIMPデヒドロゲナーゼという酵素の働きを阻害するので、第2反応ではその阻害の程度を測定することによってMZR−P濃度、すなわちミゾリビン濃度が算出される。IMPデヒドロゲナーゼという酵素は化合物IMP(イノシン一リン酸)を化合物XMP(キサントシン一リン酸)に変換する酵素であり、この時化合物NAD+(補酵素酸化型)が化合物NADH(補酵素還元型)になる。NADHの濃度は波長340ナノメートルの吸光度を測定することによって容易に測定できる。これによってIMPデヒドロゲナーゼの酵素活性の阻害の程度が算出され、MZR−P濃度からミゾリビン濃度が算出される。

 第1ステップのミゾリビンをリン酸化する酵素は、ヒト生体内においてどの酵素がその役割を担っているか明らかになっていないので、ゲノム情報が登録されているデータベースの中から、予想される遺伝子を検索した。候補とした複数の遺伝子を組み換えタンパク質として大腸菌で発現させ、生産されたタンパク質がミゾリビンのリン酸化能力を有するかどうかの探索を行った。ところが、それらの酵素を大腸菌内で生産すると、生産された酵素により、細胞内の核酸やリン酸化された核酸の濃度バランスが崩されるために、大腸菌が死んでしまうことが多く、探索が進まなかった。

 そこで、産総研のロドコッカス属放線菌(Rhodococcus erythropolis)を用いたところ、菌が死ぬことなく、探索が容易になった。さまざまな微生物由来の酵素遺伝子をこの放線菌で発現した。その結果、ミゾリビンをリン酸化する酵素遺伝子を発見した。さらに、その遺伝子を用いて放線菌でミゾリビンをリン酸化する酵素の効率的な製造方法も開発した。詳細に解析した結果、本酵素はバクテリアでは世界で初めて発見された核酸のリン酸化酵素(ヌクレオシドキナーゼ)であり、学術的にも価値の高い酵素である事が明らかになった。

 本酵素を用いて、ミゾリビン血中濃度測定の酵素法を開発した。第1反応でこの酵素によるリン酸化反応の様子をHPLCで解析した結果を図2に示す。反応途中なので未反応のATPとミゾリビンも残っているが、ATPがADPに変化され、ミゾリビンがMZR−Pに変換されていることが確認された。この第1反応は、5分間で完結する。

 * 関連資料「図2 HPLCにより解析した本酵素によるミゾリビンのリン酸化反応(第1反応の確認)」参照

 第1反応の反応液を第2反応の試験液(IMPとNAD+とIMPデヒドロゲナーゼを含む)に加えて第2反応を行い、波長340ナノメートルの吸光度の測定を行った。吸光度からIMPデヒドロゲナーゼの酵素活性の阻害の程度が算出され、MZR−P濃度、ミゾリビン濃度の算出を行った。その結果、図3のようにHPLCを用いた濃度測定結果と一致することから、正確に血中に存在するミゾリビン濃度の測定ができることが確認された。

 * 関連資料「図3 酵素法ミゾリビン(MZR)血中濃度測定結果とHPLC法との比較」参照

 現在、ミゾリビン血中濃度測定は、検体の前処理時間を除いたHPLC測定だけでも18分必要で1時間に3.3検体しか測定できない。このミゾリビン血中濃度測定酵素法を利用すれば汎用の生化学自動分析機による多検体同時測定が可能で、1時間に600検体測定できるようになる(汎用生化学用自動分析機、日立7080形自動分析機を使用した場合)。

<今後の予定>
 この研究成果をもとに、産総研はミゾリビン(MZR)をリン酸化するヌクレオシドキナーゼの機能解析をさらに進め、旭化成ファーマ株式会社はミゾリビン血中濃度測定試薬を開発する予定である。



産業技術総合研究所と東京大学先端科学技術研究センターが組織的連携・協力に関する協定を締結 ( 2008/11/5 )
−新たなイノベーションプラットフォーム実現のための連携協定−
【 ポイント 】
●東大先端研と産総研が連携し、共同でイノベーション創出の新たな取組みを開始します
●企業等の幅広いニーズに応えるための具体的な仕組みを構築し、多様な共同研究を企画します
●新たな連携による産業技術の発展や産業人材の育成などを通じて国民生活の向上に寄与するよう努めます

【 概 要 】
 国立大学法人 東京大学先端科学技術研究センター【所長 宮野 健次郎】(以下「東大先端研」という)と独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)は、各々の研究開発能力や人材等を活かし、企業等の大型ニーズへの対応に向けて、革新的な研究シーズを共同で発掘し、実用化を視野に入れた基礎から応用までの共同研究を企画する組織連携を遂行するために、相互の連携・協力に関する協定を、11月5日に調印しました。

 本協定により、社会の変化に対応して機動的に学際的な研究を推進する東大先端研と、産業科学技術に関する国内最大の研究拠点である産総研との連携・協力を促進し、トライセクター連携(企業等を含む三者連携)における研究開発の推進を図ります。また東大先端研は東京大学の他部局と連携することによって東京大学全体と産総研との共同研究の推進にも寄与するよう努めます。

【 背 景 】
 国民生活の向上を目指して複雑多様化する社会のニーズに対応していくためには、既存の組織や研究分野などの枠組みを超えて学際的な研究開発を推進することが必要とされています。そのためにはそれぞれの研究分野において個別に共同研究を行うだけでは不十分です。例えば、環境・エネルギー分野では物理学や化学といった様々な分野の自然科学に加えて経済学などの社会科学も深く関連しています。このような背景の下、変化し続ける企業等のニーズを正確に把握し、これに応じて分野を超えた新たな共同研究を機動的に組織することでイノベーションを創出していく枠組み(イノベーションプラットフォーム)が望まれています。この機能を担うために新たな共同研究を次々と生み出す場となる新しい形式の組織連携が必要です。

【 経 緯 】

 産総研と東京大学は、両機関の連携・協力を促進し、相互の研究開発能力および人材等を活かして総合力を発揮することを目的に、平成16年12月22日に包括的な協定を締結しました。そしてこの協定の下に個別的な共同研究や人事交流などの具体的成果を得てきました。

 しかしながらこの包括的な協定では、企業を巻き込んだ共同研究を推進する具体的な方法については言及しておらず、個別的な共同研究は進めているものの、産業界、東京大学、産総研の三者の連携を推進する具体的な方法については定められていませんでした。

 また、平成19年に産総研に加わった新しいミッション「産業人材育成に対する貢献」を推進していくために、従来の協力協定に加えて実務レベルでの何らかの協定が必要な状況となりました。これらのことから今般、新たなイノベーションプラットフォームのスキームの実現を目指すため、当該協定の下部協定としてより具体的な内容を定めた協定を結ぶに至りました。

【 協定の内容 】

●「国立大学法人東京大学と独立行政法人産業技術総合研究所との間における連携・協力に係る協定」(平成16年12月22日に締結、平成17年1月1日から実施)の第4条2項「研究所および大学は前項の連携・協力を実施するため、本協定に基づく個別共同研究契約等を締結するものとする。」に基づき締結
●産総研と東大先端研の知や人材を結集し、資金提供を行う企業と共に本格研究を実施
●共同ガバナンス委員会を設置して共同シーズ発掘およびトライセクター連携型共同研究の企画
●企業等、他組織との連携を積極的に推進する戦略的な研究・人材のネットワークの構築
●相互の研究員の派遣・受入など人材交流の活発化による産業人材育成への貢献

 *参考図あり。

 本協定の下、共同研究テーマの探索と研究グループ組織のためのインテレクチャル・カフェの開催、企業等のニーズに対応した共同研究のコーディネート、連携推進のための諸経費や大規模な共同研究に至る前の萌芽的な共同研究の支援のためのマッチングファンドの設立など具体的な連携活動を進めるとともに、共同ガバナンス委員会を設置し、トライセクター連携を実施するための具体的な計画立案を開始する予定でおります。これらの活動により、イノベーションを推進し、国民の生活向上に努めて参ります。

【 用語の説明 】

◆トライセクター連携
 東大先端研、産総研、企業等の3つの組織が、それぞれの壁を越えて共同で1つの大型社会ニーズに応えるために、革新的な研究シーズの発掘や実用化を視野に入れた基礎から応用までの共同研究等を企画・遂行する連携をトライセクター連携と呼ぶ。

◆本格研究
 産総研では、未知現象より新たな知識の発見・解明を目指す研究を「第1種基礎研究」、既知の知識を幅広く選択・融合・適用する研究を「第2種基礎研究」、またプロトタイプなどの社会が利用可能な最終成果物を創り出すための研究を「製品化研究」と呼ぶ。
 研究テーマを未来社会像にいたるシナリオの中で位置づけて、そのシナリオから派生する具体的な課題に幅広く研究者が参画できる体制を確立し、第2種基礎研究を軸に、第1種基礎研究から製品化研究にいたる連続的・同時並行的に進める研究方法論を「本格研究(Full Research)」と呼ぶ。



金属錯体タイプ有機ナノチューブの大量製造法を開発 触媒、DNAの分離、金属ナノ材料の鋳型としての応用に期待 ( 2008/10/24 )
ポイント
 金属錯体が形成する初めての有機ナノチューブ大量製造技術を開発。
 金属錯体に特有の機能を利用した応用が期待できる。 
 用途開発のためのサンプル提供が可能に。 

概要
 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)ナノチューブ応用研究センター【研究センター長 飯島 澄男】有機ナノチューブチーム【研究チーム長 浅川 真澄】小木曽 真樹 研究員は、金属錯体が形成する世界唯一の有機ナノチューブを大量に製造する技術を開発した。グリシルグリシンと脂肪酸を結合した両親媒性分子をアルコールに懸濁し、ここへ金属塩の水溶液を加えるだけで、板状からナノチューブへの構造変化が10分以内に起こることを見出し、本大量製造法を開発するに至った。従来と比べて200倍以上の量を5分の1以下の時間で製造できる。

 産総研がこれまでに開発した大量製造が可能な有機ナノチューブには、表面に水酸基あるいはカルボキシル基をもつ2種類があるが、今回の金属錯体タイプ有機ナノチューブは表面に金属イオンをもつ3種類目の大量製造可能な有機ナノチューブとなる(図1)。

 有機ナノチューブの内外表面および膜中に存在する金属イオンを利用することで、比表面積の大きな触媒や、DNAやタンパク質などの機能性物質を分離する材料として期待される。また、鋳型合成により金属ナノ構造体へ変換することで、電子・磁気・光学材料としての応用も考えられ、医療・食品・バイオ・エレクトロニクスなどさまざまな分野での応用が期待される。

 本研究成果は、2008年10月28日〜29日にオルガテクノ2008(東京ビッグサイト)、2009年2月18日〜20日にナノテク2009(東京ビッグサイト)で展示公開される。

開発の社会的背景
 原油や資源の価格高騰が社会的に大きな問題となっているが、自己組織化などを利用した低エネルギー消費の製造技術の開発や、使用する資源の画期的な減量化にもつながるナノテクノロジーは、これらの問題を解決しうる重要な技術の一つとして大きな期待が寄せられている。また、さまざまな製品や材料について、石油由来の原料から再生可能な天然由来の原料への転換が求められるようになってきた。

研究の経緯
 産総研は過去10年以上にわたり、糖、ペプチド、核酸、油脂などの再生可能な天然由来物質から合成した両親媒性分子を溶液中で自己組織化させることで、ナノファイバーやナノチューブなどの有機ナノ材料を合成する研究を行ってきており、これらの技術分野での高いポテンシャルを維持してきた。2006年には、有機ナノチューブの大量製造に世界で初めて成功し、現在その用途開発を進めている。

 大量製造に成功した有機ナノチューブにはブドウ糖型とグリシルグリシン型の2種類があり、それぞれ水酸基とカルボキシル基が有機ナノチューブの表面に存在する。従って、例えば薬剤などに対する包接・吸着・分離剤としての応用を考えた場合、対象とする薬剤などは水酸基やカルボキシル基との相互作用が大きいものに限られていた。

 一方、産総研はグリシルグリシン型の両親媒性分子(以下「ペプチド脂質」と表現する)が、水中で金属錯体となっても有機ナノチューブを形成し、さらに金属イオンがナノチューブ表面に存在することを見いだしている。しかし、ペプチド脂質は水に溶解しにくいため、これまで1 Lの水から0.5 g程度しか製造できなかった。

 なお、本研究は、独立行政法人 科学技術振興機構の委託研究「戦略的創造研究推進事業発展研究(SORST)プロジェクト、平成17〜20年度」の一環として実施された。

研究の内容
 今回、ペプチド脂質をメタノールやエタノールなどのアルコールに懸濁(けんだく)させ、この懸濁液に金属塩水溶液を加えるだけで、金属錯体からなる有機ナノチューブが形成することを見いだした。アルコール懸濁後のペプチド脂質は板状構造であるが、金属塩を混合後、10分以内にナノチューブへ構造変換する。

 従来はペプチド脂質を水に溶解させるために、1当量のアルカリを加えた後、超音波照射と40℃程度の加熱が必要であった。しかも、20mlに0.01gという少量しか溶解できない。一方、今回開発した方法では、撹拌(かくはん)するだけでペプチド脂質を懸濁させることができるので、非常に簡便で低エネルギー消費の製造工程となる。また溶解度に制限されないため、製造量を飛躍的に増やすことができる。現在までに20ml当り2gと、従来比200倍の製造量を達成しているが、更に増やすことも可能と考えられる。

 今回大量製造が可能になった金属錯体タイプ有機ナノチューブでは、ナノチューブ表面に金属イオンが存在する。これまでに大量製造に成功した水酸基表面あるいはカルボキシル基表面をもつ有機ナノチューブにつぐ、第3の大量製造可能な有機ナノチューブである。金属イオンの種類としては、カルボキシレートアニオン(−COO−)に結合しうるすべての金属イオンを用いることが可能と考えられる。現時点で製造に成功している金属イオンとしては、亜鉛、銅、コバルト、ニッケル、鉄、マグネシウムなどがある。

 金属錯体タイプ有機ナノチューブの内外表面に存在するこれらの金属イオンを利用することで、水酸基表面あるいはカルボキシル基表面をもつ有機ナノチューブと異なる薬剤などの機能性物質の包接・吸着・分離剤としての応用が期待できる。例えば、銅錯体タイプ有機ナノチューブに、表面にアミノ基(−NH2)をもつ金ナノ粒子が選択的に吸着することを確認している。特に、DNAやタンパク質など生体高分子の吸着・分離への応用を期待している。


今後の予定
 金属錯体タイプ有機ナノチューブは、新規な構造をもつナノ材料であり、現時点では具体的な用途は決まっていないものの、さまざまな分野での応用が期待される。例えば、ナノ空間に配位した遷移金属を利用した触媒への応用や、金属配位性の官能基をもつ有用低分子、DNAやタンパク質などの包接・吸着・分離剤として、医療・健康・ナノバイオ分野への応用が考えられる。また、金属酸化物ナノチューブや金属ナノ粒子分散型のハイブリッドナノチューブへと変換することで、電子・磁気・光学ナノ材料としても期待できる。
 先に大量製造法を開発した2種類の有機ナノチューブと同様に、迅速な技術移転を目指して企業へのサンプル提供を行う予定である。

用語の説明

◆金属錯体
 金属イオンと有機分子が結合することで形成される分子。天然色素の紺青(プルシアンブルー)や、鉄運搬タンパク質のヘモグロビンも金属錯体の一種である。

◆有機ナノチューブ
 1984年に日米の独立した3つの研究チームが発見した、ある両親媒性分子が水中で自発的に集合して形成する中空繊維状の構造体のことである。それ以降も多くの両親媒性分子が同様な構造をもつ有機ナノチューブを形成することが報告されている。2006年に産総研で初めて量産型有機ナノチューブの合成に成功した。

◆グリシルグリシン
 アミノ酸の一つであるグリシンが2個つながったジペプチド。天然由来の緩衝剤や整肌保湿剤として産業的に広く使用されている。

◆両親媒性分子
 両親媒性分子とは、水に溶けやすい部分(親水部)と水に溶けにくい部分(疎水部)を一つの分子中に同時に持っている分子を意味する。脂肪酸、界面活性剤、脂質、せっけんなど。



日周体内時計は季節時計に四季を告げる −高脂血症治療薬がマウスの季節時計を動かすことを発見− ( 2008/10/9 )
◇ポイント
●高脂血症治療薬フィブレートは長日下(夏季)において、マウスの日周体内時計を進める 
●同時に、体内季節時計に影響し日内休眠(体温低下と深いノンレム睡眠)をおこす 
●この薬剤の受容体PPARαは、治療の難しい冬季うつ病等の創薬のターゲットとなりうる 

【 概要 】
 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)生物機能工学研究部門【研究部門長 巌倉 正寛 】生物時計研究グループ 石田 直理雄(のりお)研究グループ長 兼 上席研究員、大石 勝隆 主任研究員らは、徳島大学医学部 勢井 宏義(せい ひろよし)教授との共同研究で、人の高脂血症治療薬であるフィブレートが動物の冬眠などの体内季節時計に影響を及ぼすことを発見した。

 社会の24時間活動化、高齢化、IT化などによって冬季うつ病などの季節病が介護の現場などでも増えている。これらの季節病においては体温調節や睡眠において冬眠動物のような症状を示す。このことは、われわれのような冬眠しなくなった哺乳類においても、冬眠時代の分子メカニズムが残されている可能性を示唆しており、このメカニズムを解明することによって、冬期うつ病のような治療の難しい病気に対する治療法開発につながると期待される。

 われわれはフィブレートを餌に混ぜてマウスの飼育を行い、冬眠状態の生理と似た状態がマウスに現れることを発見した。フィブレートは肝臓細胞の核内受容体PPARαに結合することが知られており、われわれは昨年、フィブレートが日周体内時計を前進させ、それによる睡眠障害の治療効果があることを発見した。今回、核内受容体PPARαが日周体内時計だけでなく、体内季節時計をも動かすことを発見した。

 本成果の一部は、米国内分泌学会誌Endocrinology10月号に掲載される。また、本成果は、2008年10月20日〜21日に産総研つくばセンターで開催される「産総研オープンラボ」で公開する予定である(「体内時計分子からの創薬」として研究室公開予定)。

【 社会的背景 】
 近年、哺乳類の体内時計の分子メカニズムの研究が急速に進展している。また、動物の季節性のリズム現象は古くから知られており、脳内の日周時計中枢を破壊したクマやリスの冬眠のタイミングが異常になるという観察から、日周体内時計と体内季節時計が関連のあることは認識されている。しかしながら、日周体内時計と体内季節時計を結ぶ分子レベルでのメカニズムの研究は皆無であった。

 最近の日本社会の高齢化、24時間活動化に相まって、睡眠障害を訴える患者が増大している。また、高度管理化、IT化に伴って概日リズム睡眠障害や、冬季うつ病の増加が社会問題となっている。一般人の8人に1人、高齢福祉を支える職員の3人に1人がうつ状態であるというデータ(ファイザー株式会社「潜在的うつ病の実態調査」2008年4月11日)も出ており、季節時計を分子レベルで理解することはますます重要となっている。

【 研究の経緯 】
 産総研では、遺伝子レベルの研究から脂肪酸分解系が体内時計に強く制御されていること、特に肝臓で脂肪酸分解の中心的役割を担う核内受容体PPARαのリズム発現が体内時計に支配されていることを見出した。さらに、昨年このPPARαに働く高脂血症治療薬フィブレートが、朝寝坊マウス(睡眠相後退症候群)を早起きにさせる効果、すなわち日周体内時計を進める効果のあることを発見し、プレス発表した(2007年4月25日プレス発表)。その後、フィブレートの季節時計に対する効果の研究を行ってきた。

【 用語の説明 】
◆日内休眠
 日内休眠は眠りの長さと深さの点から見て、冬眠と睡眠の中間に位置する現象と考えられる。日内休眠では休眠時間が冬眠のように24時間を超えることはなく、十数度以下に体温が低下することもまれである。日内休眠を引き起こす環境因子として、低温、食物の欠乏、日長の短縮が知られている。

◆フィブレート
 高脂血症治療薬として長い歴史を持ち、わが国では、第二世代のフィブレート系薬剤であるフィブレートやフェノフィブレートが臨床に用いられている。おおむね血清の中性脂肪を2割から5割減少させ、悪玉コレステロールであるLDLコレステロールも2割程度減少させる。核内受容体であるPPARαに特異的に結合してPPARαの機能を活性化するリガンドの一種である。

◆冬季うつ病
 季節性うつ病は冬季うつ病とも呼ばれ、冬の日照時間が少ない時期になると元気が無くなるうつ病。もともと、うつ病は日照時間との関係が強く、北国の人ほどうつ病が多く、南国ではあまりうつ病にならないといわれている。冬季うつ病には通常のうつ病に効く抗うつ剤はあまり効果がない。冬季うつ病では眠りすぎてしまったり、過食で体重が増加したりする。要するに冬眠に近いような状態と考えられる。

◆核内受容体
 細胞の核内において機能するタンパク質で、それに特異的な物質(リガンド)が結合することで、特定の遺伝子のスイッチをONにする。

◆PPARα
 核内受容体の一種。主に肝臓や骨格筋において、脂肪酸の輸送や代謝に関連する遺伝子の発現(機能)を制御している。時計遺伝子がPPARαを制御すること、逆にPPARαのスイッチを入れると時計の位相が前進することを産総研生物時計グループが発見し、報告してきた。

◆日周体内時計
 地球上のほとんどすべての生物が内在性に有している、地球の自転周期に一致した約24時間の概日リズム(サーカディアンリズム)を刻むシステム。近年、時計遺伝子と呼ばれる一連の遺伝子群の昼夜の交代によって構成されていることが明らかとなってきた。

◆概日リズム睡眠障害
 人は、概日リズムとして知られる約24時間周期の体内時計を持っており、これに従って一日の生活を送っている。ところがこの睡眠障害を持つ人は出勤、登校、その他の社会生活において要求される通常の時間帯に寝起きすることができない。そのため社会生活、共同生活の協調性において深刻な障害をもたらす。

◆睡眠相後退症候群(DSPS)
 概日リズム睡眠障害と呼ばれるリズム障害の一種。睡眠時間帯が、望ましい時間帯から遅れた状態が慢性的に続き、睡眠時間帯を早めることが困難とされる。本症候群は、思春期に発症することが多く、受験勉強などによる夜更かしが発症契機となる場合もある。体温リズムやメラトニンの分泌リズムなどから、何らかの体内時計機構の障害が原因と考えられている。

◆ノンレム睡眠
 レム睡眠=脳が起きていて夢を見ているけれど体は眠っている睡眠。眠っているのに眼球が激しく動いている状態(Rapid Eye Movement)を指します。ノンレム睡眠=脳が眠る睡眠と考えられ、特定の脳波を出す。

http://www.aist.go.jp/db_j/list/relation.php?&co=8170


安価な高性能無機系吸放湿材を開発−省エネルギー空調ができるデシカント空調用の吸放湿材として最適− ( 2008/10/8 )
【 ポイント 】

●幅広い湿度領域において多量の水蒸気の吸脱着が可能な、無機材料による吸放湿材の開発に成功。
●市販のゼオライトと同程度の安価な原料から合成でき、シリカゲルの約2倍の吸着性能を持つ。
●廃熱等を利用したデシカント空調への適用により、空調の省エネルギー化を推進。


【 概 要 】

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)サステナブルマテリアル研究部門【研究部門長 中村 守】メソポーラスセラミックス研究グループ【研究グループ長 田尻 耕治】前田 雅喜 主任研究員、犬飼 恵一 主任研究員、および地圏資源環境研究部門【研究部門長 矢野 雄策】地下環境機能研究グループ【研究グループ長 竹野 直人】鈴木 正哉 主任研究員らは、市販のゼオライトと同程度の安価な原料を用い、幅広い湿度領域において多量の水蒸気等の吸脱着が可能な高性能無機系吸放湿材を開発することに成功した。

 高性能吸放湿材は、これまでにいくつもの開発がなされている。しかしながら、デシカント空調用として、相対湿度と水蒸気吸着量が直線的な関係にあり、幅広い湿度領域において吸脱着可能で、かつ安価な無機系吸放湿材は存在しなかった。

 今回、産総研は安価な工業用原料から、低結晶性粘土と非晶質アルミニウムケイ酸塩からなる複合体を合成することにより、相対湿度と水蒸気吸着量が直線的な関係にあり、かつ従来のシリカゲルの約2倍の吸着性能を持つ高性能な吸放湿材の開発に成功した。この吸放湿材は、無機材料なので300℃までの耐熱性を持つとともに、70℃という低温で実用上十分な再生(水蒸気の脱着)が可能であり、廃熱等を利用したデシカント空調等の高性能化や省エネルギー化が大いに推進されるものと期待される。


【 開発の社会的背景 】

 オゾン層の破壊や地球温暖化への影響を抑えるため、ノンフロン型の空調システムの開発や、省エネルギー対策だけでなく人間の湿度に対する感覚を利用し冷房病を防ぐなど、人に優しい空調システムであるデシカント空調システムの開発が進められている。

 デシカント空調とは、快適な生活空間を得るために、乾燥材(desiccant:デシカント)を用いて除湿を行う空調システムである。従来の冷却結露による除湿システムと比較して、過冷却防止のための再加熱エネルギーを必要とせず、乾燥材の再生(乾かす)熱源には空調から排出される低温排熱を利用できることから、電力消費量が少なく、省エネルギー効果が期待されている。しかしながら、デシカント空調に求められる乾燥材(水蒸気吸放湿材)としては、幅広い湿度領域で水蒸気を吸着・放出できる必要があるが、そのような無機材料の開発は技術的に難しく、またこれまでに開発された高機能吸放湿材は高価な原料が必要であり、安価に合成することが困難であった。そのため、低温での脱水が可能で吸放湿量が多く、かつ安価に合成ができる乾燥材(吸放湿材)の開発が求められていた。


【 研究の経緯 】
 産総研は、多孔質材料による吸放湿材の開発を進め、天然の土壌中に存在するナノチューブ状のケイ酸塩であるイモゴライトに着目し、その吸着性能について調べるとともに、大量合成法の研究を行ってきた(2003年11月「ナノチューブ状アルミニウムケイ酸塩の高濃度合成法」、「高湿度条件下において優れた吸水挙動を示す結露防止剤」、2003年12月「ナノチューブ状アルミニウムケイ酸塩によるヒートポンプ用熱交換材」の3件について特許公開)。その後も、イモゴライトの部分的な構造を持ちながら、大量に合成できるアルミニウムケイ酸塩の開発を続け、このたび相対湿度と水蒸気吸着量の関係が直線的で、幅広い湿度領域において吸放湿が可能なデシカント用吸着材の開発に成功した。

 なお本研究は、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構の平成19年度「地球温暖化防止新技術プログラム/ノンフロン型省エネ冷凍空調システム開発/カーエアコン用空気サイクル・デシカントシステムの開発」の支援を得て行ったものである。


*研究の内容は、関連資料をご参照ください。


参考画像:開発した高性能無機系吸放湿材


【 問い合わせ 】

 独立行政法人 産業技術総合研究所
 中部産学官連携センター 成果普及担当
 〒463−8560 愛知県名古屋市守山区下志段味穴ケ洞2266−98
 TEL:052−736−7064、7063 FAX:052−736−7403 E−mail:chubu-kouhou@m.aist.go.jp



■張力によって色が変化する高分子膜を開発 −力学的な力を簡便に可視化− ( 2008/10/7 )
ポイント
・ かけた張力に応じて高分子薄膜の色が瞬間的・可逆的に変化
・ 力学的な力を色の変化で見えるようにできる
・ 建築物などの構造体のストレスを検知するセンサーとしての応用を期待

<概要>
 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)ナノテクノロジー研究部門【研究部門長 南 信次】分子スマートシステムグループ【研究グループ長 吉田 勝】土原 健治 主任研究員は、張力に応じて色が瞬間的・可逆的に変化する高分子(ポリマー)膜の開発に成功した。

 ポリマー膜は、今回開発した置換ポリアセチレンを溶液からのスピンコート法により伸縮性のある基板上に製膜して作製した。このポリマー膜を、延伸機を用いて伸ばしたり縮めたりすると瞬間的・可逆的に色が変化した。この色の変化は繰り返し可能であり、さらに人間の手による伸縮のように小さな力でも色を変化させることができた。

 この技術は、これまで困難であった張力を簡便に可視化できる張力センサーとしての応用が期待される。

 本技術の詳細は、2008年10月20、21日に産総研つくばセンターで開催する「産総研オープンラボ」で公開する予定である。(詳細情報:「置換ポリアセチレン薄膜のクロミズム」として研究室公開予定)

 ※関連資料「図1 ポリマー1薄膜の延伸前後の色変化・ポリマー1の化学構造式」参照

<開発の社会的背景>
 熱・光・電場・磁場などさまざまな外部刺激により色の変化する高分子材料の存在は広く知られており、これまでにも各種表示素子、センサー等への応用がなされているが、力学的な刺激により色が変化する例は少ない。このようなポリマーが実用化されれば、簡便・安価に力学的な刺激を視覚的に知ることができる。たとえば建築物等の構造物の一部にストレスがかかっていることを色の変化により検知して危険な箇所を容易に発見できる張力センサーなどへの応用が期待される。

<研究の経緯>
 ポリアセチレンは導電性ポリマーとして有名であるが、空気中で不安定なため実用化が困難であった。一方、ポリアセチレンに置換基を導入した置換ポリアセチレンは、空気中で安定であり、溶液から製膜することも可能であるなど、実用化に適したポリマーである。産総研では、これまで新たな置換ポリアセチレンの合成や、その薄膜などの光学的性質の制御について研究を行ってきた。熱などの外部刺激による可逆的な色の変化、色変化の光による制御、キラリティの高速反転制御、高次構造の形成によるキラリティの増大等に成功している。

<研究の内容>
 置換フェニル基(図1参照)を導入したアセチレンを[Rh(norbornadiene)Cl]2触媒を用いて重合させると、主鎖がすべてシス体でらせん構造をもつポリマーが得られた(化学構造式1に繰り返し単位を示した)。このポリマーをクロロホルムに溶解し、伸縮性のある無色のシート上にスピンコート法で薄膜を作製した。この置換ポリアセチレン薄膜は作製時には黄色であった。この薄膜をシートごと延伸機により延伸すると、置換ポリアセチレン分子は延伸方向に配向した。さらに延伸を続けると、膜の色は黄色から赤色へと変化した。紫外−可視吸収スペクトルを測定すると500−600nm付近の吸収が増大していた(図2)。張力を取り除いて収縮させると、薄膜の色は赤色から黄色へと元に戻り、スペクトルは延伸前のスペクトルにほぼ一致した。このように伸縮による色の変化は可逆的であった。

 ※関連資料「図2 ポリマー1薄膜の延伸前後の紫外−可視吸収スペクトル」参照

 この薄膜の延伸、収縮を手で素早く行っても、色は瞬間的に変化した。さらにこの色の変化は繰り返しが可能で、延伸・収縮を繰り返すと黄色と赤色の間で色の変化を繰り返すことができた(図3)。

 ※関連資料「図3 ポリマー1薄膜の繰り返し伸縮時の540nmにおける吸光度」参照

 また、色の変化は延伸倍率ではなく、張力に依存して生じることが確認できた。

 色変化のメカニズムは明らかではないが、薄膜の延伸・収縮に伴ってポリマー分子の長さも伸縮し、これによって主鎖の共役状態が変化したためではないかと考えられる。

 さらに原料であるアセチレンの置換基を様々に変えると、生成した置換ポリアセチレンは、無色と黄色との間や、紫色と青色との間で、瞬間的・可逆的に張力による色の変化を示した。これらの色の変化も繰り返し可能であった(図4)。

 ※関連資料「図4 ポリマー2薄膜の伸縮による黄色と無色の変化」参照

<今後の予定>
 さらに鮮やかで、安定した色の変化を実現し、色のバリエーションを増やすため、ポリマーの種類の増大、ポリマー薄膜を作製する基板の検討、ポリマー単独膜の色の変化、他のポリマーへの練り込み等についても研究開発を行う。

<用語の説明>
◆スピンコート法
 溶液を基板上に垂らし、これを高速で回転させて溶媒を蒸発させることにより薄膜を得る製法。均一かつ平滑な高品質の薄膜を簡単かつ高効率で作製できる。半導体製造などに広範に利用されている。

◆置換ポリアセチレン
 主鎖が一重結合と二重結合で交互につながった導電性ポリマーであるポリアセチレンの水素原子が、何らかの置換基で置き換わったポリマーの総称。一般に導電性には乏しいが、空気中でも安定で、有機溶媒にも可溶であるものが多い。

◆キラリティ
 右手と左手のように鏡に映した対称的な構造を持っており、鏡像同士が重ね合わせることができない性質。特に分子中では、構成元素や結合順序は同じであるが、化学結合の組みかえなしには鏡像と重ね合わせることができない性質。

◆シス体
 この場合、主鎖の一重結合同士が二重結合に対して同じ側に結合しているものを指す。これに対し、反対側に結合しているものをトランス体という。


<問い合わせ>
独立行政法人 産業技術総合研究所 広報部 広報業務室
〒305−8568 茨城県つくば市梅園1−1−1 中央第2 つくば本部・情報技術共同研究棟8F
TEL:029−862−6216 FAX:029−862−6212 E−mail:presec@m.aist.go.jp



分析装置に極微量液体試料を複数同時に導入するスポット技術 規格の異なる機器をつないで、すばやく高精度に ( 2008/10/6 )
ポイント
 キャピラリー(毛細管)を吐出口とすることで、極微量液体試料を高精度に分注 
 キャピラリーの間隔を自由に変更できる分注ヘッドでアレイ状の分注を実現 
 環境分析や集団検診の迅速化や高精度化に期待 

概要
 独立行政法人 産業技術総合研究所 【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)環境管理技術研究部門【研究部門長 原田 晃】計測技術研究グループ【研究グループ長 田尾 博明】 青木 寛 研究員は、複数のキャピラリー(毛細管)を吐出口とし、その間隔を自由に変えて微量液体試料を分注できるアレイスポッターを開発した。 

 近年、質量分析装置やDNAマイクロアレイなど、生体関連物質を多数網羅的に分析する技術が広まっている。また、患者由来の検体をこれらの装置で分析しやすい形態に前処理する技術開発も進んでいる。しかしながら、前処理した後の液体試料を分析装置に導入する、いわば装置を“つなぐ”技術については、従来の方法では迅速性に欠け、微量液体試料の取り扱いが難しく分注精度も低いため、分析技術全体のパフォーマンスが著しく損なわれていた。

 今回、8本のキャピラリーを吐出口とし、その間隔を自由に変更できる分注ヘッドを開発し、ナノリットルレベル(ナノは10億分の1)の多数の極微量液体試料を高精度かつ迅速に分注できるアレイスポッターを作製した。これにより、環境やバイオ、医療の分野におけるDNAマイクロアレイあるいはソフトイオン化質量分析法などで、多数の検体を迅速かつ網羅的に分析・診断できるようになると期待される。
 
 本研究成果の一部は、2008年10月20、21日に産総研つくばセンターで開催の「産総研オープンラボ」で公開する予定である。(詳細情報:「ハイスループット分析のための微量サンプル高集積スポッタ」として研究室公開予定) 


開発の社会的背景
 近年、生体関連物質を網羅的に分析する技術が成熟しつつあり、創薬分野における医薬品代謝物の分析など研究室での利用に留まらず、集団検診で採取した検体の検査など臨床検査の一環として利用されるケースも目立ち始めている。一方、患者由来の検体を装置で分析しやすい形態に前処理する技術開発も進んでいる。この前処理技術では検体管理システムや自動分注装置を始めとするラボオートメーション技術が主に活躍しており、マイクロプレート上で望みの液体試料を望みの量だけ効率良く、しかも確実に取扱うことが行われている。しかしながら、前処理装置と分析装置とをつなぐスポット技術が未熟であり、迅速性に欠け、微量液体試料の取扱いが困難で精度も低いため、分析装置の性能を十分に生かせず分析全体の効率を大きく下げていた。今後、創薬分野や集団検診など、より多数の検体の高速スクリーニングが必要な分野では、網羅的分析技術のさらなる向上が望まれている。

研究の経緯
 化学物質の最適なリスク管理を実現するための評価・計測手法の開発が強く望まれる中、環境管理技術研究部門では環境診断技術を始めとする網羅的分析技術の開発に取り組んできた。このような分析技術は一般的に試料前処理装置とのスムーズな連携が肝要であるが、従来の分注技術では、マイクロプレート上のウェル(凹み)から分析装置の試料基板上に液体試料を分注する場合、分注の迅速性と分注の高精度・集積度とが互いに打ち消しあうトレードオフの関係になり、分析技術全体のパフォーマンスを著しく制限していた。そこで、網羅的分析技術の発展には新しい分注技術の開発が不可欠であると考え、迅速・高精度・高集積を同時に実現するアレイスポット技術の開発研究を進めた。

研究の内容
 今回、キャピラリーを吐出口として用い、複数のキャピラリーの間隔を自在に変更できる仕組みを考案した。これにより、市販の全てのマイクロプレートに対応し、異なる配列規格で作製された試料容器−試料基板間をフレキシブルにつなぐことで、液体試料の迅速な同時分注が可能となった。また、キャピラリー間隔を最大9 mmから最小0.9 mm(キャピラリー外径:360 μm)の間で拡大縮小させることができた。さらに、キャピラリー先端から試料溶液を吸引・吐出するためにキャピラリーにシリンジポンプを接続して送液系を構築した。その際送液系内部の残留空気を完全に除去することで、液体試料の分注量を小スケールから大スケールまで自由に選択できるだけでなく、ナノリットルレベルという高精度な極微量分注も実現した。すなわち、微量の液体試料を高精度かつ高集積度で迅速に分注できる技術開発に成功した。

 従来の分注技術では、吐出口にピペットチップ、ピン、ニードルおよびインクジェットヘッドを用いている。そのうちのピペットチップ式、ピン式、ニードル式の分注技術では、マイクロプレート間での吐出や分注を主な目的としており、試料基板の大きさやスポット間隔など配列規格がマイクロプレートと異なる場合には、装備した吐出口の全てを使用できず、分注工程が分析全体の効率低下を招いていた。また、近年開発されたインクジェットヘッド式の分注技術は、微量液体試料の高精度な吐出が可能であるが、吸引は技術的に不可能であり、吐出する液体試料を予め分注ヘッド内に充填しておかねばならないため、マイクロプレート上の液体試料を対象とした多検体処理にはそもそも適していない。今回開発した技術では、マイクロプレートから複数の液体試料を同時に吸引した後、キャピラリー間隔を変更することで、任意の間隔で直接試料基板上に複数の液体試料を分注することが可能である。

 今回の分注技術では従来よりも微量の液体試料を取扱えるようになり、同時に分注精度も向上した。従来の容量可変な分注技術であるピペットチップ式では最少分注量500 nL、分注量の相対誤差は500 nL分注時で5〜8%(25〜40 nL)である。また、従来の固定容量スポット技術であるピン式では、最少分注量は数nLであるものの相対誤差は数十%と大きい。ニードル式は両者の中間的な性能を持つ。これらに対し、本アレイスポッターの最少分注量は10 nL、相対誤差は20 nL分注時で2.7%(0.54 nL)である(表1)。すなわち本技術を用いれば、個々の分析に必要な試料量が少量となるため、より多種類の検査を繰り返し行うことが可能で、精度の高い分析・診断が容易になると期待される。 

 表1 本アレイスポッターの分注精度
  (※関連資料参照)

 本アレイスポッターを用いて、高速な分析技術として現在注目を浴びつつあるソフトイオン化質量分析法への応用を試みた。その代表的な方法であるMALDI−TOFMS(マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析法)では、現行の分注技術により1スポットあたり500 nL程度の液体試料を用いており、試料基板上での試料の広がりを考慮すると、スポット径は2 mm程度、分注間隔は4〜5 mm程度までになっていた。これは、通常のMALDI−TOFMSに装備されているレーザー照射径である100〜300 μmと比較すると明らかに過大であり、測定に供されない無駄なスペースが試料基板上に存在していることになる。本装置を用いて現行よりはるかに狭い間隔で試料分注を行うことで、試料基板や分析装置そのものの小型化に有効であることを確認した(図1)。
 
 図1 ソフトイオン化質量分析用に自作した小型試料基板上への8×8スポットアレイ(10 nL、1 mm間隔)
     刻印のある下地は現行の試料基板で5 mm間隔。
      (※関連資料参照)

 また、MALDI−TOFMSでは質量数のわかっている標準物質を液体試料に混合する内部標準質量校正法が一般的に適用されるが、プロテオーム解析やメタボローム解析など質量数や濃度が未知の試料を対象とする場合には、標準物質の最適化が困難であり障害となっていた。これを回避する方法として、試料基板上に標準物質と液体試料とを別々に塗布する外部標準質量校正法があるが、両スポット間の距離に依存して質量精度が著しく低下することが問題であった。そこで、本装置によりごくわずかな間隔で試料スポット近傍に標準物質を分注することで、高精度な外部標準質量校正が可能となり、迅速性が増し分析性能向上に有効であることを見出した。このように現行の質量分析装置は、従来の分注技術の規格に適合するようにいわば妥協して設計されており、本来の性能を十分に発揮できていないと思われるが、本アレイスポッターを用いれば、従来の試料前処理法の規格に対応しながら、よりコンパクトかつ高性能な試料基板や測定装置を利用することが可能になる。

今後の予定
 微量液体試料を高精度かつ高集積度に迅速分注可能という本技術の特徴を生かすことにより、例えばDNAマイクロアレイに基づく網羅的遺伝子診断技術である個々人の体質に合ったテーラーメイド医療の実現に大きく貢献するものと期待できる。また、質量分析装置等で使用される試料基板をすばやくしかも簡便に準備することが可能となるため、劣化しやすい生体関連物質などの微量液体試料の迅速分注に大きく貢献できると考えられる。

 今後はこのような応用の展開および分注量・キャピラリー間隔のさらなる微量化・微細化に努めるとともに、本技術に興味を持つ企業等と連携することにより、実用化研究を進める予定である。

用語の説明

◆アレイスポッター
 液体試料を試料基板上に多数アレイ状に分注する自動分注装置。試験管やマイクロプレート間での液体試料分注、質量分析装置に用いられる試料基板やDNAマイクロアレイの作製に使用される。

◆DNAマイクロアレイ
 ガラスなどの基板上に数千から数十万種類のDNA断片や合成オリゴヌクレオチドをプローブとして高密度に集積化固定したもの。蛍光団で標識化した目的遺伝子がプローブと結合したかどうかを蛍光検出することで、複数の遺伝子の発現量を一度に測定し分析したり、特定の遺伝子がゲノムに存在するかどうか、変異を起こしていないかどうかなどを検査したりする目的に使用される。

◆ソフトイオン化質量分析法
 試料分子の分解が起こりにくい温和な条件でイオン化して質量分析する方法の総称。分解しやすい高分子量化合物の分子量を決定することができるため、タンパク質や多糖類などの生体高分子の分析に利用される。2002年ノーベル化学賞受賞技術であるMALDI−TOFMS(マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析法)は、その代表的な方法である。

◆ラボオートメーション
 多数の検体処理の効率化・高速化を目的とした実験工程の自動化、ロボット化。コンピューターなどで制御されたロボットアームや液体制御技術などを組み合わせることにより効率化・高速化を図る。

◆マイクロプレート(またはマイクロタイタープレート)
 多数のウェル(凹み)を有するプレート状の実験・検査器具で、各ウェルを試験管として使用する。生化学分析や臨床検査などで盛んに用いられている。国際規格であるSBS(Society for Biomolecular Screening)規格に従って設計・製造されており、96ウェル(ウェル間隔9 mm)、384ウェル(ウェル間隔4.5 mm)、1536ウェル(ウェル間隔2.25 mm)のマイクロプレートが使用されている。多数の試料や情報を一度に処理することができるため、高速網羅的な分析には欠かせない。

◆内部標準質量校正法
 試料を分析する際に、質量数のわかっている標準物質を試料に混合して同時に質量測定し、標準物質の質量数と比較することで質量数を校正する方法。試料と標準物質とを同じ測定条件で質量測定するため質量精度が高い反面、標準物質のピーク位置やピーク強度の最適化が必要なため、質量数や濃度が未知の試料を対象とする場合には本法の適用が困難となる。

◆外部標準質量校正法
 試料と標準物質とを試料基板上の近傍に塗布することで、両者をそれぞれ別々に質量測定し質量数を校正する方法。内部標準質量校正法のように標準物質の最適化の必要がない反面、両スポット間の距離に依存して質量精度が著しく低下する。

◆テーラーメイド医療
 個人の持つ遺伝子配列のわずかな違いから、薬効や副作用を事前に判定し、患者ごとに最適な薬剤投与などを行う医療。



薬剤、膜タンパク質の網羅的機能解析を実現へ −ゲノム、プロテオーム解析に替わる新しい立体配座コード解析− ( 2008/9/25 )
【 新規発表事項 】

 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO技術開発機構)の産業技術研究助成事業(予算規模:約50億円)の一環として、独立行政法人産業技術総合研究所 環境管理技術研究部門 励起化学研究グループ(茨城県つくば市)は、生理活性物質(注1)の立体配座コード化に世界で初めて成功しました。今後は、立体配座コード化された生理活性物質の機能発現に関する構造変化や代謝反応を網羅的に解析するためのソフトウェアを開発し、様々な有機化学物質のライブラリーを構築し、2018年を目処に立体配座コードの国際基準の採用を目指します。

 現在、ゲノム解析には核酸塩基(注2)簡易コード、プロテオーム解析にはアミノ酸(注3)簡易コードがありますが、環境中に存在する生理活性物質、特に薬剤や膜タンパク質などの複雑な環や枝分かれ構造を有する有機化学物質の分子全体を網羅的に解析するための簡易コードはありませんでした。本研究グループは、赤外円二色性(注4)分光法を使用して、環境中キラル(注5)化学物質の分子構造体の立体配座コード化を実現しました。立体配座コード化は、製薬企業から求められている薬事申請に不可欠なキラル合成医薬品の絶対配置を決定するための基盤ツールとして活用できるほか、抗体医薬(注6)を含む新薬の次世代設計・開発支援ツールとして応用が期待されます。

 2008年11月26日より東京ビッグサイトで開催される「全日本科学機器展in東京2008」にて、立体配座コードを活用したキラル医薬品絶対配置決定法を披露します。

 抗癌剤(生理活性物質)の一つであるタキソールは化学結合が自由回転できるため理論上は図1で示した分子モデルを始めとする膨大な数の分子構造体が存在可能ですが、溶液中のフリーな状態では赤枠の分子構造体として主に存在することを世界で初めて実験的に証明しました。分子構造体においてフラグメント(注7)(アルファベット部分)とそのフラグメントに含まれる結合の中から構造を指定するために選択された結合角度(数値部分)をアルファベットと数値の組み合わせによる簡易コードで表しました。溶液中のフリーな状態で最も存在比率が高い「bacc−233323」では、赤枠の分子構造体部分の中のアセトキシ基(注8)(Eの枝分かれ部分)がなす結合角度は数値5桁目の“2”で表されますが、タンパク質に取り込まれたタキソールでは数値5桁目の“5”で表される部分にあたり、溶液中のフリーな状態とは構造が異なることを示しています。この相同性の解析から、タキソールはタンパク質に取り込まれると水素結合(注9)が切断される構造変化を起こし、赤枠の分子構造体部分の水素結合がスイッチのような働きをしていることを発見しました。

(注1)生物に対して活性を有する、すなわち生物に作用することで生物体に何らかの変化を誘起し得る物質のこと。
(注2)核酸塩基は核酸 (DNA、RNA) を構成する塩基成分のこと。主なものにアデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、チミン(T)がある。
(注3)アミノ基とカルボキシル基(カルボン酸構造 (R−COOH) の酸成分からなる官能基(−COOH)のこと)の両方の官能基を持つ有機化合物の総称のこと。生体のタンパク質を構成する最小ユニットを指す。
(注4)試料分子中にキラルな(不斉な)構造があると赤外領域の左右円偏光(偏光板を通過した直線偏光には左回り成分と右回り成分があるが、それぞれの成分のみを抽出したもの)に対する試料の吸収の差として観測される現象。
(注5)一時期サリドマイドの催奇性で社会問題化し認知されるようになった、2種類の鏡像関係の分子構造をとりうる性質のこと(例えば、右手と左手の関係)。
(注6)人が本来持っている免疫システムを活用した医薬品のこと。体内に侵入・発生した異物や微生物 (抗原)から細胞を守る「抗体」を人工的に作製し、医薬品として加工したもの。
(注7)タキソール特有のバッカチンIIIと呼ばれる特徴的な環骨格「bacc−」やtail(尾)と呼ばれる側鎖部分「tail−」等、分子構造中で一塊となっている小分子部品のこと。
(注8)カルボン酸の一つである酢酸構造 (CH3COOH) の酸成分から水素(H)がはずれた官能基(CH3COO−)のこと。
(注9)窒素、酸素、硫黄、ハロゲンなどの原子(陰性原子)に結びついた水素原子が、近傍に位置した他の原子の孤立電子対とつくる引力的相互作用のこと。タンパク質が二次構造以上の高次構造を形成する際、あるいは核酸が二重らせん構造を形成する際の重要な駆動力となっている。

1.背景及び研究概要

 ポストゲノム創薬の観点から、生理活性物質の機能発現に関与する構造変化、それに続く代謝反応を網羅的かつ簡便に解析できる手法の確立が求められています。既に、遺伝子情報についてはゲノム解析(核酸塩基簡易コード)、タンパク質の機能発現については、プロテオーム解析(アミノ酸簡易コード)によって簡易コード化されていますが、環境中に存在する生理活性物質、特に薬剤やタンパク質などの複雑な環、枝分かれ構造を有する有機化学物質の分子構造を網羅的に解析するための簡易コードはありません。簡易コード化するための立体配座自体はIUPAC(国際純正・応用化学連合)により1970年代に定義されていたものの、分子構造全体をどのように表すかは示されていませんでした。有機化学物質の分子構造の解析には、主にX線結晶構造解析や核磁気共鳴(NMR)分光解析が利用されてきましたが、数値化あるいはコード化されていないため、無数に存在する分子構造の違いを網羅的に比較するのが難しいという課題がありました。

 本研究グループでは、赤外円二色性分光法を用いて環境中キラル化学物質の解析を進める中で、溶液中においてキラルアルコールの直鎖アルキル鎖(注10)炭素数による偶奇効果(注11)を観測することに成功し、キラル化学物質の分子構造体をアルファベットと数値を用いてコード化(立体配座コード化)できることを見出しました。この発見に基づく立体配座コードの応用として、薬事申請に不可欠なキラル合成医薬品の絶対配置決定ツールや、抗体医薬を含む新薬の次世代設計・開発支援ツールなどへの活用が期待されます。将来的には、2018年度目処に立体配座コードの国際基準としての採用を目指して取り組んで行きます。

(注10)鎖状に繋がった構造の炭化水素基のこと。
(注11)アルキル鎖炭素数(n)が偶数か奇数かにより分子配向(注12)や物性が変化する現象。
(注12)高分子、薄膜、液晶などにおいて分子が並ぶことで形成された分子集合体の中の分子がなす向きのこと。

2.競合技術への強み

 本技術の特徴は以下の通りです。

1.生体分子、生理活性分子に限らず、これまで困難であった高分子、液晶、超分子、有機ナノ材料等の3D分子構造を持つ有機化合物の立体構造を立体配座コード化(簡易コード化)して表現(測定)することができます。
2.これまで分子は3Dでの重ね合わせでしか構造の違いを比較できませんでしたが、立体配座コード化により細部にわたって相同性の比較を行うことができ、構造の違いを視覚的に解析できます。
3.立体配座コード化することで、生理活性物質の機能発現に関与する構造変化、それに続く代謝反応を網羅的かつ簡便に解析することができるようになります。
4.将来的には、構造活性相関解析の精度を高めることで環境中化学物質のベネフィット−リスク評価への活用にも期待されます。

表1:本技術(コンフォモーム)とゲノム、プロテオームの特徴
 関連資料をご参照ください。

(注13)本研究グループが提唱。conformer(立体配座異性体)+ −ome(総体(オーム))をあわせた造語。

3.今後の展望

 今後は、生理活性物質の機能発現に関与する構造変化、それに続く代謝反応の網羅的解析を行うための立体配座コード化を進めます。具体的には、機能発現に関与する生理活性物質や膜タンパク質の分子構造データから立体配座コードを自動変換するソフトウェアの開発に興味を持つ企業や研究開発機関との協働で生理活性物質−膜タンパク質間相互作用の立体配座コード解析システムを構築して行きます。将来的には、環境中化学物質のベネフィット−リスク評価に活用することを視野に技術開発を進め、立体配座コードをコアとしたブレークスルーを起こしたいと考えています。

4.その他

(1)研究者の略歴
 1995年 東北大学大学院理学研究科前期課程化学専攻修了、1995−2001年 通商産業省工業技術院資源環境技術総合研究所大気圏環境保全部研究員、2001−2004年 独立行政法人産業技術総合研究所環境管理研究部門研究員、2004−2005年 独立行政法人産業技術総合研究所評価部リサーチャー、2005−現在   独立行政法人産業技術総合研究所環境管理技術研究部門研究員
東北大学理学博士(有機化学)取得 

(2)受賞 
 第22回 独創性を拓く 先端技術大賞、企業・産学部門 特別賞
 (表彰制度HP:http://www.fbi-award.jp/sentan/jusyou/index.html)

5.問い合わせ先

(1)技術内容について
 産業技術総合研究所 環境管理技術研究部門 励起化学研究グループ
 TEL:029−861−8636 FAX:029−861−8866
 研究紹介HP:http://staff.aist.go.jp/izumi.h/
 産業技術総合研究所 環境管理技術研究部門 励起化学研究グループ

(2)制度内容について
 NEDO技術開発機構 研究開発推進部 若手研究グラントグループ
 TEL:044−520−5174  FAX:044−520−5178
 個別事業HP:産業技術研究助成事業(若手研究グラント)(http://www.nedo.go.jp/itd/teian/index.html)

http://10.61.110.40/itd/teian/info/200925_1/index.html
http://venturewatch.jp/privacy/20080926_tn.html


カーボンナノホーンへ光治療用物質の内包に成功 マウスの皮下実験で光照射により腫瘍消滅 ( 2008/9/24 )
ポイント
 カーボンナノホーンへ光感受性物質を内包させ、外面に水溶性タンパク質を結合させた。 
 マウスの皮下移植実験で光照射により腫瘍が消滅した。 
 カーボンナノホーン自身の抗腫瘍効果が動物実験で確認されたのは世界初である。 

概要
 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)ナノチューブ応用研究センター【研究センター長 飯島 澄男】機能性ナノチューブチーム 湯田坂 雅子 研究チーム長と張 民芳 産総研特別研究員らは、学校法人 藤田学園 藤田保健衛生大学 土田 邦博 教授と協力してカーボンナノホーン(CNH)と光感受性物質とタンパク質の3者複合体を作製し、マウスの腫瘍に対してレーザー光照射による顕著な光線力学治療(PDT)効果と光温熱治療(PHT)効果を確認した。

 CNHというグラファイトシート一枚でできたナノサイズのチューブ(ツノ形状の先端、太さ2−5 nm, 長さ40−50 nm)に、光感受性の亜鉛フタロシアニン(ZnPc)と親水性タンパク質(BSA)を結合して、3者の複合体ZnPc−CNH−BSAを作製した。

 この3者複合体は、光照射によってZnPcが活性酸素を発生して周りのがん細胞を死滅させ、CNH自体も光を吸収して温度上昇するので周りのがん細胞を死滅させる。マウスの皮下に移植した腫瘍に3者の複合体を注射し、赤色レーザー光を照射したところ、腫瘍はほぼ消滅した。CNHの効果が動物実験で確認されたのは世界初である。

 本研究成果は、2008年9月22日から26日(米国東部時間)の間に、米国科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences USA, PNAS)のオンライン版に掲載される予定。

マウスの左右わき腹に皮下移植した腫瘍にZnPc−CNH−BSAを注射し、左側の腫瘍には赤色レーザー光を毎日15分ずつ10日間照射し、右側には照射しなかった。その結果、左側の腫瘍は消滅し、(黒い点は、レーザーによるやけど)、右側の腫瘍は日ごとに大きくなった。

開発の社会的背景
 薬剤を患部に届けるドラッグデリバリーシステム(DDS)開発では、ポリマーミセルやリポソーム運搬体などがよく研究されており、実用に供されているものも少なくない。しかし、一般的に、患部に到達する効率が低いという問題をかかえており、ナノマテリアルが、新規運搬体として関心がもたれているのも、患部への到達効率を改善できるかもしれないという期待によるところが大きい。

 ナノマテリアルには、球形状ナノ粒子と円筒状のナノチューブに代表され、前者では様々な材質のものがある一方で、後者は炭素質のものが代表的である。円筒状炭素材の場合には内部空間に薬剤を貯蔵できるのでDDS素材として有望であると考えられ、これまでに多数の研究発表がなされているが動物実験で効果が確かめられたことはない。

研究の経緯
 産総研ではこれまで両端が開いた円筒状構造のカーボンナノチューブについては、その作製と利用について数多くの研究成果を発表してきたが、カーボンナノホーン(CNH)(ツノ形状先端、太さ2−5 nm, 長さ40−50 nm)についても製造と燃料電池などへの応用について研究を行っている。

 CNHはさまざまな薬物を内部に包接できる構造をしているのでDDS運搬体として、我々は早くから着目していたが、これまでの種々の動物実験や細胞実験から、CHNは生体への短期毒性が極めて低いことを確認している。

 本研究の主な部分は、湯田坂らにより、独立行政法人 科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業 発展研究(SORST)の研究課題「カーボンナノチューブの特異な吸着現象−水素吸蔵とバイオテクノロジーへの応用−」の一環として2003年から2007年に行われた。また、JSTは本研究を、日本電気株式会社(NEC)、および、動物実験を担当した学校法人 藤田学園 藤田保健衛生大学と共同で行った。2008年4月からは産総研においてこの研究を発展させた。

研究の内容
 腫瘍に対して光線力学治療(PDT)という治療法が一部で臨床応用されている。PDTでは腫瘍組織内に光感受性物質を集積させ、レーザー光線を照射して活性酸素を発生させ、腫瘍細胞を死滅させる。光感受性物質としては、ポルフィリンがよく用いられている。

 本研究ではセラピーウインドーと呼ばれている皮膚透過性の高い600−700nmの波長の光をよく吸収するため、ポルフィリンよりPDT効果は高いと期待されている亜鉛フタロシアニン(ZnPc)を用いることを検討した。

 我々はパイ電子に富むZnPcはグラファイトパイ電子系と強い相互作用をすると考え、グラファイトからなるCNHをZnPcの運搬体として用いる案を得た。CNHの一部を開孔すると内面と外面両方にZnPcが吸着し、内部空間にZnPcを貯蔵し、高効率の運搬体となりうると考えられた。

 一方、CNH自体も、紫外から近赤外の広い波長範囲にわたって光を吸収して、局部的に温度が上昇して周りの細胞を死滅させる光温熱治療(PHT)効果を期待できる。従ってZnPc−CNHは、光照射により、PDTとPHTのダブル効果を発揮することが期待された。最大の難関は、ZnPcもCNHも水に溶けないため、生体内で使えないという点であった。しかし、これは、BSAタンパク質のような水溶性物質でCNHの外面を化学修飾することによって解決することができた。 

 ZnPc−CNH−BSA複合体は、次のような手順により作製した。まずCNHに光照射しつつ過酸化水素水中で80℃に加熱すると、ホーンの一部が開孔する。この光照射酸化で効率よく開孔でき、かつ開孔縁に親水性の反応基であるカルボキシル基(−COOH)が多くできる。これとZnPcを溶媒中で混合して、CNHへZnPcを内包させた。次に、得られたZnPc−CNHとタンパク質BSAを反応させた。CNHのカルボキシル基(−COOH)とタンパク質BSAのアミノ基(−NH2)が反応し、アミド結合(−CONH−)を介して両者が結合する。このようにして、3者複合体ZnPc−CNH−BSAを作製した。

 マウスの両わき腹の皮下に腫瘍を移植し7日経過した後、3者複合体ZnPc−CNH−BSAを両わき腹の局所に注射し、以後10日間、毎日15分、左側の腫瘍にのみレーザー光を照射した。レーザーは赤色ダイオードレーザー(波長670 nm)で出力160 mW(ビーム直径 5mm)である。

 その結果、約10日後には、腫瘍が消滅した。光照射を止め、数日おいても、再発はみられなかった。

 ZnPcのみ、あるいはCNHのみを投与した場合でも、レーザー照射によってある程度の抗腫瘍効果は認められたが、腫瘍消滅には至らなかった。また、コントロール(PBS:リン酸緩衝液)のみを投与した場合も、レーザー照射による効果は認められなかった。レーザー照射しないと、全ての場合において腫瘍サイズは日ごとに大きくなった。 

今後の予定
 今後、大学や企業との協力によって、静脈投与でも使えるように、BSA以外の化学修飾を検討し、カーボンナノホーン集合体のサイズ制御も検討して、実用化を目指したい。

用語の説明
カーボンナノホーン(CNH:Carbon Nanohorn)
 飯島澄男博士らのグループが1998年に発見したカーボンナノチューブの一種。直径は2〜5nm、長さ40〜50nmで不規則な形状を持つ。数千本が寄り集まって直径100nm程度の球形集合体を形成している。吸着剤、触媒担持体としての研究も盛んである。

光線力学治療(PDT:Photo−Dynamic Therapy)
 光感受性物質を腫瘍などの患部に集積させて、レーザー光を照射することによって腫瘍細胞などを死滅させる治療法で、臨床応用も一部で行われている。光感受性物質としてはポルフィリンなどが用いられ、光照射によって活性酸素を発生して周りの細胞を死滅させる。用いる光の波長は、皮膚を通過する度合いの大きい600〜700nmである。

光温熱治療(PHT:Photo Hyperthermia Therapy)
 光を照射することによって、そのエネルギーを熱として周囲の細胞に放散して温度上昇させて腫瘍細胞などを死滅させる治療法。

ドラッグデリバリーシステム(DDS:Drug Delivery System)
 薬剤を患部に選択的に送り届けるためのシステム。薬剤の投与効率を上げるとともに、副作用軽減を目的としている。例えば薬剤を静脈に注入した場合、薬剤が患部にだけ届けられれば副作用を減らし、薬剤の効果を高めることができる。



植物油から副生する「粗グリセリン」を、酵母の発酵で機能性界面活性剤へ変換 −バイオ燃料時代に応える、植物油の新しい有効利用法− ( 2008/9/11 )
ライオン株式会社(社長:藤重 貞慶、以下ライオン)は、独立行政法人 産業技術総合研究所(理事長:吉川 弘之、以下産総研)環境化学技術研究部門と共同で、植物油の利用で副生する「粗グリセリン」の有効活用について研究を進めてまいりました。
 この度、ライオンと産総研は、酵母の発酵プロセスを利用して、「粗グリセリン」から生分解性と機能性に優れた界面活性剤を効率的に生産する技術を開発しました。本技術は、バイオディーゼル燃料の普及等で急増する「粗グリセリン」の有効活用を促し、植物資源のリサイクルを通じて地球環境保全に貢献すると考えられます。
(なお本成果は、9月18日『日本油化学会第47回年会(2008年9月17日〜19日、日本大学理工学部駿河台キャンパス)』において発表予定です。)


1.研究の背景
 近年、石油からの原料シフトに伴い、植物油からバイオディーゼル燃料(BDF)や化学品の製造が進み、その際に副生する「粗グリセリン」の発生量が増大しています(右図)。そのため世界各国で「粗グリセリン」の有効利用技術が模索されています。ライオンにおいても、石油から植物原料への転換を積極的に推進し、パーム油を原料とした界面活性剤「MES(アルファスルホ脂肪酸メチルエステル塩)」の活用などに取り組んでまいりました。こうした植物油の利用で副生する「粗グリセリン」は、利用する際に精製が不可欠な上、用途も化粧品などに限られているため、その価値は高くありません。これまで、化学的手法により「粗グリセリン」を、高機能な界面活性剤や各種化学品の合成中間体などの有用物質へと変換しようという試みは多数行われてきましたが、反応収率や生成物の純度に難点があり、実製造に繋がるものは限られていました。また、発酵や酵素反応などのバイオプロセスの活用も早くから検討されてきましたが、生成物の純度は高いものの反応速度が遅い、一度に処理できるグリセリンの濃度が低く非効率的、といった問題がありました。そのため、バイオプロセスの導入に際しては、高濃度の「粗グリセリン」を利用できること、生成物自体が高付加価値であることなどが、要請されていました。


2.共同研究の経緯
 ライオンはパーム油を原料とした洗剤原料の開発や、副生する「粗グリセリン」の有効利用について、主として化学的な研究を続けてきました。
 一方、産総研では環境に優しい材料開発の一環として、天然の界面活性剤である「バイオサーファクタント※」の研究に取り組み、発酵プロセスの活用により、植物油からの量産技術の基礎を確立していました。
 今回ライオンは、自社の加工プロセスから副生する「粗グリセリン」の純度が比較的高いためバイオプロセスの導入に有利と考え、この分野で高い研究実績を有する産総研と共同研究を開始することとなりました。
※バイオサーファクタント・・・酵母菌や納豆菌といった微生物が作り出す天然の高機能界面活性剤。石油由来の界面活性剤に比べ、生分解性に優れ、少量でも効果を発揮できる等の特長をもつ。


3.今回の研究内容の詳細
 今回の研究では、「粗グリセリン」から目的の物質(界面活性剤)を効率的に作り出すことを目指し、まず、そのような発酵を可能とする微生物の探索から着手しました。探索作業では、20から30パーセントの「粗グリセリン」(通常の発酵プロセスに比べ、数倍の原料濃度に相当)を使用し、日本各地から採取した土壌や草花のサンプルから、界面活性剤生産菌の分離を試みました。
 この際、数千を超える微生物の中から、短時間で効率的に、目的の生産菌だけを選択できる新しい手法を開発したことが、研究の突破口となりました。本手法では、界面活性剤の生産の有無を、培養液の「液滴の広がり」具合を目で見て判別できることが特徴であり、従来の手法が数日を要するに比べ、わずか数十分で判定できます。その結果、花弁から分離したキャンディダ属の酵母が、「粗グリセリン」から糖を主成分とする界面活性剤を、高純度で分泌生産することを突き止めました。
 引き続き、生産条件の最適化に取り組み、原料の添加方法等を工夫したところ、通常の発酵プロセスの数倍〜数十倍に相当する、発酵液1リットル当たり170グラム以上の生産物を得ることに成功しました。本収率は、「粗グリセリン」からの界面活性剤の生産としては過去最高であり、更に、本技術による生産物は、石油から界面活性剤を化学合成する手法に比べ、得られる生産物の純度が非常に高く、副産物もほとんどないことが確認されました。
 本研究においては、(1)グリセリンを出発物とする発酵の研究は多数あったが、これほど「高濃度」で「高効率」な生産は類がないこと、(2)目的物(界面活性剤)の性質に着目し、その有無を"培養液の一滴"で簡単に判別する方法を開発したことで、培養や生成物の分析に費やす手間が飛躍的に短縮され、結果として極めて優良な生産菌の発見に至ったことなどが、これまでにないポイントと言えます。


4.総括
 今回の研究は、環境低負荷なプロセスによって、「粗グリセリン」から新しい機能性素材を提供するものであり、効率的な植物資源の循環を通じて、二酸化炭素の排出削減や地球環境保全へも貢献できる技術の一つとして期待されます。
 産総研では、バイオ・ケミカル技術の活用により、新たな構造や特性を持つ界面活性剤バイオサーファクタントの探索・開発を続けます。
 ライオンでは、今後も再生産可能な資源による循環型社会実現のため、副生される「粗グリセリン」を有効活用できる、新しい製法の研究に引き続き取り組んでまいります。



フレキシブルなCIGS太陽電池で効率17.7%を達成 −「貼れる」高性能な太陽電池シールも可能に− ( 2008/7/17 )
【 ポイント 】

●非シリコン系材料(CIGS薄膜)を使った「曲がる」「軽い」太陽電池。
●フレキシブルCIGS太陽電池で最高のエネルギー変換効率。
●曲面への設置や、高性能なモバイル太陽電池の実現に大きく前進。


【 概 要 】

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)太陽光発電研究センター【研究センター長 近藤 道雄】化合物薄膜チーム 仁木 栄 研究チーム長(副研究センター長)と石塚 尚吾 研究員は、帝人株式会社(以下「帝人」という)の協力を得て、非シリコン系材料であるCIGS薄膜を用いたフレキシブル太陽電池のエネルギー変換効率を飛躍的に高める技術を開発した。この技術によりセラミックス、金属箔、ポリマーなど様々なフレキシブル基板を用いた高性能な太陽電池の作製に成功した。

 銅(Cu)、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、セレン(Se)からなる半導体材料CIGSを用いた太陽電池は、光電変換層の厚さを数μmと薄くできる。この利点を活かし、曲面への設置や持ち運びが可能な、軽量でフレキシブルな太陽電池への応用が期待されている。これまでフレキシブルCIGS太陽電池の高性能化は困難であったが、今回、新しいアルカリ添加制御技術の開発、およびポリマー基板の新しいハンドリング技術の開発を行い、フレキシブルCIGS太陽電池のエネルギー変換効率を大幅に向上させた。

 本研究成果は、2008年7月28日〜29日に日本科学未来館で開催される第4回産業技術総合研究所 太陽光発電研究センター成果報告会、および9月1日〜5日にバレンシア(スペイン)で開催される第23回欧州太陽光発電国際会議(23rd European Photovoltaic Solar Energy Conference and Exhibition)で発表される。

 *参考画像あり。


【 開発の社会的背景 】

 深刻化する環境問題や高騰を続ける原油価格への懸念などから、太陽光発電をはじめとする新エネルギーへの期待と関心はますます高まっている。

 CIGS太陽電池は、(1)変換効率が高い、(2)経年劣化がなく長期信頼性が高い、(3)黒一色で意匠性に優れる、(4)耐放射線性に優れ宇宙空間など特殊な環境にも対応できるなど、優れた特長を持つ。また、エネルギーペイバックタイム(EPT)はおよそ1年と多結晶シリコン太陽電池の約半分程度であり、低コスト化も期待できる。すでに産業としての実用段階に移行しており、国内企業によるパネル型太陽電池モジュールの量産販売が2007年より開始されている。

 CIGS太陽電池のもう1つの特長は、光電変換層の厚さを数μmと薄くできることである。薄膜化により原料の使用量を少なくし、曲げることもできる。フレキシブルな高性能太陽電池が実現すれば、曲面への設置や、軽量、モバイル性といったニーズに応えることができ、太陽光発電の更なる用途拡大と普及が期待できる。


【 研究の経緯 】

 産総研は多元蒸着法によるCIGS光吸収層製膜技術をベースに、これまで、(1)製膜その場観察・制御技術の開発、(2)広禁制帯幅CIGSに適した太陽電池作製プロセスの開発、(3)CIGS光吸収層中の結晶欠陥制御技術の開発、(4)ラジカル化セレン源による省資源製膜技術の開発、などに取り組んできた。太陽光発電研究センターでは、CIGSの物性制御や評価などの基礎研究にとどまらず、集積型モジュールやフレキシブル太陽電池の高性能化など、産業化に向けた応用研究と開発にも取り組んでいる。

 なお、本研究は独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構 委託事業 太陽光発電システム未来技術研究開発「CIGS太陽電池の高性能化技術の研究開発(平成18〜22年度)」の支援を得て実施された。


【 研究の内容 】

 フレキシブルCIGS太陽電池の高効率化に必要とされる技術課題の一つに、CIGS光吸収層へのアルカリ添加の問題があった。ナトリウム(Na)などのアルカリ金属はCIGS太陽電池において、ホールキャリア密度の増加、開放電圧の増大など、性能向上に不可欠な不純物(ドーパント)として知られる。フレキシブルCIGS太陽電池の高性能化のために、これまでに、セレン化ナトリウム(Na2Se)やフッ化ナトリウム(NaF)などのアルカリ化合物を光吸収層の製膜前や製膜中、または製膜後に供給するアルカリ添加手法が試されてきた。しかし、このようなアルカリ化合物の多くは潮解性があるなど、物性的に不安定で取り扱いが難しく、再現性良く性能を向上させることはできなかった。

 産総研では、図1に示すように、裏面電極層を形成する前に、安定なアルカリ化合物であるケイ酸塩ガラス層(ASTL:Alkali−silicate glass thin layer)を基板上に形成し、この層の製膜条件の制御により、裏面電極層を通過してCIGS光吸収層に取り込まれるアルカリ量を制御する技術を開発した(以下「ASTL法」という)。この技術により再現性良く、しかも簡便にアルカリ添加を行うことができ、CIGS太陽電池のエネルギー変換効率の大幅な向上が実現した。表面が平滑なセラミックスを基板として、ASTL法を用いて作製したフレキシブルCIGS太陽電池は、小面積セルの真性変換効率として17.7%を達成した。また表面がやや粗いチタン箔を基板に用いた場合でも17.4%を達成できた。17.7%(図2)は、現在までに報告されているフレキシブルCIGS太陽電池の効率としては最も高い値である。


 *図1〜3は、関連資料をご参照ください。


【 開発の社会的背景 】

 深刻化する環境問題や高騰を続ける原油価格への懸念などから、太陽光発電をはじめとする新エネルギーへの期待と関心はますます高まっている。

 CIGS太陽電池は、(1)変換効率が高い、(2)経年劣化がなく長期信頼性が高い、(3)黒一色で意匠性に優れる、(4)耐放射線性に優れ宇宙空間など特殊な環境にも対応できるなど、優れた特長を持つ。また、エネルギーペイバックタイム(EPT)はおよそ1年と多結晶シリコン太陽電池の約半分程度であり、低コスト化も期待できる。すでに産業としての実用段階に移行しており、国内企業によるパネル型太陽電池モジュールの量産販売が2007年より開始されている。

 CIGS太陽電池のもう1つの特長は、光電変換層の厚さを数μmと薄くできることである。薄膜化により原料の使用量を少なくし、曲げることもできる。フレキシブルな高性能太陽電池が実現すれば、曲面への設置や、軽量、モバイル性といったニーズに応えることができ、太陽光発電の更なる用途拡大と普及が期待できる。


【 研究の経緯 】

 産総研は多元蒸着法によるCIGS光吸収層製膜技術をベースに、これまで、(1)製膜その場観察・制御技術の開発、(2)広禁制帯幅CIGSに適した太陽電池作製プロセスの開発、(3)CIGS光吸収層中の結晶欠陥制御技術の開発、(4)ラジカル化セレン源による省資源製膜技術の開発、などに取り組んできた。太陽光発電研究センターでは、CIGSの物性制御や評価などの基礎研究にとどまらず、集積型モジュールやフレキシブル太陽電池の高性能化など、産業化に向けた応用研究と開発にも取り組んでいる。

 なお、本研究は独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構 委託事業 太陽光発電システム未来技術研究開発「CIGS太陽電池の高性能化技術の研究開発(平成18〜22年度)」の支援を得て実施された。


【 研究の内容 】

 フレキシブルCIGS太陽電池の高効率化に必要とされる技術課題の一つに、CIGS光吸収層へのアルカリ添加の問題があった。ナトリウム(Na)などのアルカリ金属はCIGS太陽電池において、ホールキャリア密度の増加、開放電圧の増大など、性能向上に不可欠な不純物(ドーパント)として知られる。フレキシブルCIGS太陽電池の高性能化のために、これまでに、セレン化ナトリウム(Na2Se)やフッ化ナトリウム(NaF)などのアルカリ化合物を光吸収層の製膜前や製膜中、または製膜後に供給するアルカリ添加手法が試されてきた。しかし、このようなアルカリ化合物の多くは潮解性があるなど、物性的に不安定で取り扱いが難しく、再現性良く性能を向上させることはできなかった。

 産総研では、図1に示すように、裏面電極層を形成する前に、安定なアルカリ化合物であるケイ酸塩ガラス層(ASTL:Alkali−silicate glass thin layer)を基板上に形成し、この層の製膜条件の制御により、裏面電極層を通過してCIGS光吸収層に取り込まれるアルカリ量を制御する技術を開発した(以下「ASTL法」という)。この技術により再現性良く、しかも簡便にアルカリ添加を行うことができ、CIGS太陽電池のエネルギー変換効率の大幅な向上が実現した。表面が平滑なセラミックスを基板として、ASTL法を用いて作製したフレキシブルCIGS太陽電池は、小面積セルの真性変換効率として17.7%を達成した。また表面がやや粗いチタン箔を基板に用いた場合でも17.4%を達成できた。17.7%(図2)は、現在までに報告されているフレキシブルCIGS太陽電池の効率としては最も高い値である。


 図4は、関連資料をご参照ください。


【 今後の予定 】

 今回、小面積のフレキシブルCIGS太陽電池で実現した高効率化技術を、実用レベルのサブモジュールサイズまで拡大したものに応用し、スケールアップに伴う集積化プロセスや歩留り向上化などの技術課題の解決に向け取り組んでいく。


【 用語の説明 】

◆CIGS薄膜
 銅(Cu)、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、セレン(Se)からなるカルコパイライト型と呼ばれる結晶構造をもつ半導体材料Cu(In,Ga)Se2の薄膜。1974 年に米国のベル研究所がCuInSe2/CdSへテロ接合太陽電池により〜5%の変換効率を報告したのを発端とし、現在まで世界各国の大学・研究機関・民間企業においてこの材料の研究開発と製品化が進められている。In、Ga などのIII族元素組成比の制御や、硫黄(S)の混合などによって禁制帯幅(バンドギャップ)を制御できるのが特徴。現在のところ薄膜太陽電池としては最も高い実効変換効率19.9%が、非フレキシブルのガラス基板を用いた値として米国の再生可能エネルギー研究所より報告されている。

◆フレキシブル基板
 パネル型CIGS太陽電池モジュールで用いられているガラス基板とは異なり、金属箔やポリマーのように曲げることが可能な基板。フレキシブル基板を用いることで太陽電池の曲面への設置や、軽量であれば持ち運ぶことも可能となる。

◆エネルギーペイバックタイム(EPT)
 太陽電池の製造時に投入されるエネルギー量が、製造された太陽電池による発電によって回収されるまでの期間を示す。CIGS太陽電池では年間生産規模10MWでおよそ1.2年、100MWでおよそ0.9年程度といわれる。

◆ホールキャリア密度
 価電子帯の電子が伝導帯あるいはアクセプタ準位などの局在準位に励起すると、価電子帯には電子の抜けたプラスの電荷をもった粒子のように振舞う正孔(ホール)が発生し、p型半導体では電気伝導を担う。物質中におけるこの正孔の密度をホールキャリア密度という。

◆不純物(ドーパント)
 半導体の極性(p型、n型)やキャリア密度を制御する目的で添加される元素。

◆ケイ酸塩ガラス
 酸化ケイ素の網目状構造の中に、アルカリ金属やアルカリ土類金属などが部分的に修飾イオンとして存在し安定な構造をとる網状の高分子。

◆真性変換効率
 太陽電池セル面積のグリッド電極部分を除いた受光面積で算出される変換効率(Active area efficiency)。セル全体の面積から求められる実効変換効率(Total area efficiency)と区別される。太陽電池の正式な変換効率として認定されるためには、今回の真性変換効率とは別に認証機関による実効変換効率の公式測定が必要となる。

◆太陽電池特性
 太陽電池の評価は一般にソーラーシミュレーターによる電流−電圧測定から行われ、その特性はエネルギー変換効率(η)、開放電圧(Voc)、短絡電流密度(Jsc)、曲線因子(FF)などのパラメータで表される。電圧が0 Vの時の電流密度を短絡電流密度といい、電流が流れていない時の電圧を開放電圧という。変換効率とは、η = Voc×Jsc×FFの関係がある。

http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2008/pr20080716/pr20080716.html


「ALOXI(R) 注射剤」に術後の悪心・嘔吐予防の効能・効果を追加し、米国で販促開始 −エーザイ、MGI 買収後、初の製品上市− ( 2008/7/9 )
 エーザイ株式会社(本社:東京都、社長:内藤晴夫)と、エーザイの米国子会社、エーザイ・インク(本社:ニュージャージー州、会長:清水初)およびヘルシン・ヘルスケア SA(本社:スイス ルガーノ、CEO:Riccardo Braglia)は、米国東部時間8日に、術後24時間までの悪心・嘔吐(PONV)の予防を効能・効果とする「ALOXI(R)(一般名:パロノセトロン塩酸塩)注射剤 0.075mg」の販促開始を発表しました。本剤は、エーザイが2008年1月にMGIファーマ社を買収して以降、初めて効能・効果追加について販促を開始する同社製品です。

 ALOXI(R)は、2008年2月29日にFDA(米国食品医薬品局)よりPONV予防の効能・効果の追加承認を取得しました。本剤は、術後24時間までのPONVを予防するため、麻酔剤の導入直前に単回静脈注射で投与されます。術後24時間以降の有効性は実証されていません。ALOXI(R)は、米国で2003年から、化学療法に伴う悪心・嘔吐(CINV)の予防を効能・効果として販売されています。現在、化学療法に伴う悪心・嘔吐の予防のための経口薬として申請中のALOXI(R) カプセルをFDAが審査中です。

 術後の悪心・嘔吐は、麻酔および外科的手術後によく見られます。手術を受けた患者様の20〜30%が、術後回復期のいずれかの時点でPONVを起こします。複数のリスクファクターを持つ患者様では、その発症率は70〜80%にも上ります。PONVリスクファクターには、性別(女性であること)、非喫煙者、過去に乗り物酔いやPONVの発症歴があることや、術後のオピオイド使用などがあります。また、多くの患者様から、PONVの予防は術後の疼痛の回避よりも重要であるとの意見が寄せられています。

 米国では毎年、約3,800万件の全身麻酔が行われています。(2006年データ)そのうちの39%、1,500万件で、術後の悪心・嘔吐の制吐療法が行われています。この1,500万件の89%、1,340万件でセロトニン(5−HT3)受容体拮抗剤が使用されています。

 なお、今回追加承認されたPONV予防の効能・効果(ALOXIR 注射剤0.075mg)のほか、ALOXI(R)注射剤0.25mgは、初回および反復的な、中等度の催吐性を伴う化学療法による急性および遅発性の悪心・嘔吐の予防、ならびに初回および反復的な、高度の催吐性を伴う化学療法による急性悪心・嘔吐の予防の両方の効能・効果を初めて取得した、唯一のセロトニン受容体拮抗剤です。

http://www.eisai.co.jp/news/news200845.html


室内照明で働く可視光応答性酸化タングステン光触媒の開発 −可視光で様々な揮発性有機化合物を完全に酸化分解− ( 2008/7/9 )
<ポイント>
 ●難分解性の揮発性有機化合物でも完全酸化分解できる酸化タングステン(WO3)光触媒を開発。
 ●パラジウムまたは銅化合物微粒子を助触媒として混練するだけで飛躍的に活性が向上。
 ●室内の蛍光灯照明で酸化チタン系光触媒の7倍以上の強力な酸化分解活性。


<概要>
 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)エネルギー技術研究部門【研究部門長 長谷川 裕夫】太陽光エネルギー変換グループ 杉原 秀樹 研究グループ長、佐山 和弘 主任研究員、荒井 健男 産総研特別研究員らは、屋内や車内などの紫外線の少ない可視光や蛍光灯照明条件でも様々な揮発性有機化合物(VOC)を完全酸化分解するのに十分な活性の可視光応答性の酸化タングステン(WO3)光触媒を開発した。完全酸化分解とは有機物を完全に酸化して二酸化炭素(CO2)と水とに分解して無害化することである。VOCとしてはホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ギ酸、酢酸などのほか、難分解性の物質として知られるトルエンなどの芳香族化合物の完全酸化分解にも成功した。

 この光触媒は、WO3半導体光触媒に、パラジウム(Pd)および銅(Cu)化合物という優れた助触媒を開発、添加したことにより実現した。助触媒微粒子粉末をWO3粉末と単に混練するだけで活性が飛躍的に向上する。可視光照明によるアセトアルデヒドの分解について比較すると、光触媒として最も代表的な酸化チタン(TiO2)系光触媒と比べて、Pd助触媒を添加したWO3系光触媒は7倍以上の大きな酸化分解活性を示した。

 紫外線の少ない屋内や車内などで、塗料や接着剤、建材から放出される有機溶媒やシックハウス原因物質の分解や悪臭物質の分解、空気清浄機への応用など様々な利用が期待できる。

 本技術の詳細は、平成20年7月16日に東京大学(駒場)で開催される第8回光触媒研究討論会で発表される。

 ○写真:ガラス基板に塗布した酸化タングステン光触媒
  *関連資料を参照してください。


<開発の社会的背景>
 現在、TiO2を用いた光触媒が様々な分野で実用化されている。例えば、有害物質を分解する機能を生かした空気清浄機やエアコン、ブラインド、壁紙、また防汚機能を持つ外壁材や窓ガラス、防曇機能を持つ自動車ドアミラー、抗菌機能を持つ病院用タイル、超親水性を利用した外壁冷却技術などに応用が広がっている。しかし、TiO2は紫外線しか吸収・利用できないという欠点がある。

 太陽光にはわずか3%(エネルギー換算)しか紫外線は含まれておらず、また、蛍光灯や白熱電球の光には紫外線は、わずかしか含まれていない。最近の住宅の窓ガラス(防犯ガラスやエコガラス)や車のフロントガラスも紫外線を大部分カットする。そのため、紫外線の少ない屋内や車内環境でも可視光によって効率的に働く光触媒が開発され、シックハウス症候群や化学物質過敏症の原因有機物質や各種VOC、悪臭物質を分解除去できるようになることが望まれている。


<研究の経緯>
 これまで、産総研では、水を光で分解して水素を製造する可視光応答性光触媒の開発を行ってきており、可視光で水を水素と酸素に完全分解する光触媒システムを世界で初めて開発した実績を持つ(プレス発表 2001年12月6日)。このシステムでも白金担持WO3半導体光触媒を用いたように、水分解にはWO3半導体は利用されてきたが、有害物分解にWO3を用いた例は非常に少ない。それは、WO3単独ではわずかな活性しか無く、完全酸化分解できなかったためである。しかし、WO3には波長460nmまでの可視光を吸収できるなど多くの長所があり、この長所を生かせば有害物の実用レベルの完全酸化分解が達成できると考えて研究を進めてきた。

 なお、本研究は独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「循環社会構築型光触媒産業創成プロジェクト」(平成19年度開始)の中で東京大学と共同実施した成果である。


<研究の内容>
 WO3粉末に様々な助触媒を添加(担持)した光触媒の完全酸化活性を調べたところ白金(Pt)、パラジウム(Pd)、銅(Cu)の化合物だけが、有機物の酸化分解の活性を向上させた。Ptは非常に高価であるため、実用化を考えて、より安価なPdとCuの助触媒について検討した。図1は今回開発したWO3系光触媒粉末であるが、助触媒であるPdまたは酸化銅(CuO)微粒子粉末を乳鉢でWO3粉末と混練するという簡単な方法で作製できる。

 ○図1:(a)Pd−WO3光触媒粉末
     (b)CuO−WO3光触媒粉末
  *関連資料を参照してください。

 図2は各種光触媒に可視光を照射してアセトアルデヒドを分解したときの完全酸化によって発生するCO2量の変化を示している。なおアセトアルデヒドは光触媒活性の比較に用いられる代表的なVOCである。TiO2(標準的な市販品)は可視光だけではほとんど活性を示さなかった。それ以外の触媒では、可視光により気相のアセトアルデヒドは見かけ上ゼロになったが、助触媒を添加しないWO3や可視光応答型TiO2(vis−TiO2)では、CO2の発生量の変化の結果から完全酸化が難しいことがわかった。これは酸化反応過程の中間体である酢酸やギ酸、ホルムアルデヒドの段階で止まってしまいそれ以上の分解が進みにくいためで、WO3上の酢酸やギ酸、ホルムアルデヒドの蓄積も確認された。中間体が蓄積すれば、活性の低下や触媒の劣化だけではなく、中間体による汚染拡大の可能性もある。分解される有機物の減少だけではなく発生したCO2増加量から完全酸化分解(=完全無害化)できるかどうかで触媒の性能を評価すべきである。

 TiO2系光触媒の活性は反応の後半で大きく低下したが、これは反応中間体が蓄積して触媒の働きを阻害しているためと考えられる。一方、Pdを助触媒としたWO3光触媒(Pd−WO3)は高い活性を維持し、速やかに全てのアセトアルデヒドの完全酸化分解に至った。反応が半分進んだ時点で比較するとCO2発生速度としてPd−WO3はvis−TiO2よりも約7倍活性が高い。反応後半では更に活性の差は大きくなった。また、Pdより更に安価なCuOを助触媒としたWO3光触媒(CuO−WO3)の場合はPd−WO3よりは活性が低いが、反応が半分進んだ時点でのCO2発生速度から評価するとvis−TiO2よりも約3倍活性が高かった。

 ○図2:アセトアルデヒド分解によるCO2発生量の変化
  *関連資料を参照してください。

 次に、代表的な反応中間体の一つである酢酸の酸化分解を比較した(図3)。アセトアルデヒドの分解と同様にPd−WO3光触媒の活性はvis−TiO2よりも飛躍的に高く、速やかに完全酸化分解に至った。また、別な反応中間体であり、シックハウス症候群の原因物質であるホルムアルデヒドについても、Pd−WO3およびCuO−WO3光触媒により、ほぼ完全に酸化分解できた。

 ○図3:酢酸分解によるCO2発生量の変化
  *関連資料を参照してください。

 実際に近い使用条件である低濃度での流通実験についても触媒の活性の評価を行った(表1)。この実験では、照明器具のフードに光触媒膜を取り付けることを想定して、アクリル付き蛍光灯を光源に用いた。助触媒を添加しないWO3やvis−TiO2は完全酸化率が100%より小さく、完全酸化できずに中間体が多量に蓄積または放散している。アセトアルデヒドの除去率も100%より小さく、アセトアルデヒドの多くが触媒上で反応できずに流通系を抜けることがわかる。一方、Pd−WO3を用いると完全酸化率が100%で、かつ除去率が100%となり、流入したアセトアルデヒドが全てCO2へ完全酸化分解できたとわかる。つまり、流通実験においてもPd−WO3はvis−TiO2より高性能であった。また、CuO−WO3でも、蛍光灯照射、低濃度(2ppm)条件で、流通系での完全酸化率及び除去率がほぼ100%であった。

 ○表1:流通反応系でのアセトアルデヒド分解の結果
  *関連資料を参照してください。

 非常に難分解性であり、代表的な芳香族系VOCであるトルエンをPd−WO3により酸化分解した結果を図4に示す。トルエンは塗料や接着剤の希釈剤として使用されるVOCである。助触媒を添加しないWO3では活性は低く、反応途中でCO2発生量が低下した。反応中間体が触媒表面に蓄積して光触媒の活性が低下したためである。一方、Pd助触媒を担持する(Pd−WO3)と活性は大きく向上し、CO2の発生量から、完全酸化分解ができたと考えられる。また、反応を繰り返し光触媒活性の劣化がほとんどないことも確認した。

 ○図4:トルエン分解反応によるCO2発生量の変化。
  *関連資料を参照してください。

 以上のように、適切な助触媒を担持したWO3可視光応答性光触媒によりTiO2系光触媒以上の効率で多くの有害有機物質の完全酸化分解(完全無害化)ができた。WO3は安定性が高く、元素としての有害性もない。さらに混練法を用いる作製法は簡単で大量合成し易い。実用レベルに近い特性を持つ半導体光触媒であるといえる。


<今後の予定>
 実用化のための課題は、(1)触媒の低コスト化技術、および(2)活性を低下させずに製品に実用強度で成膜する技術の確立である。(1)のコストに関しては、TiO2より触媒原料コストが高いので、初期は付加価値の高い用途の実用化を目指す。例えば、照明器具フードや高性能空気清浄機、自動車車内利用、などである。光を効率的に吸収し触媒使用量を少なくする光閉じ込め技術などの検討をすすめる。Pd助触媒は、銅化合物より高価であるため、助触媒量を更に少なくする検討を進めている。Pd−WO3は高性能空気清浄機フィルターや塗装工場の浄化、安価で抗菌効果も期待できるCuO−WO3は病院用タイルや一般家庭用の照明器具フードや壁紙、ブラインド、などそれぞれに適した応用が考えられる。(2)の成膜技術に関しては、研究グループの持つ薄膜作成技術を生かし、長期信頼性向上も含めて研究を進めていく。


<用語の説明>
◆揮発性有機化合物(VOC)
 VOC(Volatile Organic Compounds)とも呼ばれ、常温常圧で空気中に容易に揮発する有機化合物の総称。WHOの区分では沸点が50〜260℃の有機化合物を示す。ホルムアルデヒドは住宅等の室内空気汚染(シックハウス症候群)の原因物質として知られており、発生源としては合板、壁紙用接着剤、家具などがある。アセトアルデヒドは実験評価が難しいホルムアルデヒドの代用として光触媒活性を比較する際に使用される最も代表的なVOCであり、またタバコなどの悪臭物質として知られている。一般にアセトアルデヒド分解の方がホルムアルデヒド分解より難しい。トルエンは接着剤や塗料の溶剤及び希釈剤として使用され、内装材等の施工用接着剤・塗料から放散される可能性がある。

◆完全酸化分解
 有機物は酸化されると最終的にはもっとも安定なCO2になるが、酸化力が不十分だと、酸化途中の物質が中間体として生成・蓄積することがある。中間体としてはギ酸や酢酸等がある。また、二酸化チタン光触媒によるトルエン分解の場合は中間体が重合して有色の準安定中間体が蓄積し、触媒が褐色になりやすい。準安定中間体が大量に蓄積すると、触媒の劣化につながる。完全酸化分解ではない場合は、反応する有機物の炭素数総量と生成したCO2の炭素数総量が一致しない。

◆可視光応答性
 可視光は400nm(380nm)から800nmまでの波長領域の光である。代表的な光触媒である二酸化チタンはちょうど可視光領域の短波長側より短い波長の光を利用する紫外光応答性光触媒であるので、一般には二酸化チタンの吸収より長い波長の光を利用できる光触媒が可視光応答性光触媒とされる。

◆光触媒
 光触媒は光吸収により励起され、酸化反応および還元反応を引き起こす触媒物質である。不均一系の半導体光触媒や均一系の色素光触媒などがあるが、本発表は前者。半導体触媒は伝導帯と価電子帯が禁制帯で隔てられたバンド構造を持つ。バンドギャップ以上のエネルギーを持つ光により、価電子帯の電子が伝導帯に励起され、伝導帯に電子が、価電子帯にその抜け殻の正孔が生成する。伝導帯に励起された電子は価電子帯の電子よりも還元力が非常に強く、暗時では起こらない還元反応を起こすことができる。同様に、正孔も強力な酸化反応を起こす。有機物分解の場合、正孔により有機物が酸化されて、最終的にCO2に完全酸化される。一方、伝導帯に励起された電子は酸素を還元し、最終的に水が生成する。

◆助触媒
 半導体粉末上に担持したり、反応系に添加することで活性を発現させたり向上させる物質。担持助触媒としては金属や酸化物、非酸化物等がある。助触媒の役割は、活性部位として働いたり、電荷の蓄積により多電子反応を促進したり、電荷分離を促進するなど様々である。本発表のWO3に対しては、PdやPt等の金属およびCuO等の銅化合物の助触媒は酸素の還元を促進する働きをしていると考えられる。銅化合物としてはCuBi2O4などの複合酸化物も有効であることを確認している。

http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2008/pr20080709/pr20080709.html


「患者一人ひとりに合わせた医療」の実現に向けた分子臨床医学データベースを公開 ( 2008/7/3 )
網羅的疾患分子病態データベース(iCOD; Integrated Clinical Omics Database)


 東京医科歯科大学(所在地:東京、学長:大山喬史)の情報医科学センターの田中博教授を中心とするグループは、科学技術振興調整費の重要課題解決型研究「網羅的疾患分子病態データベースの構築」プロジェクトにおいて、国立がんセンター研究所、産業技術総合研究所、理化学研究所、日立ソフトと共同研究で構築した分子臨床医学データベースを、ウェブサイト( http://omics.tmd.ac.jp/ )で平成20年7月3日(木)15:00より、公開を開始します。

ポイント

 ●400以上のがんの患者症例について、詳細な臨床情報と網羅的な分子(オミックス)情報*1を蓄積し公開 
 ●疾患の予後予測と早期診断などを可能にする、オミックス情報と臨床情報の関係を解析するツールを提供 
 ●共同研究機関のデータベースと連携した多施設にわたる分子臨床医学データベースを実現 
 ●早期診断や手術後の再発の予測など「患者一人ひとりにあった医療」(オミックス医療*2)の実現のための知識の集積を目指す 

背景

 ゲノム、プロテオームなど、近年まとめてオミックス情報と呼ばれている生命分子の網羅的情報の発展に関しては、最近目覚しいものがあります。すでに一部では医療への応用も始まっていますが、これらの分子的なオミックス情報と、これまでの医学に基いた臨床情報との関係は未だ明確でないものも多く、分子的なオミックス情報を疾患の診断・治療・予後に真に役立てる「新しい医学」の体系化は現在でも確立していません。

研究成果の概要

 本データベースは、東京医科歯科大学のオミックス解析により網羅的な遺伝子発現情報の得られたがん疾患の症例情報に加えて、国立がんセンター研究所らが公開している疾患ゲノムデータベースGeMDBJ*3のデータを併せて、合計400症例以上集積したものです。最も特徴的であるのが、東京医科歯科大学の症例については、生活習慣、病歴、臨床検査、画像診断、病理診断といった詳細な臨床情報を蓄積している点です。これらの詳細な臨床情報とオミックス情報を統計的手法によって解析し、臨床情報と分子情報の関連性から、がんの早期診断や手術後の再発の予測など「患者一人ひとりにあった医療」(オミックス医療*2)の実現のための様々な機能を東京医科歯科大学が中心となって日立ソフトとともにシステム構築を行いました。

 また、オミックス情報解明のスピードが著しい中、理化学研究所のOmicDownload*4、PosMed*5や産業技術総合研究所のH−Invitationalデータベース*6との連携によって、常に最新の情報が得られ、オミックス情報によるデータマイニングを支援する仕組みも構築しております。

 医療実現のための知的研究基盤として、医師・研究者の方々が、ユーザ登録をすることで利用可能となっております。今後は、東京医科歯科大学情報医科学センターが中心となってこのデータベースをより多くの方々に利用して頂けるよう、維持・発展させていきます。
注釈

*1 網羅的分子(オミックス)情報
 網羅的分子(オミックス)情報とは、細胞の中にある全遺伝情報、すなわちゲノム(Gen−ome)、細胞の中で発現している遺伝子についての全情報(トランスクリプトームと呼ばれるTranscript−ome)、細胞や体の中で生体機能を果たすために遺伝子から合成されたタンパク質の全情報(プロテオーム;Prote−ome)など、生体内に存在する分子に関わる情報の総称です。[戻る]

*2 オミックス医療:Omics−based Medicine
 オミックス医療とは、生得的なゲノムの個人による違いに基づいたこれまでの「テーラメイド医療」の枠組みを拡張して、最近発展の著しいDNAチップや質量分析器(田中耕一さんのノーベル賞受賞対象)によって測定可能となった様々なオミックス情報、すなわち疾患に罹患した細胞でどんな遺伝子が発現しているか、あるいはどのようなタンパク質が働いているかなどの情報を駆使して、がんなどの疾患の早期診断、手術後の再発の正確な予測など、「患者一人ひとりに合わせた医療」を実現することを目指すものです。[戻る]

*3 疾患ゲノムデータベース:https://gemdbj.nibio.go.jp/dgdb/
 疾患ゲノムデータベース(GeMDBJ; Genome Medicine Database of Japan)は、アルツハイマー病、がん、糖尿病、高血圧、喘息および薬理遺伝学(ファーマコジェネティクス)のためのミレニアム・ゲノム・プロジェクト(MGP)研究グループ(SGMGP)により構築された統合データベースです。[戻る]

*4 OmicDownload::http://omicspace.riken.jp/gps/download/
 選択した遺伝子群に関する情報をゲノムアノテーションの統合データベースOmicBrowse (http://omicspace.riken.jp/gps/) から一括ダウンロードするツール。iCODで選択した遺伝子について、ゲノム上でその周辺に存在するアノテーション情報をOmicBrowseデータベースから取得してダウンロードできます。[戻る]

*5 PosMed:http://omicspace.riken.jp/PosMed/
Positional Medlineの略。医学用語に限らず、あらゆる英語のキーワードによって「機能」と「遺伝子」のつながりを、既存の知識情報に基づき推論的に検索できる強力な検索ツール。PosMedに関する詳しい内容はこちら、http://www.riken.go.jp/r−world/info/release/press/2008/080319/index.html [戻る]

*6 H−Invitationalデータベース(H−InvDB):http://www.h-invitational.jp/hinv/
 ヒトの遺伝子と転写産物を対象とした統合データベースです。ヒトのすべての転写産物の配列をあらゆる手法で解析することにより、ヒト遺伝子の構造、選択的スプライシング変異体、機能性RNA、タンパク質としての機能、機能ドメイン、細胞内局在、代謝経路、立体構造、疾病との関連、遺伝子多型(SNP、マイクロサテライト等)、遺伝子発現プロファイル、分子進化学的特徴、タンパク質相互作用、遺伝子ファミリーなどの精査されたアノテーション(注釈付け)情報を提供しています。[

http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2008/pr20080703/pr20080703.html


東アジアの森林における二酸化炭素吸収量の多点観測 ( 2008/4/23 )
−気候との関係や変動の実態を解明−

 (独)国立環境研究所平田竜一NIESポスドクフェロー(現所属:(独)農業環境技術研究所)および(独)産業技術総合研究所三枝信子主任研究員(現所属:(独)国立環境研究所)らは、国内研究機関・大学と共同で日本、ロシア、モンゴル、マレーシア、タイなど東アジアの森林において数年間にわたり行った二酸化炭素吸収量(放出量を含む。以下同じ。)の観測結果を総合的に解析した。国を越える広い緯度帯の多種多様な森林の二酸化炭素吸収量を長期連続観測し、総合的な解析を行った例は世界的にほとんどない。

 今回の解析では、二酸化炭素吸収量が森林の種類によって異なる季節変化をすることや、年々の気象変動に大きく影響されていることがわかった。陸地の約1/3の面積を占める森林の二酸化炭素吸収量と気候の関係を観測によって明らかにすることは、将来の二酸化炭素濃度や気候変動の予測のために不可欠である。今後は国内外の研究機関と協力してアジアにおける観測ネットワークを充実させ、組織的に観測データを収集し、森林の二酸化炭素吸収についての科学的事実をさらに明らかにしていく計画である。

 本研究は、環境省地球環境研究総合推進費等の研究費により実施された。この成果は、エルゼビア社の農業および森林気象学誌“Agricultural and Forest Meteorology”電子版に2月20日掲載された。


 関連資料:図1

1.研究の社会的背景

 京都議定書第1約束期間が終了する2012年以降を対象とした地球温暖化対策の国際的枠組交渉が開始されようとしているが、将来の気候変動を抑制するために必要な大気中の温室効果ガス濃度レベルを設定するには、なお多くの科学的知見を整備する必要がある。特に地球上の陸地の約1/3の面積を占め、光合成によって二酸化炭素を吸収すると同時に、植物の呼吸や土壌中の有機物分解によって二酸化炭素を放出しもする「森林」が果たす役割を正確に理解することが求められている。アジアには、亜寒帯から熱帯に至る広い緯度帯にわたり、巨大な炭素蓄積をもつ北東ユーラシアのカラマツ林、他に類を見ない種多様性をもつ熱帯雨林など、世界的にも重要な森林が存在する。こうした森林の多様性が保たれているアジアにおいて、二酸化炭素吸収量の長期観測ネットワークを早急に拡充することにより、多種多様な森林が気候変動に対してどのように応答し、二酸化炭素吸収量が変化していくのか、その実態を明らかにすることが重要である。

 世界の森林における二酸化炭素吸収量観測※1ネットワークの構築は、1996年以降に欧米で相次いで始まり、アジアにおける地域ネットワーク(アジアフラックスネットワーク※2)も1999年に開始された。しかしアジアでは、この分野における国を越えた共同観測やデータ共有が容易でなかったため、アジアの森林による観測データを総合的に収集し、二酸化炭素吸収量を詳細に算出することはきわめて困難であった。

2.研究の経緯

 国立環境研究所、産業技術総合研究所、森林総合研究所、岡山大学、筑波大学、北海道大学、京都大学は、アジアの森林が大気中の二酸化炭素をどれだけ吸収しているかを観測によって明らかにするため、環境省地球環境研究総合推進費・戦略的研究開発領域「21世紀の炭素管理に向けたアジア陸域生態系の統合的炭素収支研究 (平成14〜18年度)」(研究プロジェクトリーダー:筑波大学・及川武久)の一環として、アジアの主要な森林における二酸化炭素吸収量の長期連続観測を連携して実施してきた。そのなかで国立環境研究所、産業技術総合研究所は、国内における二酸化炭素吸収量観測において先導的役割を果たすとともに、アジアフラックスネットワークの構築・発展のため中心的な活動をしてきた。

3.研究の内容

(1)対象とする森林の種類と観測内容
 アジアの主要な森林による大気中の二酸化炭素吸収量を観測(第1図)し、気候帯や森林タイプ、季節的な変化や年々変化を比較するため、ロシア、モンゴル、中国、日本、タイ、マレーシア、インドネシアの森林(合計13地点)において、二酸化炭素吸収量の長期観測を行い、そのデータを交換して総合的に解析した。観測を行ったのは、寒帯から亜寒帯の北東アジアにおける主要な森林であるカラマツ林(ロシア、モンゴル、中国、日本)、温帯の典型的な森林である落葉広葉樹林、混交林、および常緑針葉樹林(日本)、東南アジアの乾季と雨季を有する熱帯季節林(タイ)とほぼ一年中降水量の多い熱帯多雨林(マレーシア、インドネシア)である(第2図、第3図)。これら東アジアを代表する森林での観測結果を総合的に解析した結果、森林二酸化炭素吸収量の季節変化、経年変化、および空間分布が明らかになった。

(2)主な観測結果

ア)中〜高緯度の落葉性の森林における春先の気温上昇とその後の二酸化炭素吸収量

 森林における二酸化炭素吸収量は森林タイプの違いにより大きく異なる季節変化をすることがわかった(第4図)。さらに、年々の気象の変動にともない、二酸化炭素吸収量は大きく変動していることが明らかになった。たとえば、中〜高緯度の落葉性の森林では、冬から春にかけての気温が展葉開始時期を決め、その時期が早いか遅いかによって5〜6月の光合成生産量が大きく変動することが明らかになった。ユーラシア大陸北東部に広大な面積を有するカラマツ林帯でこのようなことが起こるとすれば、北半球の中〜高緯度の大気中二酸化炭素濃度の季節変化や年変化に大きな影響を与えることが予想される。

(註)これら3種の森林の中では、常緑針葉樹林の年間二酸化炭素吸収量が最も多いが、吸収量は森林の履歴(樹齢や攪乱履歴(水不足・森林火災など))により大きく値が変動することから、ここで示した吸収量の大きさは必ずしもその森林生態系種類の代表的な値を表しているとはいえない。

イ)乾季の長期化・降水量減少と森林における光合成量との関係

 東南アジアの熱帯季節林における乾季の長期化、降水量減少にともない、光合成生産量が大きく低下することが観測された。土壌水分の減少(乾燥)も同時に観測されており、特に乾季における降水量減少が落葉を促進させたためと考えられた。東南アジアにおける少雨傾向はエルニーニョ現象にともなって観測されることが多い。過去に1986−1988年や1997−1998年などに発生したエルニーニョ現象にあわせて二酸化炭素濃度上昇が速まったことが観測されており、高温・乾燥による森林火災の多発などいくつかの原因が想定されているが、土壌乾燥が森林の光合成量を減少させ、二酸化炭素増加に寄与する可能性もあることが実際のデータから強く示唆された。

ウ)異なる気候帯における森林による1年間の二酸化炭素収支の違い

 森林による1年間の二酸化炭素の収支を異なる気候帯で比較した。光合成により吸収される二酸化炭素の総量(光合成総生産量)を求めると、年平均気温が高いほど直線的に増加する(第5図(a))。他方、植物の呼吸や土壌中の有機物分解によって放出される二酸化炭素の総量(生態系呼吸量)は年平均気温が高いほど指数関数的に増加した(第5図(b))。このように両者は年平均気温により強く制御され、他の環境要因から受ける影響が小さいことがわかった。これは、本研究対象の東アジアでは総じて降水量が多く、乾燥などのストレスの影響が比較的小さいためと考えられる。このことは欧米の森林と大きく異なる特徴である。このような広範な気候帯における森林の二酸化炭素吸収量の特性は、本研究で初めて示されたものである。

4.今後の研究の発展

 将来、温暖化が進行して気温が上昇した場合、二酸化炭素吸収量がどのように変化するか予測するためには、今回示された年平均気温との関係だけでなく、降水量などその他の気象要因、あるいは樹種の遷移などの森林生態系の変化や永久凍土の融解などその他の環境要因の変動と二酸化炭素吸収量との関係をあわせて考慮する必要がある。今後は、より長期の森林観測データを取得し、得られた知見をもとに陸域生態系モデルの高度化を図ることにより、高い精度の将来予測を可能としなければならない。

 アジアにおける広域的な炭素収支の正確な把握や、将来の気候変動に対する森林の二酸化炭素吸収量の変化を予測するためには、リモートセンシング技術と精密な陸域生態系モデルの利用が不可欠である。本研究で得られた森林における二酸化炭素吸収量に関するデータは、これらの検証のためにきわめて貴重である。

 今後も、国内外の研究機関と協力し、アジアのさまざまな森林において二酸化炭素吸収量の観測を継続して、データの品質向上に努めると同時に、データを組織的に収集し公開する予定である。こうした観測ネットワークの構築とデータ公開を推進することにより、アジア諸国の研究者および政策担当者への観測データと知見の普及、および連携強化に対して貢献することが期待される。

 なお、本研究成果は、オランダの出版社エルゼビア社の“Agricultural and Forest Meteorology”電子版に2月20日掲載された(1)(2)。
用語の説明

※1二酸化炭素吸収量の観測手法
 主に、生態学的手法と微気象学的方法の2つがあるが、本研究で用いられているのは、後者の微気象学的方法である。なお、本研究では両手法による観測値の比較を複数の地点で行い、両手法による観測精度の向上を図った。

○生態学的手法
 林学的方法(樹木の直径成長量を測定する方法)による樹木の現存量(バイオマス)増加と土壌や落葉の分解や根からの二酸化炭素放出量などの測定から二酸化炭素吸収量を算出する。光合成により樹木に固定された炭素量を直接的に測るという点で原理に即した観測であるが、1本1本の樹木の樹高や幹の直径を直接計測するために多くの労力が必要であり、日単位といった時間間隔の細かいデータを得ることもきわめて困難である。

○微気象学的方法(渦相関法)
 農耕地や森林の中に建設された数mから数十mのタワー上に設置された超音波風速温度計と赤外線ガス分析計を用いることにより、大気中の二酸化炭素フラックスを直接測定する方法で「渦相関法」とも呼ばれている(第1図)。フラックスとは、単位時間・単位面積あたりの輸送量であり、地表面に垂直な方向の風速の変動値と二酸化炭素密度の変動値の積について時間平均値を計算すると、垂直方向の二酸化炭素フラックスを評価することができる。森林上でこの値を測定することにより二酸化炭素フラックスを森林の二酸化炭素吸収量と見なすことができる。生態学的手法と比べ、日々の吸収量を直接観測することができ、なおかつ無人で連続的に測定できる点、吸収量の日変化や季節変化を測定できる点、比較的広範囲のフラックスを測定できる点が優れている。

※2アジアフラックスネットワーク
 アジアの陸域生態系(森林、草原、農耕地などを含む)と大気の間で交換される二酸化炭素量、水蒸気量、熱量などを微気象学的方法により長期モニタリングすることを目的とし、技術情報やデータの交換、および研究交流の促進をめざして設立された観測ネットワーク。1999年に主に日本と韓国の研究者により活動を始め、2002年に中国が国内のネットワーク構築を開始した。最近では、アジア諸国の研究者や技術者、学生などの参加により、研究交流や情報交換のためのニュースレター配信やワークショップの開催、観測技術普及のためのトレーニングコース開催、アジアのデータ収集と公開を行うためのデータベース構築などの活動を実施している。( http://www.asiaflux.net/ )

(1)Saigusa,N.,Yamamoto,S.,Hirata,R.,Ohtani,Y.,Ide,R.,Asanuma J,Gamo,M.,Hirano,T.,Kondo,H.,Kosugi,Y.,Li,S−G.,Nakai,Y.,Takagi,K.,Tani,M. And Wang,H. (2008)Temporal and spatial variations in the seasonal patterns of CO2 flux in boreal,temperate,and tropical forests in East Asia,Agricultural and Forest Meteorology,doi:10.1016/j.Agrformet.2007.12.006.

(2)Hirata,R.,Saigusa,N.,Yamamoto,S.,Ohtani,Y.,Ide,R.,Asanuma,J.,Gamo,M.,Hirano,T.,Kondo,H.,Kosugi Y.,Li,S−G.,Nakai,Y.,Takagi,K.,Tani,M. And Wang,H. (2008)Spatial distribution of carbon balance in forest ecosystems across East Asia. Agricultural and Forest Meteorology,doi:10.1016/j.Agrformet.2007.11.016.



■生物の活性酸素を除去する新たなしくみを発見 −原始生命の抗酸化システムに学ぶ− ※ニュースリリースを原文のまま紹介しています。 ( 2008/4/22 )
【ポイント】
・タンパク質の酸化反応の新しいメカニズム
・人工物でしか知られていなかった超原子価化合物を天然物から初めて発見
・生物に学ぶ新規化学合成法のためのヒント

【概要】
 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)セルエンジニアリング研究部門【研究部門長 三宅 淳】細胞分子機能研究グループ【研究グループ長 三宅 淳(兼務)】中村 努 主任研究員と国立大学法人 大阪大学大学院工学研究科 井上 豪 教授らのグループは共同で、原始的な微生物において活性酸素を除去するタンパク質の反応を解析し、その新しいしくみを発見した。従来のメカニズムとは異なり、これまで天然物からは発見されていなかった超原子価化合物が重要な役割を果たしていることが確認された。
 この発見は、タンパク質の酸化反応の新たなメカニズムであり、酸化ストレスに関する医療技術への応用が期待されるとともに、有機合成化学において新たな手法の開発にも寄与する。
 本研究成果は、平成20年4月21日から25日(米国東部時間)の間に、米国科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America)電子版に掲載される予定。

【研究開発の社会的背景】
 酸素は呼吸などの生命活動に必須のものであるが、紫外線照射や酸素呼吸の副反応により、活性酸素という強力な酸化作用をもった物質にもなる。活性酸素による細胞へのダメージは酸化ストレスと呼ばれ、ガン、糖尿病、動脈硬化、アルツハイマー病などの疾患や老化にかかわるといわれている。酸化ストレスを防御するための医療技術の開発には、あらゆる医療技術がそうであるように、実際に生命がどのように防御しているかに学ぶことが重要である。生命は活性酸素による酸化ストレスから細胞を防御するために、さまざまな抗酸化タンパク質を備えるように進化してきた。これら抗酸化タンパク質がどのように進化してきたのか、どのようなメカニズムで活性酸素を除去するのかという問題は、医療技術の発展を考える上で本質的かつ重要なテーマである。
 地球上に生命が誕生したとき、地球大気に酸素は蓄積していなかった。しかし大気に酸素が蓄積してくると、活性酸素による障害の除去が生存のための必須の条件となった。原始生命が活性酸素除去という生理機能を獲得したとき、その生理機能はどのようなメカニズムで作用していたのかという問題に取り組むためには、古細菌の抗酸化タンパク質はたいへん有効な研究材料である。なぜならば、古細菌と大きく分類される生物群は、遺伝子研究から、現存の生物では生命の起源に最も近いと考えられているからである。

【研究の経緯
 産総研では、耐熱性タンパク質の産業利用を目指して、温度90℃以上で生育する超好熱性古細菌由来のタンパク質の研究を行ってきた。古細菌は一般に嫌気性のものが多いが、例外的に好気性のものがあり、活性酸素による酸化ストレスから自身を防御するシステムを持っていると期待される。好気性超好熱性古細菌 エアロパイラム・ペルニクス(Aeropyrum pernix)がそれで、産総研では地球上最古の抗酸化システムにせまるため、この古細菌内での抗酸化システムの解析を行ってきた。一方、大阪大学では薬剤開発を目的としたタンパク質の立体構造解析の研究を行ってきた。
 両者は共同でこれらの研究をベースにして、この古細菌の抗酸化システムにおいて活性酸素の一種である過酸化水素を除去するタンパク質の立体構造を明らかにし、除去反応(タンパク質の酸化反応)にともなう立体構造の変化に着目した。
 本研究は、文部科学省 タンパク3000プロジェクト 代謝系グループ「結晶化の研究」(平成17〜18年度)および文部科学省 科学研究費補助金 特定領域研究「生体超分子の構造形成と機能制御の原子機構」(平成18〜19年度)の支援を受けて行ったものである。結晶構造解析のためのX線源には、財団法人 高輝度光科学研究センターによる研究課題採択のもと、大型放射光施設SPring−8の放射光を利用した。

【研究の内容】
 本研究では、タンパク質のX線結晶解析および量子化学計算の手法を用い、古細菌エアロパイラム・ペルニクス(Aeropyrum pernix)で過酸化水素(活性酸素の一種)を除去する抗酸化タンパク質 ペルオキシレドキシン(Peroxiredoxin)(以下「Prx」という、図1)の化学構造の変化を追跡した。Prxによる過酸化水素の除去は、Prx自身の一部であるシステイン残基(図1(c)の赤丸で示す)が過酸化水素で酸化されることによって進行する。
 これまでの常識的メカニズムでは、タンパク質のシステイン残基の酸化はシステインスルフェン酸を中間体として起こると考えられていた(図2(a))。しかしPrxでは今まで考えられていなかったメカニズムで酸化反応が起こっており、システイン残基と近傍にあるヒスチジン残基により形成されるスルフラン誘導体を反応中間体とすることを発見した(図2(b))。これは酸化反応中間体のX線結晶解析により、スルフラン誘導体と合致する分子構造が観測されたことにより結論づけられたものである(図3)。
 スルフランとは超原子価化合物の一種である。超原子価化合物は、反応化学・合成化学の分野でさまざまな用途に使われる有用な化合物である。これまでに確認された超原子価化合物はすべて化学合成によって得られたもので、天然物から見つかったことはなかった。この発見は、今まで人工物としてのみ認識され利用されてきた超原子価化合物が、実は生物によっても利用されていたことを初めて示すものである。
 通常、化学反応の中間体は不安定で、X線結晶解析によってその姿が捉えられることは極めて稀である。本研究において反応中間体の構造を明らかにできたのは、特殊な方法を用いたことによる。その方法とは、タンパク質結晶を過酸化水素含有の母液に浸し引き上げた後、冷却窒素ガス(約 −190℃)で凍結し、SPring−8の放射光を用いてX線結晶解析を行ったというものである。溶液中の反応とは違い、結晶内の反応では、結晶を母液から除くことで容易に反応を停止できるため、過度の反応を防止することができる。さらに、反応停止後ただちに冷却することで不安定な反応中間体を固定することができ、不安定な反応中間体の構造を観測することができた。
 本発見は、抗酸化タンパク質による活性酸素除去の従来知られていなかった新しいメカニズムを明らかにしたものであり、酸化ストレスに対する医療技術を開発する上で大きな知見を加えるものである。タンパク質の酸化反応は活性酸素除去にとどまらず生物界において頻繁に見られる現象である。本発見はそのような一般的な現象についても新しいモデルを提唱している。
 また超原子価化合物の合成という面に着目すると、今回明らかになった反応経路(スルフラン類を中間体とする硫黄原子の酸化反応)は、硫黄原子を含む医薬品開発や有機工業化学の分野で新規合成法を開発するヒントとなり、有機化学の分野でも「原始生命に学ぶ」ことができるということを示したといえる。
 本研究では、地球大気に酸素が蓄積し始めた初期の原始的な抗酸化システムの姿を知るために、好気性超好熱性古細菌由来のタンパク質の反応を解析した。その原始的な系で新たな活性酸素除去のしくみが発見されたことは興味深い。

【今後の予定】
 本研究によって発見された新たな活性酸素除去のしくみは、酸化ストレスによるガン化や老化をターゲットとした医療技術への応用が期待できる。また、硫黄原子の酸化反応に新たな手法を与えることによって新規合成法の開発にも寄与すると考える。今後は、これらの医療・産業応用についてさらに研究を進めていく。

【用語の説明】
◆活性酸素
 化学的に活性になった酸素。過酸化水素やヒドロキシラジカルなどがある。核酸や脂質などの生体分子を酸化することによってダメージを与え、ガン化や老化にかかわるとされている。
◆超原子価化合物
 hypervalent化合物とも呼ばれ、オクテット則を超えた原子価電子数を有する典型元素化合物の総称。脱水反応・エポキシ合成・ニトリル合成など、さまざまな有機合成反応に効果がある。リン原子を含む超原子価化合物に「ウィティッヒ試薬」が知られており、この発見にはノーベル化学賞(1979年)が授与された。硫黄原子を含む超原子価化合物に「スルフラン」がある。
◆抗酸化タンパク質
 活性酸素を無毒化するタンパク質の総称。抗酸化タンパク質自身が活性酸素と反応してこれを除く、活性酸素の分解反応を触媒する、などのメカニズムではたらく。ペルオキシレドキシン以外に、カタラーゼやスーパーオキシドディスムターゼなどのタンパク質がある。
◆古細菌、超好熱性古細菌
 地球上の生物は大きく3種類(古細菌・真核生物・真正細菌)に分類される。これらの中では古細菌が最も原始生命に近いとされている。古細菌の中には100℃程度の高温でも生育する種も多く、それらは超好熱性古細菌と呼ばれる。
◆耐熱性タンパク質
 熱に対して耐性のあるタンパク質。通常のヒトや大腸菌などの産出するタンパク質は、高温になれば立体構造が壊れ、その機能を失う。しかし、高温環境で生育する生物が産出するタンパク質は、その生育温度でも機能を持つ。例えば100℃程度で生育する超好熱性古細菌のタンパク質は100℃という高温でも立体構造・機能を失わない。これらのタンパク質を耐熱性タンパク質という。
◆エアロパイラム・ペルニクス(Aeropyrum pernix)
 超好熱性古細菌に属する生物の一種。京都大学等によって鹿児島県小宝島の近海で採取され、ゲノム配列も明らかにされている。至適生育温度90〜95℃で、超好熱性古細菌としては例外的に好気性であるため、抗酸化機構の研究に適した生物であり、地球最古の抗酸化システムに類似した機構を備えていると考えられる。
◆ペルオキシレドキシン (Peroxiredoxin、 Prxと略される)
 抗酸化タンパク質の一種。このタンパク質を構成するアミノ酸の一種であるシステイン上で酸化還元反応が起こる。細胞内では、過酸化水素と反応することにより還元型→酸化型と変化し、その後チオレドキシンなどの還元剤と反応することにより酸化型→還元型と変化する。ほ乳類においては、シグナル伝達物質として作用する過酸化水素の濃度調節を担う機能も持つ。
◆システインスルフェン酸 (Cysteine sulfenic acid)
 側鎖が−CH2−SOHのアミノ酸。システインが酸化して生成する。水中では容易に酸化され、システインスルフィン酸(−CH2−SO2H)を生成する。また、チオール基(−SH)と反応することによりジスルフィド結合(後述)を形成する。
◆スルフラン
 硫黄を含む超原子価化合物のひとつ。ピラミッドを二つ重ねたような形をしている。ニトリル化反応や脱水反応など、いろいろな化学反応の反応剤として使用される。本研究における反応中間体はスルフラン誘導体で、その正式名称は(hydroxy−imidazolyl−λ4−sulfanyl)methaneである。
◆ジスルフィド結合
 R1−S−S−R2で示される硫黄原子2個を含んだ共有結合。タンパク質では2個のシステイン残基がこの結合に関与して立体構造の安定性に寄与している。チオレドキシンなどのタンパク質では、ジスルフィド結合のon−offにより酸化還元状態のスイッチングが行われている。R1とR2が同じ分子である場合と異なる分子である場合がある。

【問い合わせ】
独立行政法人 産業技術総合研究所 関西センター 関西産学官連携センター
〒563−8577 大阪府池田市緑丘1−8−31
TEL:072−751−9606 FAX:072−751−9621 E−mail:kansai-koho@m.aist.go.jp



遺伝暗号によらないでアミノ酸をタンパク質に結合する酵素の謎を解明 −タンパク質の新たな合成システムに道を拓く− ( 2007/9/24 )
 ・遺伝暗号を介さないでアミノ酸をタンパク質に結合する酵素の謎をX線結晶構造解析、生化学的解析により明らかにした。
 ・細胞内の通常のタンパク質合成とは全く異なる新たな反応機構であることが判明。
 ・タンパク質への非天然アミノ酸の導入等、機能性タンパク質合成技術の開発に期待。

 独立行政法人 産業技術総合研究所(産総研) 生物機能工学研究部門 機能性核酸研究グループ 富田耕造 研究グループ長、渡邉 和則 産総研特別研究員、董 雪松 産総研特別研究員、須藤 恭子 研究員らは、国立大学法人 東京大学の協力を得て、遺伝暗号なしにアミノ酸をタンパク質に連結する酵素(LF転移酵素)の反応機構を明らかにした。
 、新規タンパク質合成や機能性タンパク質開発技術、この酵素系をターゲットにした新たな抗細菌薬剤のデザイン等が期待されるという。
◆開発の社会的背景
 細胞内における遺伝情報の通常の流れはDNA→mRNA→タンパク質であり、タンパク質は20種類のアミノ酸が遺伝暗号にしたがって連結されて合成される。細胞内でのアミノ酸同士の連結反応は、リボゾームと呼ばれるタンパク質合成装置内で行われる。リボゾームではmRNAの遺伝暗号にしたがって必要なアミノ酸がtRNAによってつぎつぎと運ばれてきて結合される。
 これとは別にリボゾーム外で、tRNAによって運ばれて来たアミノ酸を直接細菌の細胞壁の構成成分や、細胞内のタンパク質に付加結合させる酵素群が40年以上前から知られていた。また、リボゾーム外でアミノ酸をタンパク質へ付加結合する同様な酵素は、ヒトをはじめ、ほとんどの生物にも見出されており、応用面からも重要。



光る有機ナノチューブの作製に成功 −有機ナノチューブの生体内挙動の解析に光− ( 2007/9/18 )
・蛍光分子を製造時に混ぜるだけで、光る有機ナノチューブを作製。 
・有機ナノチューブを4色に光らせることに成功。 
・薬剤を充填した有機ナノチューブの運搬状況を生体内で観察できる可能性。 

 独立行政法人 産業技術総合研究所(産総研)界面ナノアーキテクトニクス研究センター 高軸比ナノ構造組織化チーム(浅川真澄 主任研究員)は、分子が自己集合して形成する有機ナノチューブに蛍光分子を取り込ませることで、蛍光を発光するナノチューブを開発した。
 これまで困難であったONT−AISTの生体内での観察が容易になり、ONT−AISTによる薬剤の運搬状況の解析への応用が期待される。



抗体医薬を精製する高性能クロマトグラフィー用ビーズを開発 ( 2007/9/10 )
・抗体医薬の分離精製を行うクロマトグラフィー用の高性能ビーズを開発
・シリカビーズ表面に、抗体を捕らえるリガンドタンパク質の配向を制御して固定化することにより、抗体結合量を大幅にアップ
・副作用の少ない抗体医薬の高品質・低コスト生産に寄与

 独立行政法人 産業技術総合研究所(産総研) 生物機能工学研究部 蛋白質デザイン研究グループ 分子細胞育種研究グループのらは、AGCエスアイテック株式会社[代表取締役社長 森川 眞介](以下「AGC−SI社」という)とスタッフらは共同で、抗体医薬の精製工程で用いられるクロマトグラフィー用の高性能アフィニティー担体(ビーズ)を開発した。
 このアフィニティー担体は、シリカビーズ表面でリガンドタンパク質が配向しているため無駄がなく、抗体を高速に精製できる。副作用の少ない医薬品として期待されている抗体医薬品の製造において、高品質製造による安全性向上、低コスト生産に貢献できる。
 抗体医薬は、抗体が生体内の異物を認識する性質を利用した医薬品で、患部のみをピンポイントで攻撃するので、副作用が少なく、従来タイプの医薬品では難しい難病の治療や、高い効能が期待されている。例えばヒト型モノクローナル抗体は、その薬効、副作用の低さなどから夢の治療薬として大きな期待がもたれ急速な勢いで市場が拡大している。
 抗体医薬の製造において、抗体を生産する細胞である「DNA組換え型動物細胞」の改質や培養条件の至適化等の向上が目覚しく、この方面での研究開発は盛んに行われている。一方、製造される抗体医薬品の品質安全性および製造コストに大きく影響するダウンストリーム工程の研究は大きく遅れ、危機的状況である。プロセスにおいて使用される技術の多くが欧米由来であるため、国産技術の開発が望まれてきた。
 抗体分子の分離精製にはアフィニティークロマトグラフィーという方法が用いられる。抗体分子を特異的に認識して結合するリガンドタンパク質をシリカビーズ等に固定化し、このビーズを充填したカラムを用いて抗体の精製を行う。抗体と不純物を含む水溶液をこのカラムに流すと抗体だけがリガンドタンパク質に捕捉される。捕捉された抗体は後ほど溶出液で溶出することができるので精製される。リガンドタンパク質としては抗体に結合する性質を有するプロテインAという微生物由来タンパク質が用いられているが、拡大する多品種の抗体に対応できなくなってきている。



有する知的財産権の活用方針を緩和 ( 2007/8/30 )
 産業技術総合研究所は、企業との共同研究で創出された共有の知的財産権の取扱について、一部変更を行うこととした。
 主な変更点は、共有知財の自己実施に関し不実施補償料を請求するという従前の原則を、次の条件を満たす場合においては、不実施補償料を請求しないこととする点。
 1)共同研究によって創出された共有知財であること。
 2)実施の際、非独占で、かつ自己実施であること。
 3)共同研究の実施に際し、企業から一定額以上の研究資金の提供があることもしくは国が推進する研究開発プロジェクトの下での共同研究であること。
 ただし、上記3)以外の共同研究であっても、創出された共有知財の不実施補償料の支払い方法に、いくつかの選択肢を設けました。また、別途、権利の移動により、知財の単独での権利化も可能にした。



ソフトウェアやサービスの相互接続性を高めて次世代ロボット市場を拓く ( 2007/8/29 )
 産業技術総合研究所知能システム研究部門とロボットサービスイニシアチブは、ネットワークロボット分野で協力し、それぞれのロボット用ネットワークプロトコル(標準規格)の相互接続を図ることに合意した。また、相互運用の実証例としてRSiが提供するお天気情報サービスを利用するRTミドルウエアのゲートウェイコンポーネント(相互接続のための機能部品)を開発した。
 今回のゲートウェイによる相互接続は、次世代ロボット市場を拓くために独立して活動していた国内の標準化推進団体の相互運用の第一歩となるもの。互いの技術の相互接続性を高めることにより、それぞれの標準化推進団体で独立して開発してきた製品やサービスを互いに利用することが可能になる。



不活性型ビタミンDを活性化する酵素を分離 ( 2007/8/23 )
 産業技術総合研究所ゲノムファクトリー研究部門遺伝子発現工学研究グループは、メルシャ生物資源研究所と共同で、骨粗鬆症の治療薬などにも用いられる活性型ビタミンDを合成する酵素を放線菌より分離・精製することに成功した。
 活性型ビタミンDの生産に利用されている放線菌を対象に、ビタミンDを不活性型から活性型に変換する酵素(ビタミンD水酸化酵素)を探索し、その分離・精製に成功した。その遺伝子を分離・特定したことによりこの酵素の機能を改変することも可能で、活性型ビタミンDの生産性を飛躍的に高めることができるほか、ビタミンD類をもとにした新規医薬品・医薬中間体の生産も期待される。



自ら光る蛍光タンパク質による高精度細胞イメージング技術の開発 ( 2007/7/9 )
 産業技術総合研究所セルエンジニアリング研究部門セルダイナミクス研究グループ 星野 英人 研究員は、近江谷 克裕 研究グループ長(現 北海道大学大学院医学研究科 教授)、中島 芳浩 主任研究員とともに、ルシフェリンールシフェラーゼ反応を利用して緑色蛍光タンパク質を効率よく発光させる技術とそれを利用した新しい生物発光イメージング技術を開発した。  これまで緑色蛍光タンパク質(GFP)の応用には蛍光を光らせるために外部光源を必要としていた。一方、ホタルなどの発光生物はルシフェラーゼという酵素の働きでルシフェリンという物質を酸化して、自ら発光する。今回、GFPとルシフェラーゼを結合させることによってルシフェリンさえあれば、外部光源なしでGFPを光らせる技術を開発した。GFPの種類を変えることによって発光色を変えることもできる。さらに本技術を応用して1細胞レベルでも観察が可能な新しい生物発光イメージング技術を開発した。



研究開発型ベンチャー企業・中小企業支援のための新事業 ( 2007/7/9 )
 産業技術総合研究所は、ベンチャー企業・中小企業の開発する高度な検査・計測機器が、「納入実績がない」、「プロトタイプが実用化に耐えない」等の理由により、販路が拡大できていない現状を打破するため、公的機関による共同研究を通じた実証試験とその結果のPR等を行い、機器の調達が促進されることを目指す事業を新たに実施する。
 この事業は、研究開発型ベンチャー企業・中小企業の創出する機器の市場への普及を促進する新たな事業として、経済産業省が平成19年度に企画競争公募した、『中小・ベンチャー企業の検査・計測機器等の調達に向けた実証研究事業』(「産業技術研究開発事業(中小企業支援型)」)で、産総研は、この公募に応募し、本事業の実施機関として採択された。
 産総研はこの事業を実施するために、研究開発型ベンチャー企業・中小企業に対し、産総研との共同研究を通じた検査・計測機器等の研究開発および実証試験を行う研究課題の募集を開始した。本事業において産総研は、研究開発型ベンチャー企業・中小企業と高度な検査・計測機器について共同研究による実証試験を行い、実証データを公表するとともに、調達先情報を広く提供する予定である。さらに産総研等のニーズに基づき本事業で実証を行い、実用化に成功した検査・計測機器等については、産総研等の公的機関が自己資金により調達する。これらにより、研究開発型ベンチャー企業・中小企業の革新的な技術による製品の市場への導入が加速され、我が国のイノベーションの創出に寄与するものと期待される。



高感度高速応答のNOxセンサを開発 ( 2007/7/4 )
 産業技術総合研究所 先進製造プロセス研究部門 機能モジュール化研究グループ濱本 孝一 産総研特別研究員は、高感度高速応答のNOxセンサを開発した。  従来のNOxセンサには、エンジン排ガス中等の過酷環境では耐久性・耐熱性等の問題があり、その解決策としてセラミックスの固体電解質(酸素イオン伝導体)を用いたセンサが開発されている。しかし、センサ構造が複雑で多段階の電気化学反応を組み合わせてNOx濃度を測定するため、高速応答は本質的に困難であり、自動車における排ガス浄化と燃費向上を進める上で課題となっていた。  開発した新型のNOxセンサは、NOxを検知する電極表面のナノ構造を精緻に制御することで、極めて高いNOx分子選択性を発現させたものである。電気化学セル構造の改良によって、直接検知型のNOx分子センシングの応答速度が従来よりも約5倍向上し、かつNOx分子に対する検出感度が約2倍向上した。  高感度センサを用いたエンジン燃焼の制御によって、特にディーゼル車等のNOx排出量を低減し、燃費を向上させることが可能となり、大気環境保全および二酸化炭素の排出削減に貢献することが期待される。  今回の研究成果は、7月2〜6日に中国・上海で開催の第1 6回固体イオニクス国際会議(SSI−16)にて発表予定である。



レチナール分子1個の動的観察に成功 ( 2007/7/2 )
 産業技術総合研究所(以下「産総研」)ナノカーボン研究センターカーボン計測評価チームの 末永 和知 研究チーム長と劉 崢 研究員および、ナノテクノロジー研究部門 自己組織エレクトロニクス研究グループの片浦 弘道 研究グループ長と柳 和宏 研究員らは、科学技術振興機構(以下「JST」)と共同で、生体分子一つ一つを電子顕微鏡で観察する手法を考案した。具体的には、目の網膜内で光により構造変化を起こす「レチナール」という分子を、フラーレン分子と結合させることによりカーボンナノチューブ内に閉じ込め、単分子の構造変化を直接観察することに成功したもの。  レチナール分子には構造上シス形とトランス形があり、光によってシス形からトランス形への構造変化を起こす。その変化が視覚(網膜に入った光が電気信号となり視神経を伝わり脳に伝達される)の第一ステップとされるが、単分子レベルでレチナール分子のシス形とトランス形を識別したのは世界初である。  生体分子をカーボンナノチューブに閉じ込めて観察する手法は、生体機能を原子・分子レベルで解明していくための新しい手段であり、今後幅広い応用が期待される。



脳の発達には脳内コレステロール合成が欠かせないことを発見 ( 2007/6/13 )
 産業技術総合研究所 セルエンジニアリング研究部門 小島 正己 主任研究員は、科学技術振興機構(以下「JST」)鈴木 辰吾 研究員と産総研 脳神経情報研究部門 脳遺伝子研究グループ 清末 和之 主任研究員らとともに、神経細胞内において脳の成長因子によってコレステロール合成が促進される新しいメカニズムを発見した。
 今回の発見は、脳シナプスにおける神経伝達が発達していくためには、神経細胞内のコレステロール合成が促進されることが重要であり、その促進因子として脳の成長因子(BDNF)が働いていることを見いだしたものである。
 さまざまな脳疾患に共通する機能障害として神経伝達の変調や発達障害があり、コレステロール合成と神経伝達の関係の発見はこれら疾患の治療薬開発に新たな指針を与える可能性がある。
 脳の機能がどのようにして発達していくのかを解明する研究は、私たちの脳が健やかであることの理解や脳疾患の治療に貢献する重要な課題である。うつ病、統合失調症、アルツハイマー病、ハンチントン氏病などの脳疾患において共通する機能障害として、神経伝達の変調や発達障害が指摘されている。
 コレステロールは脳内脂質の20〜30%を占めており、コレステロールと神経機能の関係、さらには脳内コレステロールの代謝と脳疾患の関連を示す報告が近年増えている。
 脳の神経細胞膜は脂質2重層でできており軟らかく流動的である。この流動的な脂質2重層を大洋に見立てると、あたかも大洋に浮かぶ、いかだのような固い微小領域があって、脂質ラフトと呼ばれている。脂質ラフトは特にコレステロールに富む部分である。産総研では、脳の神経細胞におけるコレステロール合成や脂質ラフトの機能的役割を研究してきた。



紫外線を高効率で発光できる半導体材料を開発 ( 2007/5/24 )
 産業技術総合研究所太陽光発電研究センター化合物薄膜チーム 仁木 栄 研究チーム長、エレクトロニクス研究部門低温物理グループ 柴田 肇 主任研究員は、酸化亜鉛に数%〜10数%のマグネシウムを混合することで、紫外線を高効率で発光する半導体材料を開発した。
 今回の酸化亜鉛系半導体材料の発光性能は、分子線エピタキシャル法により高品質な単結晶薄膜を成長させることで実現できたものである。窒化ガリウム系化合物など従来の紫外線を発光する半導体材料は、いずれも発光波長が短くなるにつれて発光効率が減少する性質を持っていたが、今回開発した材料の特徴は、マグネシウム濃度を増すと発光波長が短くなるが、それにもかかわらず同時に発光効率が顕著に増大する点である。この材料により、紫外領域において高効率で発光する発光ダイオードや半導体レーザーあるいは高性能の白色照明用光源の実現が期待できる。



塗布製法を用いた有機薄膜トランジスタのアレイ形成技術を開発 ( 2007/5/23 )
 日立、旭化成、産業技術総合研究所、光産業技術振興協会は、このたび、経済産業省、新エネルギー・産業技術総合開発機構の支援・委託を受けて、塗布製法によって、有機薄膜トランジスタ(有機TFT:Organic Thin Film Transistor)をマトリックス上に配置して形成する、アレイ形成技術を開発した。
 本技術は、液晶ディスプレイの画素スイッチに、有機TFTアレイを利用するためのもの。今回、半導体膜、ゲート絶縁膜、および保護膜の形成に、低コスト化に有利な塗布製法を用いるとともに、従来、塗布製法による有機TFTの課題であった半導体膜中に結晶粒界が生成されるのを抑制し、移動度性能を改善することに成功した。今回、画面サイズ5インチ、RGB表示方式で画素数240×320(QVGA相当)のディスプレイに対応する有機TFTアレイを試作したところ、トランジスタの移動度が平均値0.1cm2/V・sを超え、小型液晶ディスプレイで利用可能な性能が得られた。有機TFT技術は、次世代表示デバイスとして期待されるシートディスプレイを、低コストで製造する技術として注目されているが、その実用化に向けて大きく前進した。



高脂血症治療薬による睡眠障害の新しい治療効果 ( 2007/4/25 )
 産業技術総合研究所 生物機能工学研究部門 生物時計研究グループ 石田 直理雄 研究グループ長、大石 勝隆 主任研究員は、筑波大学大学院 白井 秀徳 氏、早稲田大学 理工学術院 柴田 重信 教授らとともに、高脂血症治療薬であるフィブレートによって体内時計の調節が可能であることを発見した。
 夜行性の齧歯(げっし)類であるマウスを明暗環境下で飼育した場合、通常その活動時間帯は夜間に限られている。このマウスに、フィブレートを餌とともに投与すると、活動時間帯が約3時間前進(早寝早起き)し、明期の後半から活動を始めるようになった。活動時間帯が後退(夜更かし朝寝坊型)する睡眠相後退症候群(DSPS)のモデルマウス(時計遺伝子の壊れたマウス)にフィブレートを投与したところ、活動時間帯の正常化が確認された。  フィブレートは核内受容体PPARαに特異的に結合することから、PPARαをターゲットとした新規な睡眠(リズム)障害治療薬や時差ぼけ改善薬などの開発につながるものと期待される。 



ナノ粒子を利用して反射防止機能付レンズの大量生産技術を開発 ( 2007/4/23 )
 産業技術総合研究所 近接場光応用工学研究センター スーパーレンズテクノロジー研究チーム 栗原 一真 研究員、中野 隆志 研究チーム長は、伊藤光学工業と共同で、東海精密工業の協力を得て、金属ナノ微粒子を利用して、ナノ構造による反射防止機能を付与したレンズの大量生産技術の開発に成功した。
 開発した反射防止機能付レンズ生産技術は、真空プロセスのみで形成したナノ粒子をマスクとして利用し、エッチング法によりナノ構造を付けた金型を作製する方法であり、複雑な形状の金型表面にも、反射防止機能を付与するナノ構造を作製することができる。また、本技術を用いて作製した金型は、射出成形に利用できるため、高性能レンズを大量生産することが可能になった。
 本技術を用いることにより、従来レンズの反射防止機能付与に必要であった多層膜をコーティングする工程が生産プロセスから無くなるため、レンズ単価の一層の低価格化が予想される。また、従来法では、実現できなかった曲率半径の小さいレンズ等の高性能化も期待でき、昨今需要の増しているコンパクトカメラやカメラ付き携帯電話への応用が見込まれる。



臨海副都心センターに「生命情報工学研究センター」を設立 ( 2007/4/3 )
 産業技術総合研究所は、バイオインフォマティクスを用いた創薬支援技術を中心とした産業技術開発のために、平成19年4月1日付けで産総研・臨海副都心センターに「生命情報工学研究センター」を設立した。
 産総研では平成13年度から臨海副都心センターを中心に、コンピュータを用いたゲノム情報解析やタンパク質立体構造予測などのバイオインフォマティクス研究を進めてきた。本研究センターでは、これらの研究を継承・発展させることで、より実用的な技術の開発を目指しており、コンピュータ上で分子設計や副作用予測などを効率よく行う創薬支援技術などを研究・開発する。



「新燃料自動車技術研究センター」設立 ( 2007/4/2 )
 産業技術総合研究所は、平成19年4月1日付けで産総研つくばセンターに「新燃料自動車技術研究センター」を設立した。エネルギー需要の急激な伸びと原油供給の不安が進むなか、運輸部門における技術革新は不可欠であり、産総研で自動車における新燃料の普及、省エネルギー化及び排出ガスの超クリーン化を統合的に研究する研究センターを設立した。
 本センターでは、産総研でこれまで行ってきた先駆的な個別技術を統合し、自動車業界や燃料業界等との密接な連携により総合的な技術開発を進めるとともに、新燃料の普及に不可欠な燃料規格や排出ガスの計測・評価方法の規格化・標準化を推進する。

http://www.aist.go.jp/aist_j/aistinfo/pamph_main.html
http://www.meti.go.jp/press/20060531004/20060531004.html


ダイヤモンドのエレクトロニクスの応用について ( 2007/3/20 )
 産総研ダイヤモンド研究センターの単結晶基板開発チーム 茶谷原昭義研究チーム長と杢野由明主任研究員は、ウェハ状の単結晶ダイヤモンドを大量製造できる技術を開発した。
 今回、産総研は成長面を変えながら気相成長する繰返し成長技術と、種結晶から板状に成長したダイヤモンドをロスなしに分離する技術とを組み合わせて、板状の大型単結晶ダイヤモンドの大量製造技術を開発した。



連携・協力協定を締結 ( 2007/3/9 )
 産総研と名古屋大学(以下「名大」)は、我が国の学術および産業技術の振興に寄与することを目指して、相互の研究開発能力および人材等の総合力を発揮し、協力が可能な全ての分野において、連携・協力を実施するための協定を、3月9日(金)産総研東京本部理事長室において調印した。
 本協定の下、名大と産総研は、共同研究を推進すると共に、研究施設・設備の相互利用を促進する。また、研究の交流を進め、人材育成に当たっては相互に支援を行う。
 当面は、名大「エコトピア科学研究所」ならびに「工学研究科」と産総研中部センターの間で、「環境」をキーワードとする低環境負荷製造技術、資源循環、環境浄化等の技術について社会科学的な視点を含めた議論を深め、我が国の産業を支える材料を基盤とするものづくりの分野において、それぞれの機関が持つ得意分野を活用しつつ協力して研究を推進する。

【 協定の内容 】
 ・我が国の学術および産業技術の振興に寄与
 ・共同研究の推進、研究施設・設備等の相互利用による戦略的研究拠点の構築、研究者の研究交流を含む相互交流、人材育成の推進および相互支援
 ・協定推進の戦略的な意志決定に関わる連携協議会、恒常的な情報交換と戦術的な方針決定に関わる連携推進会議を設置
 ・連携プロジェクトの選定と実施
 ・有効期間は単年度で双方合意の上更新



シリコン半導体デバイスの高集積化を可能にするイオン注入技術 ( 2007/3/5 )
 産業技術総合研究所 計測フロンティア研究部門 活性種計測技術研究グループ山本 和弘主任研究員と井藤 浩志主任研究員は、シリコン半導体の結晶性を低下させずに500eV以下の超低エネルギーでイオン注入する技術を開発し、表面から10nm以下の領域へのドーピングと低抵抗化を実現した。
 シリコンに異種元素をドーピングして電気特性を制御する場合には、数十keV以上のエネルギーでのイオン注入技術が用いられる。しかし、注入された領域が非晶質化するため、結晶構造を回復するための熱処理が必要である。この熱処理によってドーパントが熱拡散してしまうために、表面から浅い領域へのドーパントの導入は困難であった。将来のシリコン半導体製造技術では、高集積化のために、厚さ10nm以下の浅い領域にドーピングする技術が望まれており、今回の技術開発はそれに応えるものである。



DNAに作用するヒストンシャペロンTAF−Iβの構造・機能の関連性を発表 ( 2007/2/27 )
 DNAは核の中で単独に存在している訳ではなく、通常ヒストンと呼ばれる蛋白質に巻きついており、必要な時以外はむやみにその遺伝情報が読まれないようになっている。この構造をヌクレオソーム構造という。逆にDNA上にある遺伝情報が必要になると、ヒストンからDNAをはがすようにいろいろな蛋白質がヌクレオソームに働きかける。このような蛋白質をヒストンシャペロンと呼んでいる。
 今回の論文では、ヒストンシャペロンの一種であるTAF−Iβの構造を明らかにし、どのようにこの蛋白質がDNAとヒストンに働きかけるのか、それを知る大きな手がかりを報告している。
 また、このヒストンシャペロンTAF−Iβは、細胞の癌化に関与すると考えられている。つまり、この蛋白質が変異などの原因で正常に働かない場合、DNA上の必要な遺伝情報が得られず、細胞の機能に支障をきたし、癌化の要因になることが知られている。したがって、蛋白質TAF−Iβの構造やその振る舞いが明らかになれば、新しい癌治療薬の開発に結びつく可能性も大きい。



分子の構造変化の動画撮影に成功 ( 2007/2/23 )
 科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 総括実施型研究(ERATO)中村活性炭素クラスタープロジェクトのもと、研究総括である中村栄一 教授(東京大学)、末永和知 博士(産業技術総合研究所)と東京大学の磯部寛之 助教授の共同研究チームは、小さな有機分子の化学構造を透過型電子顕微鏡(TEM)により観察することに世界で初めて成功した。これまで誰も見たことのなかった分子の動きが約一分にわたる動画として記録された。この研究は、目にも留まらぬ速さで飛び回るハチ(分子)をガラスのチューブ(カーボンナノチューブ)に閉じこめて、ハチが羽根を震わせながら歩き回る様子を観察したようなものといえる。

http://www.sciencemag.jp/contribinfo/geneinfo.html


ナノ炭素材料に一重項酸素除去能を発見 ( 2007/2/9 )
 産業技術総合研究所ナノテクノロジー研究部門自己組織エレクトロニクスグループグループ長 片浦 弘道、柳 和宏研究員は、産総研ナノカーボン研究センター 岡崎 俊也主任研究員と共同で、各種ナノ炭素材料について、活性酸素の一種である一重項酸素の除去能を測定し、ナノ炭素材料のうち、高次フラーレンや金属内包フラーレンが一重項酸素を非常に高効率で除去することを発見した。
 産総研では、抗光酸化剤や予防医療などへの応用をめざし、関連技術をもつ企業の参画を求めている。

http://www.aist.go.jp/


層状マンガン鉱床の特徴を解明 ( 2007/2/8 )
 産業技術総合研究所 地圏資源環境研究部門 鉱物資源研究グループ 渡辺 寧研究グループ長、守山 武産総研特別研究員、村上 浩康研究員は、日本国内のマンガン鉱石の分析により、重希土類元素に富むマンガン鉱床の特徴を明らかにした。これによって、資源の確保が懸念されている重希土類元素の新たな供給源の探査が効率的に行えることが期待される。
 重希土類元素は、強力な希土類磁石原料として、さまざまな先端技術産業に用いられているが、中国の花崗岩風化型鉱床から独占的に生産されている。しかし、最近、生産量、輸出量とも制限されるようになり、その価格が急上昇し、わが国への希土類資源の安定供給が懸念されている。このような背景のもとジスプロシウム等の重希土類元素の新たな供給源が世界各地で探査されている。

http://www.aist.go.jp/


S−CNTの大量合成に成功 ( 2007/2/8 )
 産業技術総合研究所は7日、日本ゼオンと共同でスーパーグロース法を用いてA4判サイズの大面積ニッケル基板上に直接、大量の単層カーボンナノチューブ(S−CNT)を合成することに成功したと発表した。品質はシリコン基板上に合成されたものと同程度であり、世界最高レベルの高純度、高比表面積、長尺サイズを実現。
 S−CNTは基板上に垂直、均一に合成するとともに、高さ1ミリメートルの構造体をわずか十分程度の高速で堆積した。応用の決め手になるとされる基板に対して垂直に配向させた高速大量合成を可能にした。

http://www.aist.go.jp/
http://www.zeon.co.jp/


単層カーボンナノチューブの大量合成法を開発 ( 2007/2/7 )
 産業技術総合研究所ナノカーボン研究センターナノカーボンチーム 畠 賢治チーム長、平岡 樹産総研特別研究員および日本ゼオンは、共同で単層カーボンナノチューブの合成手法の一つであるスーパーグロース法を用いて、初めて大面積金属板上に直接大量の単層カーボンナノチューブを合成する技術を開発した。
 これまでスーパーグロース法は高価なシリコン基板を用いて単層カーボンナノチューブを合成していたが、今回、安価なニッケル合金基板上での合成に成功した。さらに、日本ゼオンと共同で、今回開発した技術を適用できる合成炉を設計・試作し、A4サイズの金属板の全面に均一な単層カーボンナノチューブ構造体を合成することに成功した。これは成長面積として従来の100倍のスケールアップであり、生産量はグラム単位である。
 今回の成果は、基板コストを従来の100分の1に抑えることができるもので、カーボンナノチューブの大面積・連続生産技術を開発する上でのキー技術であり、単層カーボンナノチューブの工業的量産への大きな礎となる。

http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2007/pr20070207/pr20070207.html


高純度のD−ホモセリンを製造 ( 2007/1/30 )
 産業技術総合研究所生物機能工学研究部門酵素開発研究グループ 宮崎 健太郎研究グループ長、望月 一哉主任研究員は、新たに発見した微生物を用い、D−ホモセリンの簡便かつ安価な製造法を開発した。
 原料であるDL−ホモセリンのなかのL−ホモセリンを選択的に除き、高純度のD−ホモセリンを製造することに成功した。DL−ホモセリンは安価(試薬として約600円/g)な(RS)−α−アミノ−γ−ブチロラクトンから容易に得られる。高純度のD−ホモセリン(試薬として約60,000円/g)は、製薬原料としての用途が見込まれるが、大量に生産することが難しく高価である。今回開発した製造法により、高純度のD−ホモセリンが安価に供給されるようになれば、これを構成要素とする新たな薬剤について開発の促進が期待できる。

http://www.aist.go.jp/


粒子の大きさがそろう球状の酸化セリウム/ポリマーハイブリッドナノ粒子の分散液を開発 ( 2007/1/25 )
 産業技術総合研究所と先進製造プロセス研究部門センサインテグレーション研究グループの伊豆 典哉 研究員および松原 一郎 研究グループ長は、ガスセンサ、UVカット化粧品などの様々な応用が考えられる、粒子の大きさがそろっている(粒度分布が狭い)球状の酸化セリウム/ポリマーハイブリッドナノ粒子の分散液を開発した。
 セリウムの金属塩および有機ポリマーのみを有機溶媒に溶かした均一溶液を20分間加熱するだけで、析出した酸化セリウム一次粒子が球状に集合し、その周りを有機ポリマーが被覆した構造を持つナノ粒子が溶液中に自己組織的に生成し、前述の分散液を作製することができた。
 今後、ナノ粒子の単分散性の向上や、更に粒径の小さいナノ粒子作製を目指すと共に、ナノ粒子の生成メカニズムの解明にも取り組む。今回の製造方法は、溶液を原料とするシンプルなプロセスであり、量産化が期待できる。また、酸化セリウムナノ粒子を被覆しているポリマー種を変化させることも可能である。これらの特徴を生かし、ガスセンサを始めとする様々な分野への応用を視野に入れた研究を進める。

http://www.aist.go.jp/


雰囲気ガスと水分子との「交換転移」を発見 ( 2007/1/22 )
 首都大学東京大学院理工学研究科の真庭 豊 助教授らと、産業技術総合研究所(以下「産総研」)ナノテクノロジー研究部門の片浦弘道 自己組織エレクトロニクスグループ長らは共同で、様々なガス雰囲気下における単層カーボンナノチューブ(SWCNT)内への水分子の吸着現象を明らかにし、雰囲気ガスと水分子との「交換転移」を発見した。

■KEK ニュース(2002.10.10リリース):世界最小の氷チューブ〜炭素分子の管で成型
  http://www.kek.jp/newskek/2002/sepoct/ice_nanotube.html
■産総研プレスリリース(2004.12.20):世界で初めて「室温」のアイスナノチューブを発見
  http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2004/pr20041220/pr20041220.html

http://www.aist.go.jp/


イネの遺伝子数を約32,000と推定 ( 2007/1/9 )
 (独)農業生物資源研究所は、産業技術総合研究所および大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所との3機関を中心とした国際共同プロジェクトRice Annotation Project(通称RAP)で、単子葉植物であるイネのゲノム全塩基配列上に存在する29,550の遺伝子の位置を決定し、これをもとにイネの遺伝子数は約32,000個と推定した。この数は、かつて約50,000個とも予想された数よりも小さく、ゲノムサイズがイネの約3分の1であるシロイヌナズナ(双子葉植物)の26,000〜27,000個に比べても極端に大きなものでないことを示している。
 また、イネゲノム上の遺伝子のうち28,540がタンパク質をつくる遺伝子である可能性を明らかにするとともに、それらのタンパク質の機能をコンピューターによる情報解析と専門家のデータ精査で推定した結果、19,969(およそ70%)の遺伝子の機能を説明することができた。これらの情報は、データベースとして公開している。
 

http://rapdb.dna.affrc.go.jp
http://rapdb.lab.nig.ac.jp/


次世代不揮発メモリーRRAMの実用化研究 ( 2006/12/12 )
 シャープは産業技術総合研究所と共同で、次世代不揮発メモリー・RRAM実用化の最大の課題である、データ書き込み・消去の超高速対応とメモリーサイズの小型化を両立できる新技術の確立に世界で初めて成功した。RRAMは金属酸化物で形成した膜の電気抵抗の変化を使ってデータを記録するメモリー。CMOS並みの数ボルトという低電圧で動作し、書き込み・消去も数十ナノ秒という超高速で行えるため次世代大容量メモリーとして研究が進んでいる。同社は「ハイビジョン放送などの録画に最適な大容量メモリーの実用化にめどをつけた」としており、今後、量産技術の確立を急ぎ2010年にもメモリーを完成させる見通しだ。

http://www.sharp.co.jp/


産総研つくばセンターに「糖鎖医工学研究センター」を設立 ( 2006/12/4 )
 産業技術総合研究所は、平成18年12月1日付けで産総研つくばセンターに「糖鎖医工学研究センター」を設立した。産総研ではこの5年来、糖鎖合成に関わるヒト糖鎖遺伝子の網羅的探索および糖鎖構造を迅速に解析するための基盤技術を世界に先駆けて開発し、糖鎖研究における国際的な中核研究機関としての地位を築きあげてきた。本研究センターはその技術を継承・発展させるために設立された。さらに、本研究センターは独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構が「健康安心プログラム」の一環として平成18年度より企業・大学・研究機関との共同で実施している「糖鎖機能活用技術開発」に参加している。

http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2006/pr20061204/pr20061204.html


MRIを高感度化するキセノンガスの高効率発生装置を開発 ( 2006/11/28 )
 産業技術総合研究所光技術研究部門は、東横化学と共同で、連続的に高効率で超偏極キセノンガスを生成できる新型の連続フロー型装置を開発し、既に製品化済の自動化された超偏極キセノンガス製造装置に組み込んで性能向上と小型化に成功した。
 これは以前に産総研が開発した連続フロー方式の超偏極キセノンガス生成技術を基に、医療用核磁気共鳴(NMR)への応用を目指して開発を行ってきたものである。小型化された装置であり、またフレキシブルなキャピラリーで核磁気共鳴装置に連結できるので、燃料電池などの多孔質材料のナノポア解析、超高感度の磁気共鳴画像診断装置(MRI)による医用計測技術などへの応用が期待される。

http://www.aist.go.jp/


形状デザイン可能なカーボンナノチューブ高密度固体を開発 ( 2006/11/27 )
 産業技術総合研究所ナノカーボン研究センターナノカーボンチームの畠 賢治 チーム長、Futaba Don主任研究員は、単層カーボンナノチューブの優れた物理・化学特性を保持したまま、配向高密度化した固体の開発に成功した。

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ディスプレーに応用可能な高純度二層カーボンナノチューブを開発 ( 2006/11/7 )
 産業技術総合研究所(以下「産総研」)ナノカーボン研究センターナノカーボンチーム 畠 賢治 チーム長、山田 健郎 研究員は、単層カーボンナノチューブの合成法の一つである水分添加CVD法(スーパーグロース法)を改良し、二層カーボンナノチューブを高含有率で合成する技術を開発した。二層カーボンナノチューブは、基板上から垂直に起立した形で成長し、2.2mmの高さの構造体を形成する。形成された構造体は85%以上と世界最高レベルの二層カーボンナノチューブ含有率を持つ。また、合成された二層カーボンナノチューブは高純度、長尺といった優れた特性をもつ。
 さらに、産総研と(株)ノリタケカンパニーリミテドは共同で、電界放出素子用の電極上に、二層カーボンナノチューブを直接成長させ、均一な電子放出特性を得ることに成功した。これは、二層カーボンナノチューブの電子放出特性を利用したディスプレイのキー技術であり、カーボンナノチューブディスプレイの開発を加速するものと考えられる。

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熱により電子の軌道ストライプの方向が変わる酸化物結晶の創出に成功 ( 2006/11/6 )
 JSTと産業技術総合研究所は、熱により電子の軌道ストライプ(電子密度分布が縞状に伸びた状態)の方向が変わる酸化物結晶を創り出すことに成功した。
 本研究で実現した軌道ストライプの方向の温度による制御は、世界で初めてのこと。軌道ストライプの回転が室温付近で生じることから、今回の発見は、電子のもつ軌道の配列の仕方を媒介としたエレクトロニクスに新たな道筋を開くものであると期待される。

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電気絶縁性と柔軟性を両立させた絶縁用樹脂を開発 ( 2006/10/31 )
 産業技術総合研究所と環境化学技術研究部門と高選択酸化技術連携研究体 佐藤一彦研究体長は、昭和電工と共同で電子部品の小型軽量化、高性能化、長寿命化に貢献する革新的な[絶縁保護膜用樹脂]を開発した。
 絶縁保護膜用樹脂は、大型液晶ディスプレイから携帯電話まであらゆる電子部品や配線の保護材料として使われている。これまでの製造技術では塩素化合物が不可欠であり、長期間の使用時に樹脂から塩化水素が発生して微細配線をショートさせ、絶縁性が損なわれるという問題点があった。これを防ぐために樹脂の耐熱性を上げると、材料の柔軟性が低下し、自由な形状の機器を実現するのに大きな支障となっていた。

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http://www.sdk.co.jp/


鋳型なしでRNAを合成する特殊なRNA合成酵素の反応機構を解明 ( 2006/10/16 )
 産業技術総合研究所(以下「産総研」)生物機能工学研究部門の富田 耕造研究グループ長と科学技術振興機構の濡木 理研究員(東京工業大学教授)らは鋳型なしでRNAを合成する特殊なRNA合成酵素の反応機構の全貌を明らかにした。
 細胞内でタンパク質が合成される際、アミノ酸を運んでくるtRNAという70−90塩基のRNA1本鎖があり、このRNA鎖の大部分はDNAを鋳型として合成されるが、tRNA末端にある3つの塩基配列CCAだけはCCA付加酵素というRNA合成酵素によって合成される。この酵素は鋳型なしで塩基配列CCAを合成するユニークな酵素であるが、そのメカニズムは謎であった。
 本研究は鋳型なしでRNA塩基配列を合成する酵素の全反応機構を世界ではじめて明らかにしたものである。これにより、鋳型なしで特定の塩基配列を合成できるRNA合成酵素の設計・開発、機能性タンパク質開発が可能になると期待される。

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細胞表層の特定の場所に特定タンパク質を留める新機構を解明 ( 2006/10/11 )
 産業技術総合研究所(以下「産総研」)糖鎖工学研究センター糖鎖生合成チーム 地神 芳文研究チーム長、横尾 岳彦主任研究員、梅村 真理子テクニカルスタッフ および(独)日本学術振興会 藤田 盛久特別研究員は、細胞表層の特定の場所に特定のタンパク質を正しく輸送し留めるための新たなメカニズムを発見した。
 細胞膜にあるべきタンパク質を細胞膜の正しい位置に繋ぎ留めておく機構の一つに、GPIアンカーという、碇の役割をする糖脂質がある。GPIアンカーで繋ぎ留められたタンパク質(GPIアンカー型タンパク質)は、細胞表層におけるシグナル伝達などに重要な役割を果たしている。シグナル伝達の異常は、発がんと密接な関係がある。この研究では、タンパク質に結合したGPIアンカーの脂質部分を合成する新たな遺伝子を発見し、この遺伝子が異常になると、GPIアンカー型タンパク質が細胞表層のあるべき特定の領域に存在できなくなることを示した。
 この現象は発がんのメカニズムにも関与していることから、がんの早期発見や治療に道を開くものと期待される。

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心理特性を組み込んだ色彩の快適度計測器を開発 ( 2006/10/5 )
 産業技術総合研究所(以下「産総研」)人間福祉医工学研究部門アクセシブルデザイン研究グループ 佐川 賢グループ長とアドバンストシステムズ(株)瀧澤 惣一、斎藤 建雄らは共同で、日常の色彩環境に対する人間の心理的快適度を評価できる計測機器を開発した。
 今回開発された計測機器は、デジタルカメラで任意の色彩環境を撮影し、画像の色彩分析を行って、その環境を見た時の快適度を推定し、ディスプレイ画面に表示するものである。また、ディスプレイ画面上で、画面の色調を変化させることより快適な色彩環境への設計指針を得ることもできる。  

http://www.aist.go.jp/


大きさ1〜数100マイクロメートルの中空マイクロカプセル製造に成功 ( 2006/10/4 )
 産業技術総合研究所(以下「産総研」)エネルギー技術研究部門竹村 文男 主任研究員と東京大学 新領域創成科学研究科 大宮司 啓文 助教授は共同で、1〜数100μmの大きさを持つ中空マイクロカプセルの製造に成功した。
 これまで中空マイクロカプセルは液体を内包したマイクロカプセル内の液体を排除するかあるいは熱を加えて膨張させることで内部を空洞化していたが、産総研と東大は、液体中に発生させたマイクロバブルの周囲に、表面での重合反応等によって、厚さ数百nm(ナノメートル)〜数μmの殻を生成させる方法を開発した。この方法により、1〜数100μmの大きさを持つマイクロバブルとほぼ同一サイズの中空カプセルを、簡便に製造することができる。
 マイクロカプセルの殻の材料としては、一般の高分子やポリ乳酸などの生分解性高分子を使用できる。殻物質が生分解性の場合、体内へ導入することもできることから血管の造影剤としての応用も可能である。また、殻の密封性が高いことから、局所的に酸素が必要な場合での酸素デリバリー用カプセルとしての応用も可能である。



高精度のタンパク質disorder領域予測法を開発 ( 2006/8/8 )
 ファルマデザインは、産業技術総合研究所生命情報科学研究センター タンパク質機能チーム 野口 保研究チーム長らと共同で、従来の予測精度を超えるタンパク質disorder領域(ある特定の立体構造をとらない領域)の予測法の開発に成功した。これにより、X線結晶解析やNMRなどによるタンパク質の立体構造解析をはじめ、様々な実験の効率化が可能になる。
 タンパク質は立体構造を形成し、その立体構造の特徴により、他の分子と相互作用することによって、機能を発揮すると考えられている。従来から知られていた、ある特定の立体構造を形成しない領域(disorder領域: natively unfoldedとも呼ばれる)の中に、近年、機能発現に関与する領域があることが実験的に明らかになった。さらに、このような領域は高等生物に特に多く見られる傾向があることがわかってきまた。それらは、転写調節に関するタンパク質やDNA結合タンパク質に多く存在することが示唆されている。Disorder領域と機能の関係を明らかにすることが、タンパク質の機能理解する上で重要になってきている。
 また、disorder領域は、X線結晶解析やNMRによるタンパク質立体構造解析において、結晶化やスペクトルの帰属の妨げになるため、disorder領域予測法の開発も近年活発になった。
 ファルマデザインでは、現在開発中の創薬支援用のペプチドライブラリの新しいバージョン(本年12月上市予定)に、このdisorder領域予測の利用を予定している。

http://mbs.cbrc.jp/poodle


組織的連携・協力に関する協定を締結 ( 2006/5/23 )
 産業技術総合研究所と九州大学は、研究開発及び人材育成などに係わる相互協力が可能なすべての分野において、相互の連携・協力に関する協定を締結した。互恵の精神に基づき具体的な連携・協力を効果的に実施することにより、我が国の学術及び産業技術の振興に寄与することをめざす。
 産総研と九州大との間では、これまで、主としてエネルギー、標準・計測、ナノテクノロジー・材料、ライフサイエンスなどの先端.・基礎分野における研究協力を実施してきた。また人材育成では、大学院総合理工学府と連携大学院の制度により、若手研究者や技術者の育成と学生に対する教育を推進してきた。



環境残留性と生体蓄積性が高い有機フッ素化合物「PFOS」を亜臨界水+鉄粉で分解 ( 2006/2/21 )
 独立行政法人 産業技術総合研究所 環境管理技術研究部門の未規制物質研究グループ長(堀 久男)らは、環境残留性や生体蓄積性が高い「PFOS」(パーフルオロオクタンスルホン酸)とその関連物質を、フッ化物イオン(F−)まで高効率に分解する方法の開発に成功した。
 有機フッ素化合物は耐熱性や耐薬品性に優れた材料。しかし環境水や野生生物中の存在が明らかになり効果的な廃棄物対策が望まれている。PFOSは、地球規模での環境残留性および生体蓄積性が明らかとなり、長期毒性の疑いもある。PFOSは濃硫酸中で煮沸しても分解しないなど、非常に安定な物質という。
 産総研は、PFOSを含む水に鉄粉を加え、250〜350℃の亜臨界水の状態にすることでフッ化物イオンまで高効率に分解させることに成功した。フッ化物イオンの処理法を確立した。



医薬中間体の生産に有用な多段衝突型マイクロリアクターの開発に成功 ( 2006/1/20 )
 産業技術総合研究所 環境化学技術研究部門 分子触媒グループ 宮沢 哲 主任研究員は、大阪有機化学工業と共同で医薬中間体の生産に有用な多段衝突型マイクロリアクターの開発に成功した。
 本マイクロリアクターは幅、深さ200マイクロメートル(μm)の溝(マイクロチャンネル)が多数有り、内部で反応溶液を多段衝突させる構造になっており、2種類の反応溶液をマイクロリアクターに流すだけで十分なミキシングを達成するとともに化学反応を完結させることができる。さらに、超低温(−70℃以下)を必要とした合成反応を−30℃で行うこと可能にした。具体的には、水素化イソブチルアルミニウムという試薬を用いて種々のエステル類から種々の医薬中間原料であるアルデヒド類を高速、高選択的かつ低環境負荷で生産する事ができたという。
特色など
・機能性化学品生産プロセスとして期待されているマイクロリアクターを開発 
・省スペース、低環境負荷、高速、高選択的な化学合成プロセスを実現 
・迅速な少量多品種生産が実現できるようになり、精密化学品産業の競争力強化に貢献



『臨床バイオインフォマティクス研究施設』が完成 ( 2004/2/27 )
 産業技術総合研究所では、平成14年度補正予算によって、つくばセンター・つくば中央第4事業所内4階に「臨床バイオインフォマティクス研究施設(クリーンルーム、質量分析機器を始めプロテオミクス解析システム、トランスクリプトーム解析システム及び解析用クラスタシステム)」の整備を進め、2月27日に竣工致した。
 本施設で実施する主な研究は、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「バイオ・IT融合機器開発プロジェクトのもとで採択された「ゲノム・プロテオームをベースとしたプロファイル診断システムの研究開発(平成15〜17年度)」。
 本研究開発は、臨床情報とともに収集された少量の血液や脳脊髄液のハイスループット解析により、がん、虚血性心疾患、妊娠中毒症、肝細胞機能障害および脳機能障害等の病態と連動して変動するタンパク質・遺伝子バイオマーカーの発見をめざす。関連した臨床と基礎研究を密接な連携の基に展開することで、疾病の迅速で、信頼できる早期診断支援システムの開発を行う。我が国における最初の本格的な産学官共同プロテオミックス研究であり、臨床と恒常性基礎研究が密接に連携した本格的臨床バイオインフォマティクス研究は世界でもこれが始めて。
 実施体制としては、臨床バイオインフォマティクス研究施設の完成によって、産業技術総合研究所・年齢軸生命工学研究センター、筑波大学、MCBインフォマティクス、島津製作所、三井情報開発が参加して、「臨床バイオインフォマティクス研究イニシアティブ( Clinical Bioinformatics Research Initiative,CBIRI )」を構成する。



ミサイルドラッグ用DDSナノ粒子の作製に成功 ( 2003/11/13 )
 産業技術総合研究所 ナノテクノロジー研究部門と大阪大学医学部眼科学教室(教授 田野 保雄)のグループは、炎症性疾患治療用アクティブ・ターゲティングを可能にする糖鎖導入型のDDSナノ粒子を作製した。世界で初めて。そして、炎症性疾患モデルとしての眼炎症モデルマウスを作成して、この標的指向性DDSナノ粒子が炎症疾患組織へ標的分子としてのレクチンを利用して疾患部位選択的にアクティブ・ターゲティングされることを実証した。
 本技術開発によって、炎症性疾患全般(脳炎、網脈絡膜炎、肺炎、肝炎、関節炎など)、続発的に炎症を引き起こす疾患(悪性腫瘍、リウマチ、脳梗塞、糖尿病、アルツハイマー病など)の治療に応用可能なDDS製剤開発を加速する。



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